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それから数日後。
「家の事情で今日から転入してまいりました、暁 聖夜と申します。皆さん、よろしくお願いします」
セフィの助力とセンチェルスの術とでなんとか学校に行けるようになり、カケルと同じクラスで学校へ通うようになった。
前の晩にカケルの歴史の教科書を見せてもらい、そこに暗黒時代の事が書かれていたのを発見したセンチェルスからの願いで学校での名前はセンチェルス・ノルフェーズから捨て去った名前の暁 聖夜にしてもらった。
隣の席になったセンチェルスはカケルに学校では聖夜と呼びなさいと命令し、それになかなか頷かない彼に二人きりの時はセンチェルスで構わないと付け足すと笑顔で受け入れた。
転入初日というのもあるのか、センチェルスの容姿はやはり目を惹くものらしく遠巻きに女子生徒からの熱い視線が向けられ、男子生徒からの冷ややかな視線も同時に向けられる。
そんな中でもカケルは相変わらずセンチェルスにべったりくっついていて。
その様子を見た男子たちは何かを察したようにセンチェルスへ向ける視線を変えた。
「当たり、というわけですね」
「どうしたんだ? セン……あ、聖夜……?」
「徐々に慣れていきなさい。カケル。貴方はいい子だから出来るでしょう?」
「ん! オレ出来る!」
「はいはい」
ぽんぽんと頭を撫でると幸せそうに笑うカケル。
そんな彼を見て周りの男子はホッとした様子を見せる。
この子の依存症は本当なんだと思わせるように。
その内にその男子たちの中の一人が疲れきったようにセンチェルスたちに話しかけてきて。
そんな彼にカケルは何事もなかったように元気に声をかけるがその彼は引き攣ったように笑うだけで、その様子を見たセンチェルスは恐らくこの子が前の依存相手なのだろうと察した。
「イツキー! やっと学校来れたんだな! 心配してたんだぞ? オレ、また何かしちゃったかなって、ずっと心配してたんだからな!」
「あ、ああ……。ごめんな、カケル……。ちょっと具合、悪くて、さ……」
「そうなのか? 無理はするなよ? イツキ? 何かあればオレ何でもするから!」
「ああ……」
「イツキさん、もう大丈夫ですよ。この子は私が貰い受けますから。どうか安心して学校に来てくださいな」
大丈夫ですからとイツキと呼ばれた彼に耳打ちするとカケルを連れ教室を出る。
校内を案内してもらっている最中、カケルはさっきのあれ、どういう意味だ?と聞いてくるがなんでもないですよと彼の額にキスをして黙らせる。
従順になりつつあるカケルはわかったとそれ以上の詮索はしてこなかった。
「で、ここが保健室! 体調悪くなったり怪我したりしたらここにくると手当してくれる!保健の先生めっちゃ美人なお姉さんなんだ!」
「そうなんですか」
「あ、でも! センチェルスのほうが綺麗だよ!」
「こら。カケル。ここではその名前はやめなさいと言ったでしょう?」
「だ、だって周りに誰もいないし……いいかなって……。ごめん……」
軽く小突くと申し訳なさそうに項垂れるカケルに今回だけですよ?と小突いたところを撫でる。
へへと嬉しそうに笑う彼を連れて一応、と保健室内へと入っていく。
室内は異様に薬品臭く、そこにいるはずの保健医の姿が見当たらない。
これはまずいと感じたセンチェルスはカケルを一旦保健室の外で待たせ扉に鍵をかけ、室内を警戒するように見回る。
そしてふと視界に入った小瓶の蓋が空いていることに気づき匂いの原因はこれかと近くに投げ捨ててあった蓋を締めると再び辺りを見渡しながら耳を澄ませる。
すると奥の方から女の楽しそうな笑い声が聞こえ、こっちかとベッドの奥のへ歩みを進めると、静かにその扉を開け中の様子を伺う。
そこには白衣を着た赤茶のロングヘアーの女がここの生徒に馬乗りになり、その左手に持つ試験管の中身をどうにかしようとしていて。
