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その帰り道。
センチェルスは少しだけ自分の事をカケルに話した。
歴史の教科書には載っていないセンチェルスだけが知り得る話を。
自分がこうしていられるのはエルザークのおかげなのだと。
そして自分は死ぬ事も老いることも出来ない存在なのだとカケルに告げると、それでも私といたいですか?と問いかける。
その問いにさえカケルは即答で頷き、センチェルスの腕に自分の腕を絡ませ、幸せそうに微笑んだ。
まるで愛しい者を手に入れたと言わんばかりに。
「オレ、センチェルスの言う事ならなんでも聞くから。だから傍において……?な?」
「なるほど。例えば貴方に私が死ねと命じても従うと言うのですね?」
「ん。それがセンチェルスの望みなら、センチェルスが望む方法でオレは死ぬよ」
「そうですか。歪んでますね、貴方。普通はそんなこと出来ないと言うものじゃないんですか?」
「普通がよくわかんねぇけど、オレはセンチェルスと一緒にいる為ならなんだってしたいんだ。だって、やっとオレを受け入れてくれる人が現れたんだ。そいつの役に立ちたいって思うのはいけないこと?」
「時と場合によりますね。まぁ、いいでしょう。貴方が私に叛かない限り私の傍にいる事を許可しますよ」
そんな会話をしているうちに家についた二人はそのまま自分たちの部屋へと向かう。
セフィがいない事を確認しセンチェルスは早速カケルに命じる。
セフィに黒水晶を私に返すようにお願いしてほしいと。
カケルは素直に頷き帰ってきたら頼んでみると約束する。
「なぁ、センチェルス……。もしこのお願いが通ったら……その……オレのお願い……聞いてくれたり……する……?」
「貴方の願い? まぁ、願いの内容にもよりますが、いいでしょう。言ってみなさい」
「あの……その……、オレ……えっ、と……なんて言ったらいいんだろ……。えっと……その、あの……あれ、あれだ。証が、ほしい……」
「証? 何の証が欲しいんです?」
ベッドに座りながらそう話しているとカケルは言いづらそうに言葉を濁す。
何の証が欲しいかわかっているにも関わらずセンチェルスはそう尋ね、カケルの言葉で言わせようと誘導する。
カケルはそんなセンチェルスにどうにか伝えようと悩み、どう言っていいかわからなくなったのか彼に抱きつきその唇に自分の唇を重ねた。
「あの……オレ……、オレがセンチェルスに依存してもいいって証がほしいんだ……っ。オレ、もうやなんだよ……っ。捨てられるの……もう耐えられない……っ」
「なるほど……。どんな証がご希望で?」
「消えないのがいい。ずっと残る証がほしい……! お願い……センチェルス……っ!」
「なるほど。考えておきましょう」
「ほんとか……!? 嬉しい……。オレ、頑張るから……!」
はいはいとそんなやりとりをしているとセフィが帰ってきた音が聞こえ、カケルは一目散に彼の元へと駆けていく。
センチェルスはそんなカケルの後を追いかけ部屋を出た。
彼が部屋を出たときには既にカケルはセフィに黒水晶を返すようにお願いを始めていて。
一体何が起こったのか把握できないセフィはカケルに問いかけるが彼はただ、それがないとまた一人になってしまうと訴えていて。
どういうことだと部屋から出てきたセンチェルスに聞くが彼はただ言葉の通りですよ?と笑うだけ。
「センチェルス、お前、カケルになにしやがった」
「何も? ただ黒水晶を返すようにお願いをしてくれれば貴方の望みを叶えますよ? と言っただけです」
「マインド・コントロールか……っ」
「いいえ。確かにその能力はありますが、そんなもの使わずともカケルは既に私無しでは生きていけなくなってましたから」
「やっぱカケルと同室にしたのは間違いだったか……っ。くそ……、おい、カケル……! これはまだあいつに渡す訳にはいかねぇんだよ……!」
「そんな意地悪しないでよ……! 親父……! それがないとオレ……っ、センチェルスに捨てられちゃうかもしれないんだ……! だからそれオレに渡して……!」
「だめだって……っ、言ってんだろ……っ」
「カケル。それ取り戻さないと私はこの家から出ていきますよ。残念ですねぇ、貴方はまた独りぼっちだ」
「……っ!! や、やだ!! いやだいやだ!! あぁ――――ッ!!」
センチェルスの言葉に泣き出したカケルはセフィをその場に押し倒しその手に持っている皮袋を取り上げるとそのままセンチェルスにそれを渡してしまう。
いい子ですねとその皮袋を受け取るとカケルを自分に抱き寄せ勝ち誇ったように笑う。
「システィとライドからの黒水晶は揃った。あとはウォーリアから受け取ればおしまいですね。さて、セフィ。ウォーリアの居場所はご存知で?」
「知らねぇよ。例え知ってても教えねぇ」
