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あれは、洗濯物を畳んでいる時だった。その日は洗濯日和で、太陽の匂いのする洗濯物に、私は満足していた。畳み方も板についてきて、ピシッと長方形に整えた洗濯物を積んでいく快感に身を委ねていた。自分の下着を畳み終え、次に、襟がフリルになった茜のブラウスを手に取った。ポリエステルの安物だが、淡いピンク色が上品で、茜が好んで着ている物だ。
袖ぐりを摘んで持ち上げると、私は無意識に自分の身体に当てていた。脂肪のついた胸板が淡いピンク色で隠れると、お腹の底から何かが渦巻きながら脳天に駆け抜けた。今思えば、あれが生命力というものだったのかも知れない。私はいてもたってもいられなくて、茜のブラウスを当てたまま、しばらく部屋の中を右往左往した。
私はどうかなってしまったのか。定年後に今までの疲れがどっと出て、病気になる人は多いと聞く。いや病気なら、こんなに力がみなぎるはずがない。とにかく私は、茜のブラウスに引き寄せられるように、袖を通した。姿見の前に立つと、なんとも無様な人間がいた。シミだらけのたるんだ皮膚、だらしない身体。そんな男が淡いピンク色のブラウスを着ているのは、醜悪そのものだ。それなのに私は、これが本当の自分なのだと、理解してしまった。私は背骨の抜けたイカのように、ぐにゃぐにゃになって床に崩れ落ちた。
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