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ああ、やっぱりずるい。
ここにきて、こんなに優しくされたら、堪えられない。
蓮の瞳から、大粒の涙がポロポロと溢れ出した。
慶太郎の指が、優しく髪を梳く。
「…ちょっと…やめ…て…よ。人前で…泣く…とか…やだ…」
堪えても堪えても零れ落ちてくる涙を蓮は手の甲で拭った。
「…触んない…でよぉ…」
ただ黙って、慶太郎は蓮の頭を撫でていた。
左手で頬杖をついて、右手で優しく撫でている。
「触るなってば…バカ慶太郎」
潤んだ瞳で蓮は慶太郎を睨んだ。
頭を撫でる慶太郎の手を取ると、もう頭を撫でなることのないようにしっかりと両手で握って、蓮は自分の膝の上に置いた。
慶太郎は、ははっと可笑しそうに笑った。
「本当蓮って面白いな。…俺が触るのはダメだけど、蓮が俺の手を握るのはいいの?」
蓮は自分の手の中にある慶太郎の手を見た。
手首と同じように、ゴツゴツと大きくて。
でも、長くてキレイな指と整った爪。
慶太郎の手が、包み込むように蓮の手を握った。
「蓮の手ってちっちゃいなー」
蓮の手を握ったその親指で、手の平をそっと撫でた。
突然のその動作に、まるでいたずらが見つかった子供のように、蓮の心臓はドキドキと脈打っていた。
慶太郎を見上げると。
まるで、その反応を楽しむかのような瞳で蓮を見つめていた。
蓮は咄嗟に慶太郎の手を払いのけると、席を立ち上がった。
席に座る慶太郎を見下ろす格好になって、今までと立場が逆転したような気がした。
でも、慶太郎の顔を見る事は出来なかった。
「お手洗い行ってくる」
目も合わせずに、赤い顔のまま蓮は席を離れた。
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