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「本当に? 最新機種のスマホでも?」
うっ、と言葉を呑みそうになる。確かありゃあ一月分の家賃ぐらいだった気が。
「男に二言はねぇ!」
「……ふぅん、適当なの作っても駄目だからね。ちゃんと美味しいのじゃないと」
「当たり前ぇだ。ウチの品書きに載せんだ、中途半端なもんは作らねぇよ」
さっきまで暗かったのが嘘みてぇに小さく笑って、日和は「わかった」と呟いた。その目には、いつもの男勝りな負けん気が見て取れた。
「それじゃあ約束。期限は……そうね、近所の桜が散るまでで。期待してるから、お父ちゃん」
「おう、任せときな! 友達にだって自慢できるもん、作ってやるからよ!」
さあ、大きく出たぞ。
こうなったら野となれ山となれ、だ。
後先考えねぇ、引くに引けねぇ勝負を、俺ぁすることになった。
▼△2▼△
その翌日、店じまいを済ませた俺ぁ、一人で頭を抱えていた。厨房にだけ明かりを点けて、油で汚れた紙とペンを睨んでいる。
「なんにも思い付かねぇ!」
季節限定、季節の限定って何だ。悔しがる娘の手前、大見得を切ったものの……これといった策があるわけでもねぇ。
そりゃ俺だって飲食店の端くれだ、春らしい食べ物には心当たりがある。
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