EP11:望んでいた幸せ

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そしてその日は来た。 「お母さん綺麗……」 「ありがとう、羽衣」 「いこ? 咲兎とお父さん待ってる」 「そうだね」 式場の更衣室。 ウィードは羽衣と共にそこを出ると目の前にいたのはミーウェルで。 なんで?と首を傾げるウィードにオレだって親代わりだろと手を差し伸べてくる。 「レッドカーペット、歩くんだろ? オレがお前の父親代わりしてやるよ」 「ミーウェル……」 「この人、お母さんのお父さん……? ……おじいちゃん?」 「お? こいつお前のこどもか? ウィードにそっくりだな! オレはミーウェル。よろしくな」 「うん。ういは羽衣っていうの」 「羽衣か! あ、時間……! ほら行くぞ! センチェルスもエルと一緒に待ってんだから」 「うんっ。行こ、羽衣!」 「ん。いく」 そうしてウィードと羽衣はミーウェルに連れられ式場の扉前に辿り着く。 この扉の先にセンチェルスがいる。 自分を祝福してくれる人がたくさんいる。 これからもっと幸せになるんだと大きく息を吸い込んだ。 「ういがベール持つ」 「うん、ありがと、羽衣」 「じゃあ行こうか、ウィード」 「うんっ」 開けるぞとミーウェルは式場の扉を開く。 その瞬間、割れんばかりの拍手が起こりその大きさにウィードはびっくりして反射的にミーウェルの後ろに隠れてしまう。 そんなウィードの手を引きミーウェルは式場内へと入っていく。 ゆっくり参列に来てくれた人たちにウィードを見せるように、ウィードが参列に来てくれた人たちの顔を見れるように。 教壇前にいるセンチェルスとエルザークと咲兎の元へと連れていく。 転ばないようにこつこつと、ゆっくり。 「来たな」 「はい。来ました。可愛い私のお嫁さんが」 「お母さん来たですー!」 「ほらよ」 「ありがと、ミーウェル」 「幸せになれよ」 「うんっ」 ミーウェルからウィードの手がセンチェルスに移される。 二人が手を取り合ったのを見計らってミーウェルとエルザークは一番前の席に戻り式の進行を見守っていた。 「新婦ウィード・ウォーリア。汝は病める時も健やかなる時も新郎センチェルス・ノルフェーズを愛する事を誓いますか?」 「はい、誓います」 「新郎センチェルス・ノルフェーズ。汝は病める時も健やかなる時も新郎ウィード・ウォーリアを愛する事を誓いますか?」 「はい、誓います」 「それでは、誓いのキスを」 神父様にそう言われ二人は互いに向き合いじっと見つめ合った後、センチェルスがウィードのベールを上げ触れるだけのキスをする。 その瞬間周りから入ってきた時同様の拍手が起こり二人は振り返りありがとうと告げるとレッドカーペットを歩いていく。 参列者たちはミーウェルとエルザークの指示のもと、式場の外へと案内され花道を作り、二人がその間を歩くとフラワーシャワーを浴びせられる。 「えへへ……。みんなお祝いしてくれてる……」 「当たり前でしょう? 貴方の幸せを願わない人などこの世にいませんよ」 えへへ……と嬉しそうに笑うウィードを自分の腕に掴まらせるとみんなの間を歩いていく。 おめでとうおめでとうと祝福の声を聞きながらその花道を通っていくと手に持った青いバラのブーケを後ろ向きに投げる。 ぽすっととれたのはエルザークで、それを見たミーウェルが次はオレたちだなと肩を抱く。 「なぜ我が汝なんかと……!」 「永久契約までしといて何言ってんだよ」 「う、うるさい!!」 「ふふ……よかったね、エルザーク。幸せになってね」 うるさいとそっぽを向くエルザークをミーウェルに任せ二人はみんなにあいさつに回る。 青空のガーデンでちょっとしたパーティーを楽しんでいる一人一人にその姿を見せに行き祝福を受けていた。 「師匠! 来てくれたんだ!」 「まぁな。あんなに小さかったガキがこんなにかわいくなって俺は嬉しいよ。ほんとによかったな、センチェルスと結婚出来て」 「うんっ」 「あ、ウィードいた」 「ウィードー!」 「あ! ウィンダ! ギリファ!」 ギリファに手を引かれウィンダは駆け寄ってくるとみてみてと見せてきたのは銀色のブレスレットで。 同じものがギリファの腕にもありやっと結ばれたんだなと察し、良かったねとウィンダの頭を撫でるとうんと嬉しそうに笑った。 「相変わらず騒がしいね、きみの周りは」 「父さん、おめでとう」 「ロード! ウェルナー! 来てくれたんだね!」 「僕は別にどっちでもよかったんだけど、ウェルナーがどうしてもって」 「もう素直じゃないんだから。センチェルスさん、父さんの事よろしくね」 「はい。もちろん」 「ね、ウェルナー……。ルーシーたちは……?」 