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それから年月は経ち、三年になった彼らは自らの進路に向けて準備を始めていた。
リリィに勧められるがままセンチェルスは養成所への入所を目指し、特に何もやることのないカケルはそんなセンチェルスについていくことになり。
この頃になるとカケルの依存症は最早末期のようになっており、センチェルスが離れると何も出来なくなってしまうようになっていた。
そんなカケルにセフィは何度とあいつと深く関わりすぎるなと忠告するもそれすら耳に入ることはなく。
センチェルスが望む通りにカケルの依存は進行していった。
そんな中で三年のメインイベントでもある修学旅行がスタートした。
班分けにいなかったセンチェルスはカケルと全て一緒になっており、一応名義上、他に二人ほど同じ班にいたが恐らくこの二人とは別行動になるだろうと察しはしていた。
「ここがレグルス……ですか…」
「なにかあるのか? センチェルス」
「まぁちょっと……」
「……あ、思い出した。センチェルスが魔王エルザークと最後に別れた場所……」
「……ええ。ちょっと周りを探索したいので付き合ってもらえますか? カケル」
「ん!」
他の二人とは別れて行動していた彼らはセンチェルスに促されるまま街を探索していた。
どこもかしこも見たことない物ばかりで、二千年の間にこんなにも変わってしまうのかと寂しそうに目を伏せるセンチェルスに不安そうな表情を返すカケル。
大丈夫ですよと口では言ってもやはり自分がいた時とはだいぶ変わってしまっているのは引っ掛かるようで。
ふらふらと街を歩いていると聖堂にたどり着く。
ふと視線をそちらに向けるとそこにいたのは懐かしい姿で。
まさかと驚愕したようにその人物を見るセンチェルスにカケルは知り合い?と声をかけるとそんなはずないとだけ答えが返ってくる。
その声に反応したかのように聖堂の前の少年は恐る恐るこちらに振り返った。
「まさか……アーメイ……?」
「聖夜くん……なの……?」
「そうだよ……っ、アーメイ……! 生きていてくれたんだ……っ」
「……っ、聖夜くん……っ!」
そこにいたのは紛れもない、あの時から一切変わっていないアーメイで。
友人である彼を認識したアーメイは込み上げてくる感情を抑える事もなく泣きながらセンチェルスに抱きついてくる。
そんなアーメイを抱き止め、懐かしい友人との邂逅に嬉しくなったのかセンチェルスはまるで別れたその時に戻ったように相応の表情を見せていて。
「聖夜くん……っ、聖夜くん……っ、会いたかったよぉ……っ!ずっとボク独りぼっちで……寂しかったよぉ……!」
「私も寂しかった……っ、あの後君がどうなってしまったのか心配だったし、この時代に来て誰一人知り合いも知ってる場所もなくて不安でたまらなかった……っ」
「ボクもずっと不安だったのぉ! でも頼れる人もなにも無くて……っ、でもきっとここにいたら聖夜くんに会えるかなって思って……! 会えて嬉しいよぉ……っ!」
泣きじゃくるアーメイの頭を撫でながら泣きそうになるのを抑え、センチェルスは彼との出会いを噛み締めていた。
暫くして落ち着いたのかその場に放置してしまったカケルを自分の傍に呼び、アーメイを紹介する。
だけども自分のセンチェルスが取られてしまうと思ったのかずっとムッとした表情のままアーメイをじっと睨んでいて。
「聖夜くんが人間といるなんてなにかあったの?」
「実はこの子あのレイズの子孫なんだ。まぁ能力自体は彼の親世代で途絶えたっぽいけど」
「え!? あのレイズ!? ……へぇ。不思議な因果だね。あ、そうだ。魔王さんからの伝言があったんだった。まぁでもその前に中に入ろっか。そっちのカケルさん? だっけ? 君もよかったら」
「……」
「カケル、入りましょう? ね?」
「……センチェルスが言うなら……」
依然ムッとしているカケルに声をかけ手を引くとアーメイの後を追って聖堂内へと足を進める。
集会が行われていないのか物静かだがかすかに人の気配だけはあって。
教壇に向かって歩みを進めるとその前で立ち止まったアーメイが上を見てと申し訳なさそうに言ってくる。
まさかと恐る恐る見上げるとそこには十字架に鎖と剣で封じられたエルザークがいて。
アーメイはこちらを振り返りエルザークが遺した言葉を告げる。
「こんなところで待っているだなんて……。エルザーク様……っ」
