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「センチェルス……オレ……」
「根はいい子なんです。あの子。だから私が仇である貴方と共にいることが理解出来なかったのでしょうね……」
「あいつ……センチェルスの友人だって言ってた。この時代のやつじゃないのか……?」
「アーメイは私がいた時代の友人ですよ。エルザーク様が封じられ、私がいなくなって、二千年の間ずっと一人で過ごしてきたんでしょう……。きっとあの子も寂しい思いをしてきたんでしょうね……」
「なぁ、オレ……そのウォーリアってやつが見つかったら……捨てられるのか……?」
まるで捨てられた仔犬のような目でセンチェルスを見上げるカケルに優しく微笑みかけ、捨てるわけないでしょう?とその額にキスを落とす。
それに安心したのかふにゃりと笑うカケルを連れ今夜の宿へと戻っていく。
宿に戻ると既に他のメンバーは戻ってきており、夕飯が始まると大食堂に連れて行かれた。
席は既に決まってはいるがバイキング形式で食べていいらしく嫌いなものを食べずに済みそうだとセンチェルスは安堵する。
大食堂に入るやいなやカケルは一緒に選ぼうと料理の前へセンチェルスを連れて駆けていく。
どれにしようかと悩むカケルの隣で自分が食べたいものを少しずつお皿に乗せていくセンチェルス。
それを見てオレのも!とお皿を差し出されはいはいとセンチェルスは苦笑しながらもそのお皿に自分が取ったものと同じものを乗せていく。
一緒一緒と喜ぶカケルについていきながら席につくと他のメンバーにも苦笑される。
「食べよ! 聖夜!」
「はいはい」
「お前ら食べるもんまで一緒か……。ほんと仲良いな」
「ま、そのほうが俺らは楽だけどな」
「暁はまだ大丈夫なのか? その……カケルといてさ……」
「大丈夫ですよ。ちゃんと約束も守ってくれてますし。心配して頂いてありがとうございます」
こそこそと聞いてきた彼らに余裕の笑みを浮かべ返答すると取ってきた料理に手を付ける。
ならいいけど……と不安そうな表情を残したまま彼らも夕食をスタートさせた。
夕食後、温泉に行こうと誘われるがセンチェルスはそれを断り部屋へ戻ると一息つく。
そのまま脱衣所へ向かい皆が温泉に行っている間に済ませてしまおうと来ている制服を脱ぐ。
鏡に映る肌には虐待の跡が今も残っており、こんなの晒せないとため息をついたその時。
ガチャっと扉が開き入ってきたのは温泉に行ったはずのカケルで。
やはり皆と一緒よりもセンチェルスと一緒にいたいという気持ちが強いらしく戻ってきてしまったようだった。
そうして中に入ってきたカケルはセンチェルスのその傷を見て言葉を失ったようにその身体を見つめ、まるで見てはいけないものを見てしまったと言わんばかりに視線をそらした。
「あの、その、オレ……」
「……まぁ、いいですよ。いずれバレるだろうとは思ってましたし」
「その傷……戦いでの傷ってわけじゃないよな……? あの……ごめん……」
「謝らないでください。カケルが悪いわけではないんですから。それで、一緒に入るんです? 狭いですよ?」
「……いいのか……?」
「構いませんよ、貴方の好きにしなさい」
そう言い残しセンチェルスは先にシャワーカーテンの奥へ消えていく。
待って……!とカケルも慌ててセンチェルス後を追いかけ一緒の場所に入っていく。
先にシャワーを浴びるセンチェルスを待ちながら後ろでそわそわとしているカケルに気づき彼は自分の傍に手招いて、カケルの髪を洗っていく。
「痛くないですか?カケル?」
「ん、大丈夫。気持ちいい……」
「ならよかったです」
一通り洗い終わるとオレも!と半強制的にセンチェルスもカケルに洗ってもらうことになる。
優しくふわふわとした髪に触れ、シャワーをかけていくと指の腹で洗っていく。
洗っているうちにふと目に入った背中に焼き付いた傷に気づきカケルはそっと触れて痛そう……と呟いた。
「これ……痛くないのか……?」
「特には。所詮傷跡ですからね」
「センチェルスって意外に傷だらけだったんだな……。ずっと長袖着てるのって……やっぱり傷口を隠したくて着てるのか……?」