「ねぇーいいでしょー? ねぇー? 体調悪いんでしょー? このお薬飲めばきっとすぐによくなる?かもしれないからさー、ねー?はーい、お口アーンしてー?」
「……ーーっ!! っ!!」
「ん? あれー? 貴方はだぁれー? 新顔さんだねー?」
「貴女は……まさか……」
だーれ?と気味の悪い笑みを浮かべたまま振り返る彼女の何かに気づいたのかセンチェルスは手元に杖を出現させ生徒に馬乗りになっている彼女の胸ぐらを掴み、三日月の刃を首元へとあてがう。
その隙を狙い生徒は逃げ出し、それを見ていた彼女は残念そうに声を漏らす。
「せーっかくいい実験体見つけたぁーと思ったのにぃー」
「貴女はまさか……ハニカ・システィの子孫か……!?」
「えー? ハニカはあたしのご先祖様よぉ? そういうあなたはーあれー? なんだっけ? えーっとー……」
「センチェルス・ノルフェーズですよ。魔王エルザークの従者の」
「あーあー、そうそうーセンチェルスー! ご先祖様から聞いてるー。消えちゃったーって人でしょー? あ! わかったー! キミがほしいのはーこれだ!」
そう言って白衣のポケットから出したのはセフィが持っていたのと同じ皮袋で。
それを渡しなさいと告げるもただでは渡さないーと笑うだけで。
こいつもかと床に投げ捨てると何が望みなのかを問いかける。
すると彼女はさっきの子を連れてきたら渡すと返答。
わかったとセンチェルスは保健室を出るとカケルと共に彼女に言われた人物を探し回る。
「なぁ……保健室でなにかあったんだ……?」
「ハニカの頼みを聞くのは癪に障りますが、仕方ない……」
「なぁ、聖夜……」
「いいから貴方は逃げてったあれを探しなさい」
「……わかった……」
「……見つけたらご褒美あげますから、ね?」
「ご褒美……? なんでも……?」
「ええ。なんでも」
「わかった!!」
探してくる!!と廊下をかけていくカケルを見送ると彼が見つけてくれるだろうと一足先に保健室の前へ向かう。
暫くして案の定カケルは逃げ出した彼を探し出し連れてきた。
彼は最初カケルと談笑していたが、保健室に近づくにつれ、その表情は恐怖へと一変して。
センチェルスの元に来る頃には顔面蒼白になっていた。
「聖夜! 連れてきた! これでいい?」
「上出来です。カケル、褒美はまたあとで。ここで待てますね?」
「はーい」
行ってらっしゃいーと見送るカケルを置いていき、連れてきた彼を連れて保健室ヘ入る。
部屋の薬品臭さは少し残るもののだいぶ和らいでおり、これなら大丈夫かと奥の部屋にいる彼女の元へ。
震える彼を引きずり込みそのまま彼女の元へ投げ渡す。
「ほら、これでいいでしょう?」
「ふふ、ありがとー。さすがー仕事が早いわねぇー。ね、試しにこれ、この子に飲ませてみない?」
「私が何故そんなことを……」
「これねー、あたしが作った特製のお薬なんだけどー、どうなるか知らないのよねぇー。だから具合悪いー、って来たこの子に飲ませようとしたんだけど逃げられちゃってー」
「だから? なんです?」
「ね、どんな反応示すか見てみたくないー? ま。あたしがやってるのを見てるのも楽しいと思うけどー、きっと、自分でやったほうが楽しいと思うなぁー。綺麗な顔が苦痛に歪む表情は近くで見たほうがぞくぞくするもの」
「……どうでもいいです。それより早くそれを私に……」
「これやらなきゃ渡さなーい」
だーめーと彼女はその男子に馬乗りになると皮袋をポケットにしまうと液体の入った試験管をセンチェルスに差し出す。
楽しいことしよ?と笑う彼女にため息をつきセンチェルスはその試験管を受け取ると彼女に変わってその男子に跨り、頭を押さえつけるとやめろと叫ぶその口に液体を流し込み、無理矢理に飲み込まさせる。
瞬間、液体を飲まされた男子は体中が痒いとのたうちまわりだす。
