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城に戻るとそこには既にセンチェルスとミーウェルとエルザークの三人が辿り着いており、ロードは彼らに事の次第を話していた。
ウェルナーはその輪に混ざるとロードの隣に行き、ココで待ってればよかったねと声をかけた。
「それで? この天使の記憶を私に戻せと?」
「そう。そのくらい造作もないでしょ? 新王様?」
「そうですけど、なぜ?」
「こいつはあの死神たちのことをすっかり忘れてる。だからこんなに僕らを警戒している。だから記憶を戻せばきっと、こちら側についてくれる」
「そうとは限らねぇんじゃねぇか? 現にオレと対立してた時もウィードを執拗に狙ってきたやつだぞ」
「でも、どうせウィードの居場所わからないんでしょ? なら」
「時間の無駄です。行きましょう、二人とも」
「なぁ、センチェルス。やってやろう? こやつ、可哀想だ。友人のことを何もかも忘れてしまっているなんて……」
可哀想だ……と地面にふせたままのファウラに歩み寄るとその翼に打ち込まれている短剣を引き抜き大丈夫か?と手を差し伸べる。
その行為になんで……と信じられないモノを見たような目で見るファウラは戸惑い、エルザークの顔とその手を交互に見ていた。
「エル。オレたちにそんなことしている時間はねぇだろ?」
「でも……! 大切な者のことを忘れてしまっているなんて……っ、ソレはあまりにも辛すぎる……! 我は……、我は知ってるから……。大事なモノ、大切なモノを全て忘れてしまって辛い気持ちが……。だから……」
「エル……」
「はぁ……わかりました。やればいいんでしょう? やれば。まったく……相変わらずお優しいんですから、エルザーク様は」
「センチェルス……っ!」
「わりぃな……」
「構いませんよ」
仕方ないと座り込んでいるファウラの額に杖の先端を触れさせ“リマインド”と唱える。
すると杖が光だし、その光が弾けるとなに…?!と戸惑っているファウラの周りを黄緑色の粒子が舞い一つ一つ彼に取り込まれていき、彼は一つ一つその思い出を取り戻していく。
天界から間違って落ちてしまい行くあてのなかった自分を快く受け入れてくれたミウラのこと。
口は悪いが仲間思いで、仲間が傷ついたりすると逆上すらしかねないロゴスのこと。
そんな二人とミウラのお父さんの命令で旅をすることになったこと。
辛いこともあったけど、それでも二人がいたから楽しくて、寂しくなかったこと。
ミーウェルと三人で力を合わせて戦ったこと。
傷ついた自分を一睡もせず看病してくれたこと。
その様々なミウラとロゴスとの思い出を思い出しファウラは言葉にならない様子で泣き崩れていた。
「僕……なんで……こんな大切なこと……忘れてたんだろ……っ。なんで……っ」
「大方天使長にでも消されたんでしょう。不要なものだからとかいう理由で」
「よかったな。ファウラ。思い出せて」
「ねぇ、ミウラとロゴスは……? 元気に……してるの……っ?」
「さぁな。あれからオレ、あいつらとも会ってねぇし。でも死神界にはいるんじゃねぇか?」
「あい……たい……っ、会いたいよ……っ! 二人に、会いたい……っ!」
「なら協力しなさい、ファウラ。そうすれば貴方の願い、私が叶えて上げますよ」
会いたいと泣きじゃくるファウラにそう言うと彼はほんと……?とセンチェルスを見上げる。
センチェルスは小さく頷くと私と契約しますか?と尋ね、手を差し伸べる。
ファウラはその言葉に揺らぎその手を取りかけるも、天使である誇りを捨てきれない彼はなかなか悪魔の王であるセンチェルスの手を取れず。
「天使の矜持が拒みます……か」
「僕は天使だ。悪魔の貴方と契約なんて……」
「でも、会いたいんでしょう?」
「会いたい……けど……っ」
「私は気がそんなに長い方ではないんですよ。さっさと決めてくれませんか? 私に協力してリーベントに行くか、それともこのまま二人に会えずにここで燻っているのがいいのか、さぁ。さっさと選びなさい。ファウラ」