「あー……母さんとルルナとライルは連絡取れなくて……」 「そっか……」 見せたかったな……と思いながらウィードは俯いてしまう。 そんなウィードに仕方ないですよと彼の肩を抱きセンチェルスは別の人の元へと連れていく。 「あ、こっちこっち!」 「いたなクソガキ」 「もうロゴスって相変わらずなんだから」 「ファウラ、ロゴス、ミウラ!」 「ウィード……! 走ると危ないですよ……!」 ドレス姿で駆け寄ろうとするウィードを抱きかかえセンチェルスはミウラたちの元へ向かう。 その近くにはもくもくとクロワッサンを食べている黒い長い髪に白いメッシュが一本入った赤い瞳の見知らぬ青年がいて。 そちらは?と聞くとびくっと反応しそのままロゴスとミウラの後ろに隠れしゃがみこんでしまう。 「大丈夫だよ? 怖いひとはここにはいないから」 「うっ……うっ……」 「あーごめんな、ウィード」 「こやつ、初対面のやつには誰でもこうなってしまうんだ」 「コーセルさんー、この人がコーキセリアの新王のお嫁さんのウィードさんだよ?大丈夫、怖くない怖くない」 「……う……う……」 「だめみたい」 怖い怖いとうずくまるその青年にウィードは小首を傾げ、そうだと何か思いついたように声を上げるとテーブルを回って料理を食べている羽衣と咲兎を呼びあの人のところに行っておいでと告げる。 二人は分かったー!と元気よく返事すると彼に駆け寄り後ろから抱き着いた。 「う、うわ~~~!!!」 「あはは! 驚いたですね!」 「びっくりぎょーてん」 「な、何をする!? み、ミウラ! ロゴス! ファウラ! た、助けて……!」 「大丈夫だよ、コーセル。二人ともウィードの子供だから悪い子じゃないって!」 「コーセル? ではこの人がリーベントの王…ですか?」 「あ、初めましてだっけ? そ。この人が俺たちの王様。コーセル・ゴースト。いつもはハジメって従者がいるんだけど今日は来れなくてさ。でも一応コーキセリアの新王様の結婚式だろ? 行かないとだめだって言われてきたんだけど……」 「我ら以外はこんな感じだ」 「もう帰りたい……帰らせて……」 もうやだ……とうずくまるコーセルに羽衣と咲兎は顔を見合わせると別のテーブルから焼き立てのクロワッサンが入った籠を手にすると一緒に食べよと誘う。 その瞬間、コーセルの目が代わり籠の中のクロワッサンを取り食べ始める。 「クロワッサン、好きですか?」 「ん……ラムネの次に好き……」 「おいしそう」 「ボクらも食べるですよー!」 「ん」 三人でクロワッサンを食べているうちにやっと話しができるようになったようで三人で楽しそうに話していた。 それをみて俺も混ざる!と駆け寄っていき、センチェルスはそんな彼を見送りながらミウラたちと微笑ましく見ていた。 「ウィードってほんと変わらないな」 「あの時のクソガキのままだ」 「でもそれがウィードくんの魅力なんだろうね」 「あんなガキの何がいいんだか」 「あの底抜けの明るさがいいんですよ。誰にでもあーやって笑顔で接して、誰でも笑顔にしてくれる、そんな存在にみんなが惹かれるんです。もちろん私もその一人です」 「そうだな。でもあいつが笑顔でいられるのはお前がいるからだと思うけどな」 「ええ、そうですね」 一緒にクロワッサンを食べながら他愛もない話をして笑いあうウィードを見ていつまでも見ていたいなと思い自分のところに帰ってくるのを待っていた。 そこへ後ろからわー!っと飛びついてきたのはアーメイで。 彼は恋人であるディーラスを連れセンチェルスの前に現れた。 一緒にいるはずのアカツキの姿が見えず彼は?と尋ねるとテーブル回って料理食べてるとディーラスは肩を竦めた。 「キミも変わらないね、アーメイ」 「まぁねー! 聖夜くんおめでと!」 「ありがとう、アーメイ。君たちはいつ婚約するの?」 「まだちょっと準備ができてなくてできないんだ。ディラクでの婚約の儀式が結構めんどくさくて」 「人間と違ってな。獣人の婚約は住人の前で愛を示すために相手をみんなの前で犯さなきゃならねぇんだ」 「とんだ変態儀式ですね」 「しかも狼の姿でだよ!? ボク狼に犯されてるとこ、みんなに見られなきゃなんないの! 恥ずかしくてたまんないよ! だから普通のにして! ってお願いしてるの!」 「でもそれが神聖な儀式だからな。あきらめろ」 「やだよ!!」 「相変わらず仲がいいね、2人とも」 言い合いをしながらもなんだか幸せそうなアーメイを見てこの子も自分の居場所を見つけられたんだなと微笑ましく見ていた。 こうしてみるとウィードに本当にたくさんの人脈ができたなと関心さえした。 こんなにもたくさんの人が彼の幸せを願って、祝ってくれている。 なんてすばらしい日なのだろう。 そう思う他なかった。
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