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螺旋階段の入り口。
そこの壁にあるランタンをラグシルは手に取るとその中に光を灯し、彼を連れ暗い螺旋階段を下っていく。
こつこつと二人の足音だけが響き、怖くなったウィードはそっと後ろを振り返ると後ろの階段は消えており戻ることを許されない様子だった。
「……ねぇ、ラグシル。聞いてもいい……?」
「なんだ」
「さっきの……ラグシルを消すって……どういうこと……?」
「なんだそのことか。言葉通りだ」
「なんで天使長はラグシルのこと消そうとしてるの……?」
「……ボクは偽天使だからだ」
「偽天使……?」
「馬鹿な貴様にもわかるように言うとボクは天使じゃないということだ」
こっちを振り返ることもなくそう答えるラグシルにどういうこと?と畳みかけるように尋ねる。
ため息をつきながら彼は自分は天使長に作られた天使だと告げさっさと階段を降りていき、ウィードも慌ててそのあとを追いかけ階段を駆け下りていく。
しばらくその階段を降りていくと鉄扉に辿り着くとランタンを扉の横にかけると大きな鉄の鍵を扉の鍵穴に差し込みまわす。
するとガゴンと重たい音と共に扉がひとりでに開いていくとその部屋の中央には白い大きな魔法陣は床に描かれたシンプルな部屋が広がっており中に入っていくとその扉がガタンと締まり鍵がかかっていく。
「閉じ込められちゃった……」
「……桜花」
「え、な、なに? ラグシル」
突然初めて名前を呼ばれ驚くウィードにラグシルは彼の方に向き真剣な表情でじっと見つめてくるとつかつかと歩み寄ってくる。
「……ボクはきっとここで消える。消えるまではここから出られないだろう。だからお前に頼みがある。……これを、あいつに渡してくれ」
これ、とラグシルが渡してきたのは自分の武器でもある六芒星が刻まれたボウガンで。
これは?と首を傾げるウィードに彼はこれがボクのあいつに対しての答えだと無理矢理に握らせると壁に背を預け座り込む。
ウィードも彼の隣に同じようにして座り込みどういうこと?と問いかけるもラグシルは黙り込んでしまう。
「ねぇ、ラグシル……」
「……天使は恋を禁忌としている。それは知っているな? それでもそれが禁忌だとわかっていても誰かを好きになってしまう天使もいる。けれどその思いを公にできない。そんな天使たちが自分の気持ちを伝えるために始めたのが自分が持つ天使武器をその相手に渡すという行為だ。天使武器は形こそ似た物はあれども唯一の武器だ。それを渡す、それが相手に思いを伝える唯一の方法。それがその人に向けて一生の愛を告げる方法」
「それってつまり、ラグシルはサンダルクのこと……」
「……それ以上は言うな」
「それならなおさら直接渡さなきゃだめだよ!」
「言っただろう、ボクはここで消える。だから」
「消させない! 俺が絶対に消させない!」
「お前になにができると?」
「俺は愛天使だからどうにかする! それにセンチェルスがどうにかしてくれる!」
「あー……あの悪魔か……」
確かにそうかもなと笑うラグシルに驚いているとどうした?と怪訝そうな顔をされ、ウィードは慌てて初めて笑った顔見たと言うと当の本人はふんっと顔を背けてしまう。
彼はラグシルにボウガンを返すと自分でちゃんと渡すんだよと持たせ、絶対に助かるからと繰り返す。
「ねぇ、あの中にいつ入るの?」
「魔法陣の上に天使長が放った光が落ちてきたら」
「そっか。早く助けに来るといいな……」
「お前は助かる、大丈夫だ」
「ラグシルも助かるの。大丈夫、サンダルクがきっと来てくれる」
「ハッ! 来るわけないだろう? あいつはああ見えても精鋭部隊と言われている第一部隊の隊長だ。おいそれと現場を離れるわけにはいかない立場だ。そんなあいつがボクを助けに? 馬鹿を言うな。来るわけがない」
「そんな……」
「来るわけがないんだ。いや、来ない方がいい。あいつはちゃんとした天使で、ちゃんと属性確定もされてる。将来を約束されたあいつの足を引っ張りたくはない。だから、来なくていいんだ」
「来るもん! サンダルクはラグシルのこと大好きだから絶対来るもん! だから来たらこれをちゃんと自分で渡さなきゃダメ!」
「なんでそこまで必死になるんだ? たかが他人のことに」
「だって俺、愛天使だから! 愛に悩む人のお手伝いをするのが俺の仕事だから!」
「……おせっかいだな、お前は」
無理矢理に手渡されたボウガンをしまいながら天井を仰ぐラグシルの隣に寄り添いながら大丈夫と一緒にその時を待った。
──それから、どのくらい時間が経っただろう。
ラグシルは何かの気配を感じ立ち上がった。
どうしたの?と首を傾げるウィードに時間だと答えるのと同時に天井から白い光の球がゆっくりと落ちてくる。
「始まるんだ……第二次天魔大戦が……」
「天魔大戦という名のお前の強奪戦争だがな」
「へへ……。なんだか俺、お姫様になった気分」
「お前の頭の中はお花畑だな」
「そう? ラグシルも今はお姫様だよっ! 一緒に王子様が迎えに来るの待とう?」
「ふん。王子様なんぞくるか」
「え?サンダルクはラグシルの王子様でしょ?」
「……王子様じゃない。あいつは」
コツコツと足音を立てラグシルは魔法陣の前まで来ると彼に顔だけ振り返り不敵な笑みを浮かべてこう告げる。
「あいつはボクだけの騎士だ」と。
ウィードはその答えに驚きながらもそうだね!と大きく頷きラグシルの手を掴むと行こ!と魔法陣の中へと飛び込んでいく。
その瞬間、魔力が一気にその魔法陣に吸い込まれていくのを二人は肌で感じながらもじっと、彼らが自分たちを助けに来てくれるのを待っていた……──。
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