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「城の守護壁が弱くなったと思ったら……やはり……」
「っ、ラグシル様も、新入りさんも……、助けられたの、ですか……、よかったです……」
「ミカエラちゃん……!」
「新入りさん……」
倒れかけるミカエラを寸でのところでウィードが受け止め、センチェルスは舌打ちしながらも彼の後を追いメタラエルと彼女たちの間に入るとラグシルを二人に任せ対峙する。
「初めまして、コーキセリアの王様。あの薄気味悪いあの人が死んだと聞いてたけれど、いつの間にか新王が生まれてたなんて」
「どうも初めまして。コーキセリアの新王になりましたセンチェルス・ノルフェーズと申します。以後お見知りおきを」
「わたくしはこのアーキエルの王、メタラエル・キースと申します。どうぞよろしく」
「どうも。ではさっさとそこを通していただけますか?」
「それは無理な相談、ですね。貴方にはここで死んでもらい、愛天使桜花、偽天使ラグシルにはあの中に戻ってもらいます。そして火天使ミカエラ、星天使ファウラ、あなた方にも罰を受けてもらいます」
そう言われセンチェルスはですよね、とため息をつき後ろにいる彼に振り返るといけますか?と尋ねる。
ウィードはうん、と小さく頷き、自分の守護壁が発生する範囲に二人を引き寄せると両手の指を絡め祈る様に目を閉じる。
「時王に愛の加護を……」
「……っ」
そう呟くとウィードの周りを桃色のバリアが現れ、センチェルスに天使としての彼の魔力が注がれていく。
それと同時にセンチェルスの体に痛みが走ったようで顔を歪めるもその力を自分も魔力と同調させメタラエルに杖を突きつける。
メタラエルもそれにこたえるように円環のついたダイアモンドが先に付いた白い身の丈ほどの杖を出現させお相手しますよと口端を上げる。
「天使からの魔力の供給はさぞかし痛いでしょう? 今楽にしてあげますから、コーキセリア王」
「結構です。これもウィードからの愛だと思えば、痛くも痒くもないですよ、アーキエル王」
「強がりを……。大丈夫。貴方を送った後、桜花もこの守護壁の礎となり消えるのですから」
「そんなこと私が許すわけないでしょう!?」
そう叫びセンチェルスはメタラエルに突撃していく。
杖の先にある三日月型の刃で攻撃を加えるもそれをメタラエルは手元の杖で受け流していき、距離を取り杖を構えると詠唱もなしに術を発動させる。
「わたくしはダイアモンドから成りし存在。知っていますか? ダイアはどの鉱石よりも固いのですよ」
そう告げると自分の周りに出現させたダイアモンドの小さな尖った欠片たちをセンチェルスに杖を向けることで発射させる。
「どんなに強く固い鉱石でも、時の前には無力なのをお忘れなく」
杖を向け術を発動させると飛んできた欠片の時を止め杖を横に一閃すると叩き落し、次はこちらからと杖を構え魔力を高める。
「少し借りますよ、ウィード」
「うん、どうぞ」
「……空間作成」
そう唱えるとその空間が歪み複数の時計が浮かぶ空間に変わる。
その時計一つ一つから時を吸収するとセンチェルスはそれを杖の時計盤に集中させそのままメタラエルに向けて発射させるとメタラエルはそれに杖を向けバリアを張るもその力の差は歴然で彼の術がソレを突き破り天使長を直撃する。
「ここなら時を補充し放題、ここなら私は無敵なんですよ。さぁ、どうします?」
「わたくしを、舐めていただいては困ります」
こんな空間、と杖を一振りするとガラスのように割れ元の場所へと戻ってしまう。
センチェルスはさすがですね、と余裕の笑みを浮かべ杖を構い直す。
ウィードはその様子を見ながら王対決の凄まじさを感じていて、それでもセンチェルスが負けるわけがないと思い守護壁内の二人の治癒を開始する。
「ミカは……いい、です……。先に、そっち……」
「いいから。ファウラも助けるから」
「新入り……さん……」
「んー、そうはいっても……ミカエラちゃんに、ファウラに……ラグシル……。うーん……、俺一人じゃ……」
「おーおー、やってんな! センチェルス!」
「……! ミーウェル! エルザーク! サンダルクも来てくれたんだ……!」
どうしようと悩むウィードの元に現れたのはサンダルクの説得に成功したらしいミーウェルとエルザークで。
3人はメタラエルの横を通り抜けウィードの元へ駆け寄ってくると、ミーウェルはセンチェルスに加勢しウィードの隣に座ったエルザークは姫化し、その魔力を彼に契約相手である彼に注ぐ。
