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学校に通い始めて一ヶ月ほどが経った頃。
いつもの通り保健室で歴史の授業をサボり、リリィに勧められるがまま養成所に行く為の勉強をさせられていた。
最初のうちはまったく興味がなく、強制されていたが、勉強が進むうちに自ら進んでリリィに聞くようになっていて。
そんな毎日が続いてたある日。
授業終了のチャイムが鳴り、そろそろカケルが来るかなと待っていたセンチェルスの元に来たのは何か信じられないようなものを見たようなカケルで。
どうかしました?と声をかけると恐る恐るカケルはセンチェルスに歩み寄り、意を決したように口を開いた。
お前は何者なんだ、と。
「何者もなにも、私は私ですよ」
「今日、歴史の授業で二千年前に起こった暗黒史をやったんだ。……そこに、お前と……センチェルスと同じ名前と同じ顔の写真が載ってて……」
「あー……ついにそこまでいきましたか」
「なぁ、別人、なんだよ、な? この教科書に載ってるセンチェルスと……お前は……」
「同一人物ですよ」
「うそ、だ……。だって、二千年前、だぞ……? 暗黒時代は…」
「それに書いてあったでしょう? 魔王エルザークの従者センチェルス・ノルフェーズは魔王の術によってその場から姿を消したと。私がその時飛ばされたのは時空間と呼ばれる場所で、そこを漂う内にこの時代へと流れ着いたんですよ」
「でも、でも……っ」
「事実ですよ。故に私はその歴史の授業には出ないと言ったんですよ。何も知らない人間たちが書き綴った歴史なんて知りたくありませんでしたから」
それでも信じようとしないカケルに仕方ないと元の姿に一時的に戻るためにチョーカーを外すと魔力を練り、一瞬だけ元の姿に戻って見せる。
これで信じていただけました?とカケルに告げると再び手に持ったそれを自らの首にはめて学生服の姿へと変わった。
「貴方も一度見てるでしょう? 私がセフィに拾われたあの時に」
「そうだけど……。でも、ほんとに……あの、センチェルス、なんだな……?」
「ええ」
「ま、信じられないのも仕方ないわよねー、この時代にまさかあの魔王から寵愛を受けていた姫がいるなんてー、誰も思いはしないものー」
「リリィ先生も知ってたのか!?」
「知ってるも何も、あたしハニカの子孫だしぃ?」
「隻眼の魔女ハニカの……?」
「そして貴方も、その子孫の一人ですよ。まぁ、力を引き継いでいるのは貴方のお父様、ですが」
「オレも……?」
「そう。私にあの忌まわしい時停止の宝玉を押し付けたレイズ・ライドの子孫、それが貴方とセフィの正体ですよ」
これが事実ですよとつけつけられた事柄にカケルは信じられないとその場にしゃがみこむ。
そんなカケルに歩み寄り、しゃがみこむとそれでも私に依存し続けますか?それとも……と問いかける。
その問いにカケルはすべてを聞き終わる前には捨てないでくれとセンチェルスにしがみついた。
その答えがわかっていたようにセンチェルスはカケルを優しく抱きしめ、それならこの事実を受け入れなさいと命じる。
「センチェルス……」
「だから言ったでしょう? 私に深く干渉すると貴方が傷つくと。しかしもう貴方は私無しでは生きていけない、私に依存しなければもう終わりなのですから」
「オレは……」
「そうでしょう? クラスの男子に依存をし続け、精神を崩壊させ続けた貴方に私以外に友人がいますか? 貴方の側にいてくれるそんな心優しい友人が」
「そ、れは……」
いない、と受け入れたくないのか口を閉ざすカケルにセンチェルスはそっと離れると彼の目をまっすぐ見つめるように顎をつかみ除きこむと現実を突きつける。
「答えはノー。いないんですよ。誰も貴方を友人だと思ってなどいない。彼らはきっとこう思っているはずです。あー、厄介なやつが自分たちから離れてくれた、これで自分たちは平和に過ごせると。ね? つまり、貴方には私しかいないんです。だから私と共にいたいなら受け入れなさい。この事実を。いい子で賢い貴方なら出来るでしょう? だって誰一人、私のように自分の傍にいてもいいなんて言ってくれる人なんていなかったのですから。私に捨てられたら貴方は……」
