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茜が私と喋らなくなって、早、三ヶ月が経つ。原因は私にある。茜に自分の心が女であると、カミングアウトしたのだ。私が最後に聞いた、茜の言葉は、何を言っているの? だった。
茜と私の出会いは、茜が大学生の時だった。私が赴任した高校に教育実習生として茜が来た。その時は同じ数学の教師として数回、声をかけた程度だったが、数年後、立派な高校教師となった茜と勉強会で再開し、連絡をとるようになった。その時、私はすでに不惑を過ぎていたが独身で、教頭から早く結婚しろと、突かれていた。多感な年頃の少女を持つ親の中には、独身の男性教師を心良く思わない人間も多い。今なら問題になりそうなほどのプレッシャーを受け、私は唯一、親しくしていた茜にアプローチをし、ファザコンの気のある茜も年上の私に気を許してくれ、結婚したのだ。
子供には恵まれなかったが、お互い仕事にやりがいを感じていたので、天が自分の子供ではなく生徒たちに愛情を注げと言っているんだね、と笑い合えた。
一足先に私が定年となり、一人で家にいる時間が出来た。茜はバリバリ働いているので、今まで茜任せだった家事を引き受けることにした。はじめは、あまりの重労働に、仕事と家事を両立していた茜のすごさに、感心するばかりだった。しばらくするとコツみたいなものがわかってきて、余裕が出来てきた。そんな時に、心がときめいたのだ。
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