4人が本棚に入れています
本棚に追加
***
桜の季節が訪れる。
私は枝の先を見つめ、記憶をたどる。
記憶に残るのは微かな約束。
『また会いに来る』
幼い私の記憶は曖昧で、いつの約束だったか思い出せない。
ただ、大切な約束だった気がしたから、桜の木の下に来ていた。
「こんにちは、桜はもう少しだね。君はここで何をしているの?」
背後から男性の声がした。
「――約束した人を待っているの」
驚いた幼女の、か細い声が空気を震わせる。そんな幼女を安心させるように大人の男性は、柔らかくほほ笑んだ。
「そうなんだ。僕は洋一、桜が好きなんだ。桜は美しいね」
「私は理沙っていうの」
最初のコメントを投稿しよう!