3つ数えるうちに、とカウントダウンを始めるセンチェルスに慌てたようにファウラはきょろきょろと辺りを見渡し、どうするか考えるも心はもう決まってしまったようで。
カウントが0になる直前、彼はその手を取った。
センチェルスはにやりと笑いそれでいいんですよと彼を立たせると行きましょうかとその場をロードとウェルナーに任せ城に潜入していく。
城の中には数人の衛兵が待ち構えており、センチェルスに命じられるままミーウェルとエルザークがその相手をしていた。
「エルフィ!」
「無王に闇の加護を」
そう祈りを捧げるとエルザークの服が背中と胸元が大きく開いた黒いドレスへと変わっていき、その魔力がミーウェルに注がれていく。
その魔力を構えた大剣に纏わせ襲い掛かってくる天使をなぎ倒していく。
その一振りは凄まじく、一度に前線にいた衛兵たちを倒してしまうほどで。
初めての感覚にテンションが上がったミーウェルは子供のようにはしゃぎその力を存分に振るい、城の壁ごと彼らを薙ぎ払っていく。
「すげーすげー! 一気に倒せる! エルフィ! すげーな! これ!」
「まるで新しいおもちゃを手にした子供だな、汝は」
「だってよー、ウィードと契約した時より全然ちげーんだもん! すげー! これが愛の力っていうのか?」
「ふん。勝手に言ってろ」
「エルザーク様、ミーウェル、奥から強い気を感じます。気を付けて」
「あ?」
「なんだ、ラスボスの登場か?」
「……違う。……このピリピリする感じは……」
「やぁ、初めまして。コーキセリアの王様。それにその住人皆さん」
「……第一近衛兵隊長……サンダルク・エーティ……」
「彼が、あの子の言っていたサンダルク……ですか……」
コツコツと廊下の奥から歩いてきたのは力を全開放させたサンダルク本人で。
その力の大きさにファウラは怯え、センチェルスの後ろに隠れてしまう。
サンダルクはその身に青い電流を纏いながら腰の拳銃を引き抜き歩み寄ってくると傍にいた衛兵たちがその道を開けていく。
「やっと手ごたえのあるやつが来たじゃねぇか」
「僕の名前はサンダルク。サンダルク・エーティ。雷を司る天使だよ。よろしくね」
「オレはミーウェル。ミーウェル・ファーリエ。無を司る魔王だ。よろしくな」
「うん。よろしく。といってもキミにはここで死んでもらうけど」
「威勢がいいじゃねぇか」
「あー言っときますけど、ミーウェル」
「わかってるつーの。んじゃ、行くぜ?サンダルク!!」
「キミと僕は相性が悪いみたいだね」
一気に間合いに踏み込んでくるミーウェルから後ろに飛びのくとサンダルクは銃を構え、襲い掛かってくる彼に打ち込む。
その銃弾を剣の腹で受け流し大きく横に薙ぐ。
けれどそれを見透かしてたようにサンダルクはその剣の腹に飛び乗るとそのまま蹴り飛ばすと大きく空いた壁の穴から外へと飛び出す。
ミーウェルはその突飛な行動に面白れぇとにやりと笑い舌なめずりをすると彼を追い外へ飛び出していく。
「さて、ここは任せるとして、私たちはウィードたちの元に行きます」
「ああ。ミーウェルがやりすぎそうだったら我が止めるから任せておけ」
「はい。エルザーク様。……では、行きましょうか? ファウラ。ウィードたちのところへ案内してもらえますか?」
「わかった」
こっち、と案内に従い進もうとする二人の行く手をその場に残った衛兵たちが邪魔をしてくるが王となったセンチェルスに勝てるはずもなく。
彼は手元に出現させた羽ペンで素早く
“Marionette”と記すとソレを衛兵たちに投げつけ、私の邪魔をするなと命じる。
すると見えない糸で操られた人形のように衛兵たちは壁際により、その武器を床に落とす。
「これがコーキセリア王の力……」
「私の邪魔は誰であろうとさせませんよ。そういう悪い子はこうです」
