花よりサクラーメン

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 けどよ、ウチはラーメン屋なんだぜ。場違いな物を出せばいいってもんじゃない。そんな看板に泥を塗るような真似、爺が聞いたら雷でも落ちてきそうだ。 「七草、かぶ、キャベツ、ごぼう、つくし、山菜、たけのこ、しいたけ……」  山で採れる食材を並べてみたが、どうするよ。いっそチャーハンにでも混ぜるか? いんや、ありきたりだ。合う合わない以前に、完成してるもんに混ぜる必要がねぇや。  ラーメンにしても、食材がメインになるようなことがねぇんなら、そもそも季節限定で作る意味が無くなっちまう。単なる付け合せ程度じゃ、日和の奴ぁ納得しないだろう。  そうなると、俺に出来るのは――創作ラーメンだ。  麺とスープ、その二つで季節感を出すしかねぇ。 「あじ、しらす、たい、わかさぎ、さわら、初がつお、かれい……」 「さっきから何ぶつぶつ言ってるの?」  降って()いた声に振り返ると、日和が冷めた目で俺を見てやがった。風呂上りの寝巻姿で、うっすらと汗ばんでいる。  俺ぁ正面に向き直って、腕を組んだ。 「新しい品書きだよ。旬な食材を探してんだ。春らしい奴をな」 「ちゃんと考えてるんだ。そんな風に悩むお父ちゃん、初めて見たかも」 「お前から言い出したことじゃねぇか。その場限りじゃ男らしくねぇし、約束は守るさ」  そうだ、と俺ぁ(ひざ)を打ち、日和の知恵を借りることにした。     
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