「そうですか。ではウォーリアが見つかるまでの間、ここに居させてもらうとしましょう。その方がカケルも喜びますし、ね?」
「センチェルス……てめぇ……っ。言ったよな? カケルに何かしやがったら許さねぇって」
「ええ。そうですね。ここは貴方の家でもありますし、何が望みです?」
「カケルを元に戻せ。そいつの依存症は今迄もあったがそんな風になったことは一度もない。お前が何かしたんだろう?」
「ですから、私は何もしてないと言っているでしょう? ただこの子に私との約束を守れるなら依存しても構いませんよと告げただけです」
ね?と抱き寄せられ幸せそうに笑うカケルに声をかけるとうんと頷いてくれる。
その様子にセフィは信じられないと身構える。
やれやれと肩を竦めたセンチェルスは手元に杖を出現させ臨戦態勢に入った。
「センチェルス……? 親父……? どうしたの……?」
「貴方のお父様は貴方が私に操られていると思っているようなのです。違うと言っているのに聞く耳すらないので」
「操られている? オレが? なんで? オレ、操られてなんかないよ? センチェルスが約束を守ればずっと傍にいてもいいって許してくれたからこうしているだけだって」
「カケル、お前は操られている側だからそう感じないだけだ。惑わされるな」
「違うって親父。オレは本当に操られてなんかないんだよ。オレはオレの意思でセンチェルスの傍にいるんだ」
違う違うとカケルはセンチェルスから離れると二人の間に入りセフィを説得するように言葉を続けた。
自分がセンチェルスと一緒にいられてどれだけ幸せなのかを訴え続けた。
カケルの言葉が嘘偽りでないことを感じたのかセフィは悔しそうにしながらもそれを受け入れるしかなくて。
セフィに戦意がないことを感じたセンチェルスは杖を消し、部屋へと戻っていく。
「カケル、センチェルスとどんな約束をしたんだ?」
「そんな難しいことじゃないと、思う……。んとね……センチェルスが俺がいるってわかる範囲にいることと、センチェルスのことあんまり聞かないことと、嘘をつかないことと、センチェルスのいうことをちゃんと聞く事と、あまり外でセンチェルスの名前を呼ばないこと、だったかな、確か。だからオレ、お外ではちゃんと聖夜って呼ぶように努力してる最中なんだ!」
「そうか……」
「だから、その、センチェルスのこと追い出さないで……?」
「……暫くは様子を見る。お前もセンチェルスに酷いことされたら俺に言うんだぞ?」
「ん! わかった!」
嬉しそうに笑うカケルにとりあえずは大丈夫そうだと悟ったセフィは夕飯の手伝いをお願いする。
今日こそ作った料理を食べてもらおうな?と言い聞かせながら。
そんな会話を聞きながらセンチェルスは床に座り込み杖を立てると自分の周辺にウォーリアらしき封印士の魔力はないかと探り始める。
けれど、探れど探れど辺りに封印士どころかなんの魔力も感じられず、この辺りにはいないことが手に取るようにわかってしまい、少し出掛ける必要があるか……と部屋を出る。
そこへ夕飯を手伝っていたカケルが駆け寄ってきて、どこにいくんだ……?と不安そうに尋ねてくる。
そんな彼に少し出掛けてきますと言い残し玄関へ向かった。
「センチェルス……あの……、あのな……よければその……」
「……夕飯までには帰りますよ。カケル」
「……! ご飯一緒に食べてくれるのか……!?」
「ここに居座る以上仕方ないでしょう。我慢します。ただし」
「ただし……? なんだ……? オレ、センチェルスと一緒にご飯食べられるならなんでもする!」
「私、辛いもの苦手なんです。それを考慮して作りなさい。でなければ食べません」
「辛いもの……? んと、カレーとか?」
「ええ。いいですね? カケル。一緒に食べてほしければセフィにもそう伝えなさい」
「ん! わかった! 伝えとく! センチェルスとご飯食べたいし……! あ、引き止めてごめんな……! 行ってらっしゃい!」
「行ってきます、カケル」
お玉を握ったまま追いかけてきたカケルにそう言い残すと辺りの散策へと出ていった。
そんなセンチェルスを見送り、やっと一緒にご飯が食べられると歓喜したカケルはセフィの元へと駆け寄っていくとセンチェルスに言われたことを伝える。
生意気だなと不貞腐れるセフィに構わずカケルは今日の夕飯に彼が苦手なものがないかを確認し、辛いものは無さそうだと一通り確認し、再び夕飯の手伝いを再開する。
暫くして辺りの散策を終えたセンチェルスが帰宅すると三人での初めての夕飯が始まった。
夕飯も終わり一足先に寝支度を終えたセンチェルスは真っ暗な部屋の中、窓から夜空を見上げながらこれからの事を模索していた。
このまま闇雲に探してもどうしようもない。
かといってじっとしている訳にもいかない。
封印士に関する何かしらの本があればそれを読むのが一番かとため息をつく。
「センチェルス……? どうした……?」
