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「私がラーメン屋の娘だってことは隠してるから。悪気は無いんだよ、きっと。だけどね、そういう話を聞くと周りの友達は笑って、私だけ笑えないの」
俺ぁそういう気持ちになったことはねぇ。爺から継いだ店は誇りに思ってる。ダチに隠すようなこともしねぇし、目の前で貶されたなら殴ってんだろうよ。
だが、日和は……俺とは違う。周りの目も気にするだろう。ラーメン屋って看板を、女の子が意気揚々と話すとも思えねぇ。
俺ぁ足りない頭で少しだけ考えて、勢いよく膝を打った。日和は鼻をすすって、顔を上げる。
「おし、わかった! じゃあこうしよう。その何だ、季節限定メニュー? そいつを作れたら、お前は満足するんだな」
「う、うん」と頷く日和。信じられないものでも見たような面しやがって。そんなに意外だったのかい。
「はん、いいぜ。作ってやろうじゃねぇか。ただし!」
と、人差し指を立てる。
「もし作れたら、一年後は店の手伝いをすること――で、どうだ」
日和は不思議そうに首を傾けた。
「どうして来年なの?」
「バカ、今年は受験だろうが。お前には俺の分まで大学に行ってもらわにゃあ、明日那に怒られちまうからな。そん代わり、晴れて大学生になったらウチの手伝いだ。いいな」
「……もし作れなかったら?」
「そん時は、まあ、あれだ、好きな物でも買ってやるよ」
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