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俺ぁしかめっ面で返したよ。だって、そうだろ? ウチは爺の代から続く、老舗のラーメン屋なんだから。何十年も地元に根づいて、変わらない味を守ってきた。それがどうだい、季節限定メニューだ?
「あるわけねぇだろ、そんなもん。明日も朝練で早ぇんだろ、さっさと食っちまえ」
「……っ、そんなだから」
いつもは淡白に終わるはずの話だが、日和は母親似の顔を曇らせて、それでも食い下がってきやがった。物怖じしない性格なのは、誰譲りなのかね。
「そんなだから、古いって言われるんでしょ!」
聞き捨てならねぇ台詞を言われ、俺ぁ眉間を狭めた。さすがの跳ねっ返りも顔を背ける。
「ああ? 誰だ、んなこと言う奴は。高校の友達か」
「だ、誰だっていいじゃない。今時、何年もメニューが変わらない店なんて無いよ」
「馬鹿言え、ウチはラーメン屋だ。余所とは違ぇんだよ。ラーメン一筋でお前を育てたんだ、滅多なことは言うもんじゃねぇ」
「わかってる。だけど、私だって悔しいじゃない!」
日和の震わせた声に、はっと顔を向ける。気の強さだけが取り柄みてぇな娘が、目元を湿らせ、下唇を噛んでいやがった。
「……私の友達ね? お菓子屋さんの子なんだって。いつも自慢気に話すの。次の新メニューはどうだとか、旬を使わないお店は潰れちゃう、とか」
「ほんとに友達なのか、そいつは」
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