そのうちその男子は落ち着きを取り戻したようにその場に蹲り呼吸を繰り返していて。
ふんふんと彼女はその様子を何かに記していて、それが終わると興味が薄れたように皮袋をセンチェルスに投げ渡し、帰っていいよーと部屋を出ていく。
センチェルスはといえば、その皮袋を制服のポケットに仕舞い込み、このまま騒がれては後々面倒だと彼の時をここに来るまでに戻し、保健室から追い出しカケルと共に教室に戻るように指示をする。
これ以上ここにいると危険だと忠告して。
「まったく……私にこんなことをさせてどういうつもりですか、システィ」
「リリィ。あたしの名前はリリィ・システィ。ご先祖様はハニカ・システィ、貴女の大事な主を封印する手助けをした魔術師よー。ま、魔力はほとんど残ってないんだけどねぇー」
「質問に答えなさい。リリィ・システィ」
「はーい。ただ興味が唆られただけー。それにーほんとにあのセンチェルス・ノルフェーズなのか、確かめたかったっていうのもあるけどー。弱い人間を前にした貴方がどんな表情を見せるのかなーって」
「そんなことで……。まったく、悪趣味ですね」
「そー? あたしは、楽しいー。保健室はあたしの大好きな薬品の匂いで居心地いいしー、実験所時代を思い出すなーって」
実験所?と首を傾げると、興味ある?!と目を輝かせてリリィは引き出しから何冊かのパンフレットを取り出し机の上に出す。
その中から一冊手に取りぺらぺらと目を通し、興味ありませんね、と保健室を後にしようとする。
「えーー、ノルフェーズくんならー合うと思うのになー」
「興味ありませんよ、人体実験なんて。大体何故この私が人間共の発展のためにそんなことをしなきゃならないんですか、馬鹿馬鹿しい」
「べつに人間たちの発展のためーって感じじゃなくてもいいんじゃないー? あたしだって楽しそうだから入りましたーってそれで合格だったもんー。それにノルフェーズくん人間じゃないしー、人間が成しえなかった異種血液移植実験とかで別の種族作っちゃったりしそうで楽しそうなんだもーん」
「別の種族?」
そ、と語りだすのはリリィが実験所にいたときの話で。
そこでは人間に捕らえてきた動物や異形者の血液を移植し、人間に異能の力を目覚めさせようとしていたという。
しかしそれは成功することなくみんな死んでいったという。
それを貴方ならきっとできる!と言い張り強く養成所への入所を勧めてきた。
断るのも面倒になってきたセンチェルスは軽く流し考えときますと保健室を後にした。
教室に戻るとすぐに授業が始まりカケルたちの日常が始まる。
教壇に立つ先生が教えることはセンチェルスにとっては全て知り得ていることばかりで退屈な時間が何時間も続く。
そんな彼の隣でカケルは眠たいのかうとうととしながら授業を聞いていて。
眠くもなりますよねと微笑ましく見ているとその視線に気づいたのかカケルは寝てないぞ!と言わんばかりにこちらを見てくる。
「ねぇ、カケル。これからの時間割とかありますか?」
「時間割? ん、と……ちょっと待ってな……。……あった、はい。そんなもん見てどうするんだ?」
「少し……ね」
カケルから受け取った時間割に目を通し、歴史のところに赤いペンで丸をつけてカケルに返すとその時間だけ授業に出ませんからと告げる。
なんで?と首を傾げるカケルにその内わかりますよとだけ言ってそのまま寝てしまう。
しかし案の定先生に起こされてしまい、これもお決まりのように黒板の問題を解けと言われ、面倒臭いとぼやきながらセンチェルスはその問題を解き、席に戻るとまた寝てしまう。
黒板に書かれた解答は全て正解でそれ以上なにも言えなくなってしまった先生は悔しそうな顔をして席を離れていく。
そんなこんなでセンチェルスの初登校は無事に終わり、二人は家へと帰っていった。
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