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男の格好なら、年相応の弛みがあっても貫禄がついていると見られ、好印象を持たれることが多かった。それに比べ、姿見の中の私は、ただの悪ふざけにしか見えないだろう。自分でも、そう思う。けれど、足の裏から煙のように身体に充満する温かさ。今まで、入っていた余分な力が全て抜けた、安楽感。これが、自然体というものなのか。 それからは、毎日インターネットで、トランスジェンダーについて知識を得て、もう埃一つほどの間違いもないと、改めて確信した。 はじめは、こっそり茜の洋服や化粧品を借りていたが、すぐに自分の物が欲しくなった。有難いことに現代では、ネット通販で簡単に、女性物の服や化粧品を購入できる。茜が出勤すると、すぐに女の姿に戻り、茜の帰るメールを見て男の姿になる、という日々を過ごした。 そもそも、ホルモンバランスが崩れる歳なので、ホルモン注射や性転換手術は考えなかった。そうなると戸籍は男のままだが、社会から引退した身なので、さほど気になることもない。女に戻れるだけで、満足だった。しかし、日中だけ女に戻るにも限界があった。一番は、外に出られなくなった。ご近所さんに見られたら、茜にバレてしまう。いや、バレてもいい、むしろカミングアウトすべきでないかと、思い至ったのは半年が過ぎた頃だった。 茜に拒絶されるのが怖くて、今まで黙ってきたが、それこそ、茜に嘘をついているのと同じではないか。茜とは人生のパートナーとして、このまま一緒に暮らしたいが、茜を欺いたままで、良いはずがない。     
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