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トランスジェンダーの知識はあった。担任ではなかったが教え子の中に、その治療をしている子がいて、その子は女の子であったが、スカートの制服を嫌って、いつもジャージ姿だった。きちんとした医師の診断書もあったので、学校側はプールの授業を免除したり、男言葉を使うことを許したり、当時としては出来る範囲の対応をしていた。本人も芯のしっかりした子で堂々としており、イジメなども起こらず、私もその子と関わるにあたって、一般的な知識を学んだ程度だった。ただ、小柄な可愛らしい女の子が、雄々しく振る舞う姿を見て、痛々しい気持ちを抱いたことを、覚えている。
私は、なんてバカだったのだろう。今ようやく彼女、いや彼の気持ちがわかった。痛々しいなんてとんでもない。彼にとって、スカートを履き女らしく振る舞う日々のほうが、生きる力も湧かない、虚しい日々だっただろう。男として生きることを許されて、ようやく生きる力がみなぎったのだ。
私は視界の端に茜の下着を見つけると、這って手を伸ばし、洗いすぎて形の崩れたブラジャーを取った。欲情とは違う興奮が、私の顔を熱くする。私は元々、性に消極的で、茜には草食男子のはしりね、とよく言われていた。結婚して数年が経ち、子供を諦めた頃から夫婦生活はない。しかし、どの夫婦もそんなもんだろう、と思っていた。
茜のブラジャーを握りしめ、私は逡巡した。ほぼ確信はしていたが、生来の生真面目さが働いて、はっきりと答えを出さないといけない気持ちになった。申し訳ないと思ったが、茜の部屋に入り、下着からストッキングまで、一通り持ちだすと、姿見の前に戻り、全部身につけた。
ああ、これが本当の私だ。
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