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ユークレストは自分がいたときとは打って変わっていて、街は賑やかで、軒並みたくさんの店が並んでいた。
ふらふらと店を見て回りながら街を進んで行くと大きな建物にたどり着く。
門の横の看板に書かれた文字を見るに学校らしく、しんと静まり返っていた。
ここに人間の子どもたちが…とぼんやり見上げていると、鐘が鳴りたくさんの人が建物から出てくる。
危ない、と門の横に避けしばらく観察しているとカケルが数人の友人らしき人たちと楽しげに出てくるのが目に入った。
なんだ、いるじゃないですか、と去ろうとしたその時だった。
センチェルスがその視界に入ったのかカケルは名前を呼びながら駆け寄ってくる。
「迎えに来てくれたのか!? 嬉しいなぁ……!」
「別にそんなつもりじゃ……」
「なぁなぁ一緒に帰ろ?センチェルス!」
「はいはい。そちらの友人方はいいんですか?」
「ん! センチェルスと一緒に帰る!」
「そうですか」
「ほら、行こうぜ! センチェルス!」
行こう行こうと一緒に出てきた友人らしき人たちを放置してカケルはセンチェルスの手を引きその場をあとにする。
その後もカケルはセンチェルス手を握ったまま家路をたどっていた。
「センチェルス、センチェルス!」
「はいはい、なんですか、カケル」
「なぁ、センチェルスは学校行かないのか?」
「学校? ああ、貴方が出てきたあの建物ですか。興味はないですね。大抵のことはわかりますし」
「まじで!? じゃあさ! 勉強教えてくれよ! オレ馬鹿だからさ、先生の言ってること全然わかんねぇんだ!」
「……誇らしげに言わないでください。まったく……。私が教えられることなんて限られてますよ。それでもいいんですね?」
「おう! これでまたセンチェルスと一緒の時間が増えて嬉しいよ!」
本当にこの子は依存症なんだなと少々呆れながらセンチェルスはカケルと共に帰宅した。
帰宅してからセンチェルスはカケルに勉強を教え始めたが、飲み込みの悪いカケルはなんでなんでを繰り返す。
なんとかわかりやすい例えを探そうとするも思い当たらず。
やって見せても首を傾げるだけでセンチェルスは頭を抱えた。
「わっかんねぇ……」
「ですから、この数式はこの公式を使えば解けるんですよ。この数字をここに当てはめていけば。こんな簡単なことなのにどうしてわからないんですか」
「わかんねぇんだもん。こんなにたくさん公式があってもどこにどう使えばいいのかそんなパッと思い出せないんだってば」
「なるほど……。まぁ学校で習うものなんて普通に暮らす分にはそうそう使うものじゃないですし、そんな真剣に勉強しなくてもいんじゃないですか?」
「だって……お前頭いいし……。馬鹿なままじゃ一緒にいられなくなりそうで……」
「はぁ……。別にいいんですよ。貴方は別に私と同等にならなくても。なれるわけがないんですから」
「センチェルス……」
「いいですね、カケル。私と友人でいたいのなら、私の言葉に従いなさい」
「センチェルスの……言葉……?」
「そう。いいですね? 貴方は私より賢くなくていい。私の言うとおりにさえしてればいいんです。わかりますね? カケルはいい子ですから」
ね?とカケルの目を見て言い聞かせるように告げるとカケルは小さく頷く。
そして一緒にいる……とぎゅっとセンチェルスに抱きつき安心したように息をつく。
そんなカケルの頭を撫でながらいい子ですね、と褒めると嬉しそうに笑って見上げてくる。
センチェルスはエルザークが自分にそうしてくれたように自分からカケルに褒美のキスを与える。
「ん、…っはぁ、せ、んちぇ、るす……?」
「カケル、貴方の性格上、きっと誰かに依存しなければ生きていけないのでしょう? ならば私に依存なさい。ちゃんと私の言うことが聞けるのであれば、ですが」