それを確認したミーウェルはセンチェルスと共にメタラエルに襲いかかっていった。
「ラグ……!!」
「サンダルク、よかった……! お願いがあるのっ、ラグシルに魔力を分けてあげてほしいの……!」
二人が戦っている間に早く早くとサンダルクを守護壁の中に引き込むとラグシルを押し付ける。
浅く呼吸するラグシルに不安になる彼に大丈夫だよと声をかける。
「ラグ……」
「……、サンディ……」
「一応ラグシルの魔力、目を覚ますくらいには回復してるけど動けるまでは回復してないからお願いね」
「でも僕、魔力供給なんてやったことないから、どうやったら……」
「んと、ちゅーとか? 俺もセンチェルスにちゅーしてもらってるよ?」
「それが一番手っ取り早い方法だな。できないのか?」
「そういうわけじゃ…でも、嫌じゃない?ラグ」
「…好きに、しろ…」
弱々しくもそう悪態をつくラグシルに分かったと小さく頷くと優しく抱き上げキスをする。
少しずつ自分の魔力を彼に注ぎだしたのを確認するとウィードはミカエラとファウラの治癒に集中し始めた。
「ウィード、まだかかりそうか?」
「あと少し……」
「ミカはもう大丈夫、です。新入りさんありがとうございます」
「僕も、大丈夫……。ありがと……」
「ボクも、大丈夫だ。サンダルク、すまない」
「ラグ、よかった。ケガとかない?」
「ああ、大丈夫だ。桜花が魔力を分けてくれてたから」
「そっか、よかった」
ある程度の傷が治るとミカエラとファウラはありがとうとウィードに告げ守護壁を出て行き、二人の戦闘に加わる。
ボクらもと立ち上がりかけるラグシルをサンダルクはまだダメだよとその身を抱きしめて止めた。
「ラグは傍にいて。お願い」
「だが、天使長相手ではあまりにも分が悪い。ボクたちも参戦したほうが……」
「いいから、俺の守護壁の中にいて。……センチェルス!!」
「わかってます。ウィザリア、力を」
「いいよ、持って行って、聖夜」
ウィードはその魔力を最大限に高め、センチェルスはそれを自分の中に吸収する。
その瞬間、センチェルスにさっきとは比べものにならない痛みが走るも構わず杖に魔力を集中させる。
「エルフィ!!」
「わかっておる!! 信哉!!」
センチェルスに続きミーウェルもエルザークから注がれる魔力をその大剣に集中させていく。
そんな二人を見てミカエラとファウラはメタラエルの動きを一瞬でも止めるために突撃していき、メタラエルはそんな彼女たちに向けて術を放つ。
「貴女たちは気高い天使でありながら下劣なる魔族に手を貸すというのですか!? 大罪だとわかっているのですね!?」
「わかっています。でもミカは天界の維持より、隊長の幸せの方が何よりも大事なのです。だからどんなことになってもミカは隊長についていきます」
「清廉とか、純潔とか、そんな綺麗事のために僕の大事な友達のことを消したこと、許さないんだから!!」
「っ、さすが魔族ですね、わたくしの愛しい同胞を懐柔するなんて……」
「懐柔だなんて人聞きの悪いことを……。さて、そろそろ決めますよ」
「そいつらは自分の意思でお前を裏切っただけだぜ? メタラエルさんよ?」
「天使に自分の意思はありません。天使はわたくしの意思のまま動いているだけ。役職通り、定められた階級通りに動いているだけ。彼らに心はないのですよ。感情なんて穢れの元になるものは天使には不必要なモノでしょう?」
「そんなことないです。ミカは自分の意思で動いています。自分の意思でミカは隊長に従っています。ミカは隊長のことを慕っていますから」
メタラエルの発言にミカエラは真っ向から反論し、攻撃を続ける。
二人がメタラエルの気を引いている間、センチェルスとミーウェルは自身の最大魔法の為に魔力を高めていき、そんな二人にウィードとエルザークは自分の魔力を全て捧げその場に倒れてしまう。
ウィードが倒れたことにより守護壁が消え、守るモノがなくなったサンダルクとラグシルは倒れた二人を自分たちの元へ引き寄せ今度はとサンダルクが守護壁を張る。
「サンダルク、お前も魔力をほとんど消費してるだろう? なのになんで……」
「なんで、って僕はラグが好きだから。大好きなラグを守ってくれた、二人を守ってあげなきゃ男が廃るでしょ?」
「サンダルク……」
ね?と残り少ない魔力を練り守護壁を張るサンダルクにラグシルは寄り添うとボクにはこれしかできないからと彼の腕にぎゅっと自分の腕を絡ませる。