「ごめんね、ボクが弱かったから、魔王さん封じられちゃって……。でも、これは魔王さんの望んだ結果でもあるの」
「エルザーク様が望んだ結果……?」
どういうこと?とアーメイに尋ねると彼はセンチェルスから目を逸らしエルザークから教えられていたことをぽつぽつと話し始めた。
「聖夜くんを安全な時代へ飛ばした後、魔王さんはその力を最大解放して戦った。……姫の存在無しの状態で。そんなことしたら魔王さん自身が大ダメージを受けて再起不能になるかもしれないのに」
「待って、アーメイ……、それはどういうこと……? 私はエルザーク様の姫になったはず、なのに、それがどうして……?」
「うん。聖夜くんは魔王さんの姫だよ。だけども聖夜くんが別時代へ飛ばされた事によってその時代には魔王さんの姫はいないことになるみたいなの。ボクにもそこら辺はよくわかってないんだけど……。だから魔王さんもこうやって封印される事で時を過ごそうと考えてはいたみたい。聖夜くんが危険な目にあったらって口癖のように言ってたから……」
「じゃあ、私のせいで……エルザーク様は……?」
「聖夜くんのせいじゃないよ。悪いのは聖夜くんの幸せを奪おうとしたあいつらだよ、ボクは絶対に許さない。聖夜くんが魔王さんと幸せにならないなんてそんなの認めないから」
認めないとセンチェルスに抱きつくとカケルを彼から引き剥がし自分の後ろにセンチェルスを守るように回すと腰のホルダーから短剣を引き抜きカケルに突きつけ睨みつける。
突然のことにカケルもセンチェルスも驚きを隠せないようで、どうしたのか聞くもアーメイは許せないんだよとドスの聞いた声を響かせた。
「ボクはね、聖夜くんを幸せに出来るのは魔王さんだけだと思ってるの。……なのに…なんで聖夜くんの隣にいるのは魔王さんじゃなくてこのボクらを苦しめたレイズの子孫なの? そんなのボクは認めない。魔王さんがいない今、聖夜くんを守るのはボクの役目だ」
「アーメイ……」
「い、嫌だ……! センチェルス……っ、助けて……っ! 離れないで……!」
「その薄汚い声で聖夜くんの名前を呼ぶな!! 穢らわしいんだよ! 聖夜くんを傷つけといて……! それなのに……っ、何当たり前みたいに聖夜くんの隣にいるの? ねぇ、なんで? 聖夜くんと魔王さんの幸せな時間を壊しといてよくもまぁのうのうと隣にいられるな!! ボクは認めない!!」
「アーメイ、落ち着いて? 私の話を聞いて? 彼はもう私なしでは……」
「聖夜くん、可哀想に……。聖夜くん、あいつに惑わされるんだね? 一緒にいないと魔王さんの黒水晶渡さないとか言われてあんなやつの隣に居させられてるんだね? 大丈夫だよ。ボクがこいつを殺して、その呪縛から解放してあげるから……っ!」
そう言うや否やアーメイは怯えて動けないカケル目掛けて突撃していく。
待って……!とその刃がカケルの喉元を切り裂く間際、間一髪のところで彼とカケルの間に割って入り右手でその刃ごとアーメイの手を受け止める。
なんで……!?とショックを受けるアーメイに話を聞いて!とセンチェルスは声を荒らげる。
自分を庇ってくれたセンチェルスに縋りつくカケルを空いてる左腕に抱き寄せ、掴んでいる右手をゆっくり下ろし、その手を離す。
「なんでそいつを庇うの? 聖夜くん」
「聞いて、アーメイ。この時代に飛ばされて助けられたのがカケルの父親。仇とはいえこの子も私の命の恩人なんだ。それにこの子は私無しではもう生きていけない、殺そうと思えば何時だって命じればこの子は死ぬ。だから君がこの子に危害を加える必要はないんだ」
「でも……でも……っ!」
「大丈夫だから。今はウォーリアを探しているんだ。そいつさえ見つかればまたエルザーク様を解放してまた元の生活に戻る予定だから」
「聖夜くん……。……わかった。じゃあボクもそのお手伝いする! ヴィルドの子孫探す!」
「ありがとうアーメイ」
「いいの! ボクは聖夜くんの唯一のお友達だから! 任せて!」
胸を張り嬉しそうに笑うアーメイにありがとうと笑いかけると任せて!と聖堂を出ていった。
二人きりになると一息つき、大丈夫ですか?とカケルの方を振り返るとセンチェルスの手を見てすまなさそうに目を逸らす。
この程度……とセンチェルスはその傷口の時を戻すと大丈夫ですからと笑いかけ、立ち上がらせるとカケルを連れ聖堂を出た。
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