「……! い、いいの、か……? オレきっと、沢山センチェルスに迷惑かけるかもしれないのに……?」
「そうですね……。ではこうしましょう。私との約束を書き記しなさい。そしてそれを遵守できるのであれば、私に依存するなりなんなり好きにしても構いません。よろしいですね?」
「わかった……!」
泣きそうな表情が一変しカケルは机の引き出しから未使用のノートを取り出す。
そこにセンチェルスから言われる通りのことを書き記していく。
告げられたセンチェルスとの約束5箇条はカケルにとってはそんなことでいいのか?と思うほどのもので。
これだけでいいの?と問いかけるとこれだけでいいですと笑いかけてくれるからカケルも頷くしかなくて。
「さて、その5箇条、守るためにはまずしなくてはならないことがありますがわかりますか?」
「しなきゃならないこと……? んと……」
記された5箇条を見返しながらそれを考えるカケル。
うーんうーんとカケルなりに考えてもなにをどうしたらいいかわからず、センチェルスに助けを求める。
やはりわかりませんか、と苦笑すると書かれた5箇条の1つ、【自分が感知できる範囲の場所に必ずいる事】を指差す。
「感知できる範囲の場所……?」
「例えばですよ? ここから学校の距離では貴方を感知することが出来ないんです。遠いですからねぇ。かといってあそこの辺りには見た限り時間の潰せそうな場所はない。ここまでいえばわかりますか?」
「……あ! オレが親父にセンチェルスが学校行けるように説得する!」
「正解です。さ、そうと決まればさっさと行きましょう、カケル」
嬉しそうに笑うカケルを連れ、セフィがいる部屋へノックも無しに入るとさっそくさっきの話を切り出す。
最初はこんな危険人物を行かせるわけにはいかないと渋っていたセフィも、カケルがそれだとセンチェルスが友達をやめてしまうと項垂れたのを見て渋々納得してくれる。
その話が終わると何か思い出したようにカケルはセンチェルスの何が危険人物なんだとセフィに問うが言葉を濁らせてしまう。
そんな彼を見てセンチェルスに再び同じ質問を投げかけるも、そのうちわかりますよと言われるだけで。
納得のいかないカケルに約束5箇条を思い出しなさいと言葉をかける。
「センチェルスとの約束5箇条……」
「第二条」
「……あ、無理にセンチェルスのことを詮索しない……?」
「そうです。どうせいつかわかるのですから詮索は無しです」
「……わかった……」
仕方ないと項垂れるカケルの頭を撫でながらそういうことなので、とセフィに意味ありげに笑いかけると部屋を出ていき、自分達の部屋へ戻っていく。
部屋に着いてもカケルの機嫌は直らず、ずっとむすっとベッドに座ったまま寝ようとしない。
話しかけてもずっと黙ったままで、これが彼なりの抵抗なのかと呆れたようにため息をつくと、彼の目線に合わせるように膝をつく。
「そんなに私のことが知りたいんですか?」
「……当たり前だろ……」
「今話したところで貴方の頭では到底理解し難いと思いますが?」
「……」
「……はぁ。では、ひとつだけ。私の秘密をお教え致しましょう」
「センチェルスの……秘密……?」
「ええ」
どんな秘密……?と尋ねてくるカケルの耳元でセンチェルスは自分の事を一つだけ教える。
“私はこの時代の者ではない、もっと前から来たんですよ”と。
その言葉に驚いたかのように目を丸くするカケルに秘密ですよ?と笑いかける。
本当なのか……?と真偽を問うてくるカケルに信じるかは任せますと彼をベッドから下ろし、その中へ入って寝てしまう。
取り残されたカケルは一瞬考えるも、センチェルスが嘘をつくはずがないと納得し、わかったと隣に入ると背を向けたまま眠るセンチェルスにしがみつき眠りについた。
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