突然のことにサンダルクは驚くもやる気出ちゃったなと笑い守護壁の維持に集中した。
「ねぇミーウェル」
「んだよ」
「愛の力って偉大ですね。天使の力だというのにこんなにも……」
「そうだな。だからオレたちは応えてやらなきゃいけねぇな」
「ええ、そうですね。ミーウェル」
二人の魔力を確かに受け取ったセンチェルスとミーウェルはメタラエルに向けて杖と大剣を向ける。
「行くぜ!!くらいな天使長さんよ!!重力加速!!」
「っ、これは……!?」
「藻掻けば藻掻くほど、押しつぶされんぞ? それこそぺしゃんこにな。センチェルス! あとは任せたぞ」
「ええ。……くらいなさい、時失地獄!!」
そう唱えると同時にミーウェルの術で動けないメタラエルに向け黄緑色の光が放たれそれが直撃するとメタラエルから大きな時計盤が現れ、センチェルスの元へ吸い寄せられる。
それが何を意味が分かっていたのかメタラエルは動揺し、それを返してと時計盤を指差す。
「おや、貴女でもわかるんですね。この意味が」
「返しなさい!! それはわたくしの時計なんですよ!」
「知ってますよ。綺麗なダイアモンドの時計ですね。羨ましい限りです」
「これが天使の時計……」
「ええ。天使は純度の高い鉱石から生まれると聞いてます。時計もきっとその鉱石で出来ていると思っていましたがこれほどとは……」
返してと叫ぶメタラエルの時計にセンチェルスが指先で触るとメタラエルの体に黒い電気のようなモノが走り一瞬でその動きを止めてしまう。
その恐ろしさにミカエラもファウラも自分の時計を取られまいとセンチェルスから少し距離を取る。
「時計はその人の魂そのもの。それに魔族である私が触れたんです。もう指先一つ動かせないでしょう?」
「コーキセリアの新王が、これほど……とは……」
「さて、アーキエル王。取引をしましょう。この時計を壊されその存在ごと消えるか、ミカエラ、ファウラ、サンダルク、ラグシル、ウィードこの5名の身柄を譲渡して頂きこの時計を貴女に還すか。さあ、どうしますか?」
「天使を5個体も貴方に引き渡せというのですか!? しかも中級天使4人も……! 偽天使ラグシルは別としてそんなこと許可できるわけ……」
「なら貴女の時計盤を壊しましょう。大丈夫。コーキセリアに私のような新王が出現したようにいつかこのアーキエルにも貴女の代わりに新王が現れますよ、大丈夫」
壊しましょうといつものにこやかな表情でそう告げると杖の先の刃をメタラエルの時計盤に向ける。
やめて!と叫ぶけどセンチェルスはどうします?と問いかけるだけで。
メタラエルは悔しそうな顔をしながらわかったと頷き、それを見た彼はよろしいとその時計盤をメタラエルに還した。
時計盤は天使長の中に消えていくのを見守るとセンチェルスはミカエラ達にこちらへ来るように指示を出す。
「それでは、彼らは私が責任を持っていただきます。あ、帰還の邪魔しないでくださいね」
「わかっています。わたくしだって命が惜しい。さっさと行きなさい」
「はい。物分かりがよくて大変嬉しいです。さて、ミカエラ、ファウラ、サンダルク、ラグシル行きますよ。ミーウェル、エルザーク様をお願いします。私はあの子を連れていきます」
「あいよ。新王の仰せのままに」
ミーウェルは大剣を背中に背負った鞘に納めエルザークの元に行くとサンダルク達に礼を言い彼の身を優しく抱き上げる。
終わった……?とサンダルクは守護壁を解いた瞬間、魔力の消耗で倒れてしまい、ラグシルの必死に呼び声にも応答せずそのせいで彼は錯乱状態になってしまう。
「サンディ……! サンディ……! やだ、やだって……! ボクを置いてかないで……! サンディ!!」
「ラグシル様、大丈夫です。隊長は魔力回復のために寝てるだけです。ミカたち天使はコアの宝石さえ守っていれば死にません」
「え、ほ、ほんと……? ミカエラ……、ほんと……?」
「ほんとです。だからラグシル様が隊長を背負ってコーキセリアまで行けば大丈夫です」
だから行きましょうとミカエラは錯乱するラグシルにそう声をかけ立たせるとサンダルクを背負わせる。
背負われたサンダルクは浅い呼吸ではあるが確かに息をしていて、その重さに彼はやっと安堵したように落ち着きを取り戻す。
各々動けるのを確認しセンチェルスはウィードを抱き上げると天界に連れてきた魔族たちを引き連れコーキセリアへと帰還した。
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