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茜が、お気に入りの小花柄のワンピースを着て部屋を出て来たので、デパートに出かけるのだと直ぐにわかった。茜はデパートには必ずワンピースを着て行くと決めていて、それは新婚から二十年間、変わっていない。茜は職業柄、コンサバティブな服を着る機会が多く、華やかな服は二枚あるワンピースしかない。私は茜のワンピース姿が大好きで、よく用もないのにデパートに誘っていた。 「私も一緒に行って良いかな?」 リビングを通り抜け、玄関先で靴を履いている茜の背中に声をかけるが、返事はない。私は、慌てて自分の部屋からショルダーバッグを持って来ると、グレーのハイヒールを履き、玄関扉の向こうに消えた茜を追って飛び出した。 茜は大通りにあるバス停に立っていた。茜の前に、抱っこ紐で赤ん坊を抱えた母親が一人いて、茜が母親の肩越しに赤ん坊を覗き、微笑んでいた。私が茜の後ろに並ぶと、赤ん坊が泣き出し、母親が身体を揺らしながら、なだめはじめた。茜は、私の気配を背中で察したはずだが、振り返りもしなかった。     
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