EP10:第二次天魔大戦

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「とりあえず彼らはこれでしばらく寝ていれば大丈夫でしょう」 コーキセリア城に帰還するとウィード、エルザーク、サンダルクの三名は魔力回復のため奥にある特別な部屋に寝かされていた。 三人は床に大きな魔法陣が描かれた部屋の金色のベッドに寝かされており、各ベッドを囲むようにバリアのようなモノが発生していた。 「サンディ……」 「ラグシル様、大丈夫です。隊長のトパーズ、傷の一つもついてなかったんで、すぐ起きます。今は貴方も休むべきです」 「ミカエラ……」 「そうですね。でもまず、貴方達にはこちら側に堕ちてもらいます。いいですね?」 「……わかってます。ミカは覚悟できてます。でも、ラグシル様と隊長は、隊長が目覚めてからにしてあげてほしいです。隊長、ラグシル様の白くて柔らかい翼を気に入ってたので」 「わかりました。ラグシルの堕天はサンダルクが起きてからにしましょう。それではミカエラ、ファウラ、両名は私の部屋へ。ミーウェル、ラグシルはこの部屋の彼らを見守っていてもらえますか?」 「はいよ。ほら行くぞラグシル」 「ああ」 ミーウェルとラグシルが部屋に消えていくのを見送るとセンチェルスはミカエラとファウラを連れ自室へと向かう。 「サンダルク……」 「大丈夫だって。オレはあいつを傷つけてない。それがウィードからのオーダーだったからな」 部屋に入ったラグシルは眠り続けるサンダルクを心配そうに見つめていて、彼はそれに気づき壁に寄りかかるとそう告げる。 ドーム状のバリアに護られた三人に触れることは出来ず二人はただ見守るしかできなかった。 「ボクのせいだ。こいつがこんなに傷つくなんて、ボクなんか守る価値なんてないのに……」 「大好きな人を守りたい、ただそれだけだって。サンダルクのやつ、オレと戦ってる間もお前のこと心配してたしな」 「優しすぎるんだ、こいつは」 「ラグシル、だっけ。お前、サンダルクのことほんとに好きなんだな」 「……認めたくはないがな」 「ほんと、そういうとこエルにそっくりだな」 「ふん……っ」 素直じゃねぇなと苦笑しミーウェルはサンダルクの傍に寄り添うラグシルを見守る。 一方──。 「本当に黒になるのですね」 「びっくりするくらいきれいな黒……」 堕天の儀式を終えたミカエラとファウラはお互いの翼を見ながらそう呟く。 センチェルスは当たり前でしょう?と肩を竦めるとリーベントの長である死神王コーセルへ親書を認めると窓際に来た青い瞳の黒猫を机に手招く。 それは?と尋ねる二人に私の使い魔ですよ、と答えると黒猫の背にその親書を入れた小さなバッグを背負わせると行きなさいと頭を撫でる。 すると黒猫はニャーと一鳴きするとその背に硬質な黒い羽を広げ窓から飛び立っていった。 「空のように透き通った瞳があの子みたいで可愛いでしょう?名前はウィリアっていうんです。男の子なんですよ」 「それって、ウィードさんの魂名を弄ってつけたの?」 「ええ、もちろん」 「あの猫さんは一体いつ……」 「最近拾ったんです。死にそうになっていたところを拾ってちょっと手を加えたらあの通り。今リーベントに入界親書を届けに行ってもらったので明日にはミウラとロゴスにも会えるでしょう。よかったですね、ファウラ」 「うんっ。早く会いたいな……っ」 早く帰ってこないかなと待つファウラをミカエラに任せてセンチェルスは部屋を出る。 向かった先は人間界との通信が唯一出来るシステム管理室。 部屋に入ると正面の大きなモニターの電源を入れ、出現した光のキーボードを叩くと人間界の様子を映し出す。 カメラを切り替え、目当ての人物を見つけるとヘッドセットを取り付けると聞こえますかとマイクに向かって話し出す。 「あーあー、リーヴァ、リーヴァ。応答してください」 『……? センチェルス様? どうかされましたか?』 リーヴァは少し首を傾げると右腕にハマった時計型の通信機に話しかける。 センチェルスは彼に人目のつかない場所まで移動するように指示を出す。 少し経って路地裏まで来たリーヴァはここなら大丈夫ですと会話を続けた。 「リーヴァ頼んでおいた例の件、どうなっていますか?」 『あ、はい。順調に進んでます。住宅は既に確保済、センチェルス様とウィードくんの組織細胞から作り出した“彼ら”もじきに出てこれるかと。今は動き出したシャドウ・ルナ、アルリーノ、レビータに管理、監視させてます』 「ならよかった。壊れてなさそうですか?」 『はい。順調です。そちらはいかがですか?』 「ウィードたちは助けられました。魔力の消費が著しいので今は眠っていますが目覚めたら確保した家へ向かいたいので環境の手配のほどよろしくお願いしますね。リーヴァ」 『はい、お任せを』 通信が切れるとセンチェルスはモニターに人間界を映しているカメラを操作し、リーヴァに用意させた家を見る。 赤いレンガの屋根に、真っ白なレンガで作られた外壁、水色の門に黒い玄関ポーチのライト。 脇にある花壇はまだ緑だけれど真っ赤なバラが咲く予定。 玄関は白と黒のタイルで出来た西洋風の扉。 これが私たちの理想の家。 私たちが幸せになるための。 そこでの生活を想像するだけで笑みがこぼれてしまう。 ここで自分とウィード、そして自分たちの遺伝組織から創り上げた二人の子供。 家族四人、ココで静かに、誰にも邪魔される事なく幸せに暮らすんだ。 そう考えていた。 早くこの家をウィードに見せたい、そう急く気持ちを抑えながらセンチェルスはウィードが目覚めるのを待った。
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