「誰だって嫌でしょう? 人の傷跡が視界に入るのは。これでもだいぶ消えたんですよ。幼少の頃は体中傷だらけでしたから」
「今でも痛そうなのに……」
「貴方は不思議な子ですね、本当に。普通は気味悪がるでしょう? こんなに傷だらけで気持ち悪いって。なのに貴方はこんなにも私を気遣ってくれる……。本当に不思議な子です」
初めて見るその優しい笑みにカケルは一瞬見入ってしまい、やばいやばいと作業に集中した。
一通り入浴が終わると涼みにベランダへと出るセンチェルス。
オレも!とベランダに出てきたカケルは嬉しそうにセンチェルスの隣に並び空に浮かぶ月を一緒に眺める。
綺麗な月だな……とぼんやりしていると隣でセンチェルスが片翼を広げ月光浴を開始していて。
ぼう……と黄緑の光に包まれるセンチェルスはカケルの目には何よりも綺麗なモノに映っていた。
「センチェルスってやっぱ綺麗だな……」
「流石は暗黒王の姫、ということか」
「……っ!? 誰!?」
「そろそろ来る頃かと思っていましたよ。ロード・ルクサス」
ベランダの柵の向こうに突如現れた黒い影に身構えるカケルに反して待っていたかのようにセンチェルスは閉じていた瞼をゆっくりと開く。
ロードと呼ばれたそれは二対の黒翼を広げ金色の瞳でセンチェルスを見ており、そのまま柵に座り二人を交互に見つめた。
「気づいていたか。どこの誰だか知らんが解放してくれてね、感謝はしてるよ」
「センチェルス……こいつだれ……?」
「ロード・ルクサス。暗黒時代より遥か昔、まだ翼者が生きていた時代にこの世界を闇へ沈めた闇王ですよ」
「じゃあこいつもエルザークってやつと一緒で魔王なのか?」
「ええ」
「へぇ。暗黒王のこと知ってるんだ? 意外だな。まぁいいや。で、僕になんの用?」
「貴方ならこの黒水晶の気配を辿りヴィルドの子孫を探せるかと思いましてね」
「あー、アレの解放道具か」
差し出された黒水晶の欠片を手に取るとロードはその気配を探り始める。
すると暫くして見つかったよとそれをセンチェルスへ返却するが、苦い顔をして柵から飛び上がる。
「場所はここよりちょっと東。んー、どっちかっていうと北、かな? ただ……」
「ただ? なんです?」
「この気配は……うーん……あんま良くないかなー……」
「いいから早く言いなさい、ロード」
「……両親は人間だ。そこにこれから産まれてくる。それがヴィルドの子孫だ。その子はその黒水晶と虹色の宝玉を持って産まれてくる。強い闇の力の持ち主。そして……これは封印士、かな……。この魔力は」
「人間から?」
「そ。キミと同じ、人間から産まれてくる。その結末がどうなるか、キミならわかるよね? センチェルス? キミ自身がそうだったんだから」
「……っ。いい気味です……。私とあの人を引き離した罰だ。その身にしっかり刻めばいい」
「それとこれはボクからのささやかなお知らせ。産まれてくる彼、いずれキミの前に現れるよ。だからその時まで待ってるのも手だよ。彼と出逢ったその時、キミがどんな想いになるのか……きっとキミには想像すら出来ないとは思うけど、僕はそんなキミたちを見ているよ」
それじゃあねとロードは闇夜に飛び去って行く。
突然告げられた未来に戸惑いながらも考える必要があるとセンチェルスは翼を消すと部屋へ戻る。
「私の前に現れるならいつどこで、どんな形で現れるのか……それを調べる必要がありますね……さて……」
「パッと思いつくのは売られるとか?」
「売られる?」
「ん。センチェルスの時代ではなかったのか? 人が人を買ったり売ったりしてた事って。自分の遊ぶお金欲しさに売っちゃう人とかもいるみたいだし」
「なるほど……。ユークレストではそういったことはありませんでしが……確かに……。となると、やはり私が養成所に入所後の時間ということになりますね……。人体実験に正規で被験体を連れてくるとは考えにくいですし……」
気長に待ちますか、と一息ついた時、温泉に行っていた面々が帰ってきて就寝し、一日が終わった。
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