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けれどつい本音が零れ落ちた。
「どうして待っているのか、私にもわからない。――ただ、さみしい。また会いに行くって約束したのに……あの人は来ない」
桜の咲く季節に必ず会いに行く。
その言葉だけを胸に、リサはここにいる。
「あの人は、来ないのだろうか? それとも私を忘れてしまったのだろうか?」
リサの薄い桃色のワンピースの裾が風に揺れる。
軽く結ってあった髪もその風でほどけて、黒い髪は背中を覆った。
その風は桜の木々の間を吹き抜け、桜は一斉に泣いた。
「リサ、泣かないで。ただすれ違っているだけで、忘れていないよ」
涙に濡れたリサの頬を、彼はハンカチで拭う。
そしてそのハンカチをそのまま、リサへ手渡した。
ハンカチの感触、香り、桜の和柄。何かがリサにうったえかける。
「リサが泣いたら、僕は悲しい。『また会いに来る』って言ったよ。君が忘れても僕は何度でも最初からやり直す。泣かないで。君が逝ったとしても僕は何度でもここへ来るよ。この桜はとても美しい」
洋一の言葉が、あの人の声と重なった。
まさかそんな……。
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