「あ、いえ。なんでもないですよ。ほら、カケル、隣にいらっしゃい」
ぽんぽんと自分に招くとそっとカケルを抱き寄せその額にキスをする。
されるがままになっているカケルはただセンチェルスに身を委ねていて。
何も聞かずただセンチェルスにされるがままになっている彼に貴方のおかげですよと微笑みかけるとセンチェルスは服のポケットに入れたままの袋を取り出しその中身をカケルの手首へ巻き付けた。
「綺麗だなこれ……。でもなんでいきなり……」
「貴方が言ったんでしょう? 依存してもいいって証が欲しいと。辺りを散策してて目に入ったので貴方にと買ってきたんですよ。人間はこういう贈り物に非常に弱いと聞いてましたけど、どうなんです?」
「これが証……。オレ、めちゃくちゃ嬉しい……。これ……本当にもらっていいのか……?」
「貴方に貰ってもらわなくて誰に貰って貰うのです? いらないならいいですけど」
「い、いる!! ほんとにオレ、お前の傍にいていいんだな……っ! めっちゃ嬉しい……」
手首につけられた銀のブレスレットを大事そうに抱き、嬉しそうに笑うカケルにつられてセンチェルスも笑う。
大事にするからと満面の笑みのカケルにはいはいと苦笑しセンチェルスはベッドに入ってしまう。
それを見てオレも!と隣に入ると背を向けるセンチェルスにしがみつき眠りにつく。
「ほんとに、健気で素直でいい子ですね、カケルは」
「その健気で素直でいい子なカケルをどうしようっていうんだ、センチェルス」
「どう、とは?」
静かに、だけども何かしたら殺すと言わんばかりな雰囲気を漂わせ入ってきたセフィは問いただすようにゆっくりと言葉を紡ぐ。
センチェルスはそれに振り返ることなく余裕の表情で言葉遊びのように返答をする。
それがセフィの気を逆撫でしていることも知った上での返答で。
「質問を変えようか? センチェルス。俺の大事な息子を魔王の生贄になんて考えてねぇだろうな?」
「エルザーク様復活に必要なのは貴方達が持つ黒水晶のみ。人間の命など捧げる必要などないのです」
「じゃあ何を企んでやがる? 俺は確かにこいつの友達になってくれとは言った。が、ここまで深い仲になれとは一言も言っていない。カケルに何かしたんじゃなけりゃクラス全員に何かしやがったんじゃねぇか?」
セフィの問いにご名答と言わんばかりに笑うセンチェルスはやっと振り返ったかとおもうと眠るカケルを抱き締め、よしよしと頭を撫でながら言葉を紡ぐ。
「少し興味があったんですよ。依存症の彼が誰に依存させてもらうことも出来ず、挙句クラスや学校の全員から孤立したらどうなってしまうのか。まぁ結果はご覧の通り、この子は私に堕ちてくるしかなくなったわけですが」
「んなことでカケルの有らぬ噂まで流したのか、お前は」
「あーあ、カケルが自分が依存してしまった人を精神的に追い詰めて病院送りにしてしまった、とか、売春してる、とかですか?」
「ああ」
「概ね真実でしょう? あのイツキって子も先日退院下ばかりだと、同じクラスの男子から聞きました。私が嘘偽りだけで彼をここまで堕とせるわけがないじゃないですか」
「いや、お前ならやりかねない」
信用ないですねと苦笑しセンチェルスは言葉を続ける。
自分が他の男子と話している時にカケルがやきもちを焼いてしまったこと。
そのせいで私と話していた男子たちと喧嘩になってしまったこと。
何とか間に入ってカケルの事を宥めていたら自分とこいつらどっちが大事なんだと怒鳴られたこと。
ここ最近のカケルの様子を事細かに伝えると悪趣味だなと怪訝そうな顔をされた。
「ほんと、人間同士の関係なんて脆いですよね。カケルが喧嘩の後謝ろうと近づいても皆離れていくんですよ。みんなわかっているんですね。この子とかかわると碌なことにならないと。悲しそうな顔をするカケルを横目にみんなが離れていく様を見ているのはとても楽しかったですよ。それにみんなが離れていくのと同時にこの子が不安そうな顔をして捨てないでと縋って、どんどん私に堕ちてくる様を見ているのはとても愉快でした。そしてトドメの保健室でのあの表情。たまらなく興奮しましたよ」
「ほんと悪趣味だな!」
「どうとでも言いなさい。ですが、人間の精神はとても脆いもの……、私がいなくなったらこの子はどうなってしまうんでしょうか、ね?」
「お前はそこまで見越してカケルを堕とした訳か」
「ええ。まぁ、悪いようには使いませんよ」
だから安心なさいとセフィに告げ、センチェルスは眠りにつく。
二人を見ながらセフィはこれ以上センチェルスに自分の息子がどうこうされたらたまらないとこれからの事を模索し始め、とりあえずウォーリアの一族を探すのが一番いいか…と仕事の合間をぬって探す事を決意した。
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