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 柳の下にはどじょうがいる。そうでなければ、幽霊がいる。  では、桜の樹の下には、何がいるのだろうか。  そんなくだらない事を考えながら、私はベンチに積もった花びらを手のひらで払い、腰を下ろす。  冬の寒気も鳴りを潜めて桜が咲き誇る春が来たのはいいものの、就職浪人と化した私の心は依然として凍えている。バイト先のファストフード店は、私の「就活に失敗したのでもうしばらくここでお世話になります」という言葉に「慣れている子が続けてくれるのは助かる」と言ってくれたが、そんな事を言われて諸手を挙げて喜べるほど、私もポジティブではない。 「……はぁ」  ため息が漏れる。自動販売機で買った缶の紅茶は冷たく甘ったるい。どうにか一気に飲み干したものの、紅茶はお腹の底に溜まった憂鬱を溶かしてはくれなかった。では何故買ってしまったのかと言えば、春の陽気で火照った体に冷たい飲み物を入れたかったからなのだが。  不意に、ひゅう、と風が鳴った。  足元で散らばっていた桜の花びらが渦を巻きながら地面を転がる。当然、私の隣にどけられていた花びらたちも巻き上げられて、私にぶつかってくる。  数枚、吹き散らされた桜色の破片が私の顔に当たり、咄嗟に目を閉じた。不快でもなければ快くもない、薄く化粧をした顔を柔らかく撫でられる感触。  数秒ほど瞼の裏を見つめ続け、風が止んだところで目を開ける。 「ねえ、お姉さん」  隣から聞こえた声に驚き、危うく缶を取り落としそうになった。  いつの間に、と言っても私が風に目を閉じている間しかないのだが、私の隣には、中学生くらいの女の子が座っていた。  綺麗な子だった。肌は透き通るように白く、唇は桜色。  着ているブレザーは学校の制服に見えるが、一度も見たことがないので、この辺りの学校のものではないことは確かである。春風に揺れるチェックのスカートは、校則をきっちりと守っていそうな長さで膝を隠している。
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