「い、いやだ……!! 捨てないで……!! お願い……! オレ、なんでもするから!! センチェルスの言う事ならなんでも聞くから……、だからお願い……っ、オレを……捨てないで……っ、独りにしないで……っ」
彼が矢継ぎ早にそう告げると完全に堕ちたカケルは泣きながらそう訴え始める。
そんなカケルにそれでいいんですよとキスをすると泣きじゃくる彼を抱きしめ、よしよしと背中を撫でる。
やだやだ、捨てないでとまるで幼い子供のように泣きじゃくる彼にずっと傍にいますから、安心なさいと繰り返しながら宥めていた。
暫くして泣き止み疲れ果てたのか眠ったカケルを保健室のベッドに寝かせ、座ると眠る彼の手を握りながら大丈夫ですからねと言い聞かせていた。
「これがマインド・コントロールかー。天使の作ったそれは効力を失くしているのねぇ」
「まぁ、カケルに関してはこの一ヶ月、私に堕ちてくるように周りの環境を操作してましたからね。もう少しかかるかと思いましたが……。案外簡単に堕ちるものですね。やはり縋るものが無くなるという恐怖は絶大なようです」
「ま、それでカケルくんが幸せならいいんじゃないー? でも彼、養成所連れてくのー?」
「ええ。もちろん。まだまだ役に立ってもらいますよ。せっかく初めて出来た人間の“友人”ですから」
「そー。ならノルフェーズくんも頑張らなきゃねー。付き人付の入所は成績一位の者のみが許された特権だからねー」
「わかってますよ」
続けましょうとセンチェルスは脱いだ服を眠るカケルにそっとかけると勉強を再開させた。
陽も暮れた頃。
やっと目を覚ましたカケルはセンチェルスの勉強が一段落するまで掛けられた彼のブレザーを抱き締めながらベッドに座っていた。
時折センチェルスに言われた事が余程嬉しかったのか思い出し笑いしながら、早く自分を構ってくれる時間が来るのを待つ。
暫くして、リリィの今日はここまでといった言葉が聞こえてきてベッドから立ち上がると、センチェルスの元に駆け寄っていく。
「センチェルス、終わった?」
「ええ。今日は終わりです。一緒に帰りましょうか、カケル」
「ん! 帰ろ! センチェルス!」
「あらあらー、まるで主にじゃれつく仔犬ね、カケルくん。じゃ、ノルフェーズくん、また明日」
「はい」
「あ! オレ、荷物教室! すぐ取ってくるから待っててくれるか……?」
「ええ。ここで待ってますよ、カケル」
わかった!と保健室を出たカケルの全力で走る足音を聞きながら一息つき彼が帰ってきたらすぐに帰れるようにと準備を始めながらリリィと話を続ける。
「それで、話を戻しますよ、リリィ。ウォーリアの一族の居場所はご存知ですか?」
「さぁ? あたしは知らないわ。それにあたしだって貴方に会うまですっかり忘れてたもの。その水晶の存在。いつもポケットに入ってるなーくらいにしか思ってなかったしー」
「そうですか……。時停止の宝玉もウォーリアが?」
「ええ。そのはず。あたしもライドも持ってないならウォーリアが管理してるはず。んー、まぁでも……これだけ貴方の周りに貴方に因縁のある人たちが集まってるのだから意外に近くにいたりしてね?」
「はぁ……。そうだといいのですが……。今の所なんの手掛かりも無しとは……」
「まぁウォーリアが封印士の家系だから仕方ないしー? 魔王が封じられた場所の管理も最後の鍵も宝玉も彼にお願いしたみたいだしねー。あたしもこれ以上はなーんもできないー」
「封印士……ですか……。やれやれ……」
無闇に探しても損するだけですねと肩を竦めてため息をつく。
そこへお待たせー!と元気よく帰ってきたカケルを連れらセンチェルスはその場を後にした。
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