彼らの間を通り抜けるとくるっと振り返り嫌なくらい爽やかな笑顔を向け羽ペンを構えると“Crush”と記しそれを投げつけるとそこにいた彼らは一様に壁に押しつぶされ息絶える。
その光景にファウラは見てられないと目を逸らし怯えていた。
「さて、行きましょう。ファウラ」
「……うん」
そうして二人は廊下を進み彼らはいる地下室へ続く階段へと辿り着く。
けれどそこにはサンダルク直属の部下であるミカエラが槍を構え立ちふさがっていて。
「隊長はなにしてやがるんですか…。こんなところまで敵さんを連れてくるなんて」
「彼女は?」
「あの人は……」
「ミカは第一近衛部隊遊撃隊所属ミカエラです。この先は進ませません」
「強いんですか?」
「えっと……ミカエラ様は、火を司る天使です」
「なるほど」
「ミカを無視ですか。いい度胸ですね。怒りました」
行きますとミカエラは槍を手にセンチェルスに襲い掛かる。
けれど、センチェルスが杖を一薙ぎするだけで彼女は簡単に吹き飛んでしまって。
センチェルスが弱いじゃないですかとため息をつくと彼女がまだまだですと立ち上がってきた。
「ミカは弱くないです。ミカは負けないんです。ミカは……隊長の直属の部下なんです。ミカは、隊長に信用されてる唯一の部下なんです。だから、絶対に負けないんですっ」
「彼女に何があったんですか」
「詳しくは知らないんですけど、ミカエラ様は人間界で捨てられた捨て子だったとか…それをサンダルク様が拾われたと……」
「ミカは捨てられてない!! ミカは……っ、ミカは、自分で親を捨てたんです! 隊長に尽くすために捨てたんです!」
ファウラの言葉に逆上したミカエラはそう怒鳴り槍を構え直すと体に纏わせた炎を槍に集中させ再び襲い掛かってくる。
その槍をセンチェルスは杖で受け止め、押し返し距離を取るも思わぬ速さでその距離を詰められ振るった槍の先端が彼の頬をかすめる。
彼は顔を歪め杖を逆手に持つとその柄の先で彼女の腹を思いっきり突き壁にたたきつける。
「う、ぐっ……ぁ……っ」
「私に傷を負わせるなんて大したものですね」
「ぅ、ぐ……っ、ミカ、は、ま、けない……んですっ、たいちょ、の……ため、に……」
「貴女もしかしてあのサンダルクとかいう天使が好きなんですか?」
「……!!」
「図星ですか……」
「だか、ら……、なんだって、いうんで、すか……! ミカは、隊長に、言われたんです……! ここを死守してって……! 誰からも、死守してって……!! だから……っ!」
「私は助けに来たんですよ。ウィードと、その彼が愛するラグシルという天使を。あの子に頼まれたので。ラグシルとサンダルクを助けてあげてと」
「隊長と……ラグシル様を……?」
「ええ」
槍を杖代わりに立ち上がったミカエラはセンチェルスの言葉に驚き槍に纏わせていた炎を消す。
彼は彼女の戦意がないことを察し歩み寄ると協力してくれますか?と尋ねる。
「ミカに寝返れというのですか。隊長を裏切れというのですか。そんなの……」
「別に寝返れなんて言ってませんよ。ただそこを通していただければいいだけです」
「……本当に、ラグシル様を助けてくれるのですか」
「はい。ウィードのついでですけど」
「……殺したりとかしないですか……?」
「そんなことしたら私がウィードに嫌われますよ。そんなの私が耐えられませんから」
「……本当に、本当に、助けてくれるのですか。ラグシル様も……隊長も……助けてくれるのですか……? この地獄のような場所から……」
「はい。ですからそこを通してください、ミカエラ」
「……わかりました。ラグシル様も新入りさんもこの地下にいます。早く助けてあげてください」
「ありがとうございます。……貴女も一緒に来ますか?」
「いいえ。ミカはここの守りを任されてます。だからミカはここに残ります」
そうですか、とセンチェルスはファウラを連れ地下へ続く階段を降りていく。
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