EP11:望んでいた幸せ

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その頃。 「馬子にも衣装って感じだな」 「失礼ですね。私は何を着ても似合いますよ」 隣の実験室ではセンチェルスが白いタキシードに着替えていた。 一緒に部屋に入った栖と憎まれ口を叩きながら喧嘩をする事はなく、前撮りの準備を進めていた。 「ほんとにあいつと結婚するんだな、お前」 「ええ。やっと。長かったですね……」 「ほんとにな」 「あの子がずっと私を想ってくれるとは正直思いませんでした。私と違ってあの子は沢山の世界を見て、沢山の人と交流を持っていましたから……」 「そうか? 周りから見てもあいつはお前にしか興味なさそうだったぞ」 「そうですか?」 「ああ。ミーウェルのとこにいたときもずっとお前しか見てなかったしな」 苦笑いしながら答える栖にだったらよかったと返し、着替えを済ませ姿見に自分の姿を映す。 本当に長かった、と苦笑するセンチェルスのもとにパタパタと駆け込んで来たのは着替えを済ませた咲兎で。 彼はセンチェルスの姿を見つけるとその服の裾を掴み早く早くと引っ張る。 「咲兎はそれアルヴィティア学園初等部の制服ですかね? よく似合ってます」 「ボクのことはいいです! はやく!! お母さんがすごいんです! とてもすごいんです!」 「急がなくてもあの子は逃げませんよ」 「はーやーくー!! みーるーでーすー!!」 「咲兎のやつ早くあいつの晴れ姿を見せたくて仕方ねぇみてぇだな」 「はいはい今行きますから、そんなに引っ張らないでくださいな」 裾を引っ張る咲兎を抱き上げセンチェルスは実験室を出る。 そこにいたのは着替えを終え、先に背景用の壁紙前に立っていたウィードで。 彼のその姿を見たセンチェルスはあまりの愛らしさと美しさに言葉を失ってしまう。 「あ、あのっ、せ、センチェルス……? に、似合う……?」 「これは……あの、ちょっと時間をください」 「えっ……」 どうしたの?と不安そうにするウィードに背を向け壁に寄りかかるセンチェルス。 そんな彼にどうした?と栖が駆け寄りその顔を覗き込む。 「俺、似合ってない、かな……」 「あー……いや違う、こいつキャパオーバー起こしてやがる」 「え?」 「それってウィードさんがセンチェルスさんが思っていた以上に綺麗になったってこと?」 「たぶんな」 「ウィードさん、センチェルスさんのことお迎えに行ってあげて? たぶん一人でこっちまで来れないから」 「う、うんっ」 壁に向かってぶつぶつ何かを言っているセンチェルスにウィードはスカートを持ち上げながら気を付けて歩み寄っていく。 センチェルス?と肩をぽんぽんと叩くとびくっとして振り返ってくる。 「俺……かわい……?」 「……」 「センチェルス……かわいいって……いって……?」 「……」 「センチェルス……っ、おれ、かわいく、ない……っ? 似合わ……ない……っ?」 今にも大粒の涙を流し泣きそうになるウィードにセンチェルスは違います!と彼の肩を掴み必死の形相で見つめてくる。 その手は震えていて肩を掴む手がどんどん強くなってくる。 「センチェルス……?」 「かわいいです、すごくすごくかわいいんです! かわいくてかわいくて、私が思っていたよりも何倍も何十倍もかわいくて、綺麗で、どう言葉に表していいのか、あまりにも眩しくて、直視できなくて、その、とりあえず! よく似合ってます! 私のお嫁さんとして相応しい愛らしさです!」 そうまるでマシンガンのように興奮気味に伝えてくるセンチェルスは初めてでウィード含め周りの人達は驚いて目を丸くしていた。 「センチェルス……そんなに興奮するほど俺の事かわいいって……」 「はい、とても」 「嬉しい……。へへ……もっと、もっと言って? もっともっとかわいいって、綺麗って言って?」 「とても可愛いです、愛らしいです、綺麗です。私は本当にこんな素晴らしいお嫁さんを貰えて最高の気分です」 「センチェルス……っ、俺もセンチェルスのお嫁さんになれて凄く嬉しい」 咳払いをし自らを落ち着かせたセンチェルスはウィードを真っ直ぐ見つめそう告げる。 そしてそのまま彼の手を取り行きましょうと壁紙の方へ歩いていく。 「ルナ! センちゃんの服整えて! アルも! うーちゃんのいい感じに見えるようにして! 咲兎と羽衣は二人の前に立って!」 「わかってますです! いくですよ! 羽衣!」 「うん。いこ」 「リーヴァさんカメラ大丈夫?」 「大丈夫。任せて」 レビータの指示のもと動き出す一同を見ながらウィードとセンチェルスは懐かしいねと笑いあっていた。 この実験所にこんな活気が出たのは久しぶりで。 「ね、センチェルス。ここ、どうするの?」 「そうですね。アーヴェストもいないですし、私の目的は完遂したので立て壊してしまってもいいかと思ってます」 「でも……」 「地下に眠る彼ら、でしょう? 私も彼らをどうしようかと考えていたんです」 「でも死んじゃってるんでしょ? よかったらあのラベンダー畑に埋める?」 「そう、ですね……。あとは……」 「あとは……?」 「……撮影が始まるようです。この続きはまたあとで」 「うん」 そうして始まるウェディングの前撮り。 ライティングはレビータと栖が四人の手直しは凧がしており、リーヴァは無心でカメラのシャッターを切る。 休憩を途中途中で挟みながら前撮り撮影は続き気づけば外は真っ暗になっていた。 「夜も遅いですし、今日はここに泊まりますか?」 「うんっ! 俺、ここで寝るの久々!」 「ではウィードくんとセンチェルス様はセンチェルス様の部屋で。羽衣と咲兎は僕たちと一緒でいいですか?」 「えー!! ボクたちもお母さんたちと寝たいです!!」 「ういも」 「そう言われてもあのベッドで四人は無理だよ」 「やです! ボクたちもお母さんとお父さんと寝るです!!」 「寝るの。一緒」 「困ったな……」 一緒がいいと駄々を捏ねる二人にウィードはどうにかできない?とセンチェルスに尋ねる。 けれど部屋自体が狭いのでどうにもできないと困らせてしまう。 どうしよう……とうつむいてしまうウィードにセンチェルスは何かを思いついたようで二人に歩み寄ると何かを話してまたウィードの傍に戻ってくる。 すると羽衣と咲兎はさっきと変わって隣の部屋で寝ると元気よく返事をした。 きょとんと小首を傾げるウィードにセンチェルスは着替えてきましょうとその手を引き更衣室に彼を入れると隣の更衣室に自分も入っていった。
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