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彼が寝たのを確認するとリーヴァはコーヒーを入れ銀色の鍵のかかった箱を持ってくるとその中身をテーブルに並べていく。
それはあの“暗殺依頼書”で。
黒い封筒を一つずつ開き中身を確認する。
その殆どが一方的な感情の押し付けからくる恨みや妬みのもので。
一時の感情でこんなにも殺したがる人間は愚かだなと思いながら今日の標的を選別する。
その選別の仕方はそれぞれで、依頼内容や金額、標的を始末する場所、時間、などを踏まえウィードとセンチェルス、そして二人の子どもを守るのに支障がない程度のもの、それらと照らし合わせ仕事を選んでいた。
「これなら二人に任せても大丈夫だな。……仕事だよ、シュヴァルツ、ヴァイス」
「はい、お兄様」
「兄様、今日はどんなお仕事?」
振り返ることなく2つの名前を呼ぶと彼の後ろに白いワイシャツとコート、スラックスを着た黒髪の少年と黒いワンピースを着た黒い長髪の少女が現れる。
これをとリーヴァは二人に一つの封筒を渡す。
それが今日のお仕事だと伝えて。
「これが今回の標的。兄様の手を煩わせるほどじゃないね」
「そうね、ヴァルツにぃ。お兄様の手を借りなくてもこれくらいならヴァイスたちが始末できるわ」
「そうだね、ヴァイス」
「決行は今日の夜。僕の方は別の仕事があるから、ミスしたら殺すよ。シュヴァルツ、ヴァイス」
「ええ、もちろん」
「ミスなんかしないよ。だってぼくらは、災厄の兄妹。兄様の手は煩わせないよ」
「そうですわ、お兄様。お兄様はあの方たちをお守りしなくてはならないんですもの。雑魚の始末はヴァイスたちにお任せを」
「そう。ならもういって。報酬は後でいつもの通り家のポストに入れとくから」
「わかった。ヴァイス、行こう」
「ええ、ヴァルツにぃ」
大切そうにその封筒を持ち二人はその場から消えた。
二人の気配が消えると一息つき一つの封筒を残し箱に鍵をかけ自分の部屋である屋根裏部屋にしまうとウィードの様子を伺う。
すやすやと静かに寝息を立て眠るウィードを見て起こさないようにそっとその場を後にすると洗っていたシーツをベランダの物干し竿の高い方にかける。
洗濯物が乾くのを待ちながら残ったコーヒーを飲みテレビをつけると小さな音量で見始める。
そうしているとうぅ……とウィードが身動ぎだす。
リーヴァはちょっと待っててねと告げるとウィードたちの部屋に行きセンチェルスの白衣を手にすると彼の元に戻り眠る彼に白衣をタオルケットの上からかける。
するとすぐに安らかな寝顔になり再びすーすーと静かな寝息が聞こえてきた。
「ウィードくんほんとに相変わらず、ふにふにだな……ふふ……」
ふにふにと眠るウィードの頬をつつきながら微笑ましく見ているといい感じの時間になり、リーヴァは干してある洗濯物を取り込みしわにならないように畳むとそれぞれの部屋に入りしまっていく。
それと同時に新しいシーツをベッドにかけるとベッドメイキングを済ませリビングにまた戻り眠っているウィードを静かに揺すって起こす。
「ウィードくん、そろそろ羽衣と咲兎が帰ってくるよ」
「ん……ぁ……? もう、そんな時間……? お洗濯物……取り込まなきゃ……」
「もうとりこんだから二人の出迎えお願いできる?」
「ん、あ……ごめんね……? わかったー」
ぐぅーっと伸びをするとウィードは玄関へ向かう。
すると丁度その時ただいま帰りましたですー!と元気な声と共に咲兎と羽衣が帰ってくる。
二人はウィードの姿を見るなり鞄を放り投げてただいまーとその胸に飛び込んだ。
「おかえり、羽衣、咲兎」
「ただいまです! お母さん!」
「ただいま、お母さん」
「お夕飯の用意するから二人はお洋服着替えておいで。あ、手洗いとうがいも忘れないこと」
はーい!とそろって返事をすると二人は洗面所のある脱衣所に向かう。
ウィードはその背を見送り夕飯夕飯とキッチンに戻るとレシピ帳をペラペラと捲り今日の夕飯を考え始めた。
「お母さんー! 着替えてきたですよー!」
「おなかすいた……」
「お夕飯できるまでテーブルにあるパウンドケーキ食べてていいよ、二人とも」
「やったですー! ボクはクランベリーがいいです!」
「ういはオレンジ」
お茶うけに入ったパウンドケーキをそれぞれ手に取ると二人はソファーに向かいいつものアニメを見始める。
どうやら魔法少女ものらしいが、普通の魔法少女ものとは違うらしく二人は仲良くそれを見るのが日課になっていた。
そんな二人を見守りながらオムライスを作るウィード。
「羽衣ー、咲兎ー、宿題はないの?」
「あるですよー。これ見たらやるです。ね、羽衣」
「うん。これ見終わったらちゃんとやる」
「そっか」
画面に夢中になりながら答える二人にいい子に育ったな…と小さく笑う。
あとは玉子だけ……と夕飯の用意がそろそろ終わる頃。
ただ今帰りましたと玄関から聞こえ、ウィードはその手を止めおかえりー!と走ってお迎えにいくと彼の胸の中へ飛び込んだ。
「おかえりーおかえりー! センチェルスー!」
「はい。ただいまです。ウィード」
「えへへ~、おかえりー!!」
「ほら、おかえりのキスは?」
「あ!」
そうだった!とウィードはおかえり!とセンチェルスにキスをする。
そこへ二人の子どもたちもおかえりーとセンチェルスに駆け寄ってきて、ウィードと同じように抱きつく。
センチェルスはそんな二人の頭を撫でただいま帰りましたと優しく微笑んだ。
「おかえりなさい、センチェルス様」
「ええ。変わりないですか?」
「はい。何事もなく、穏やかな日でした。ウィードくんがすやすやとお昼寝できる程度には」
「あー! リーヴァひどい! いいつけるなんて!」
「僕が言わなくてもセンチェルス様は知っているよ、ウィードくん」
「うー……」
「ほらほら、ずっとそうしていたら私がお家に入れませんから離れてくださいな」
ぽんぽんと頭を撫でるとウィードは今日はオムライスだよ!と満面の笑みを浮かべキッチンに戻って行く。
アニメも見終わり宿題を始めていた二人はわからないところがあるから教えてほしいとセンチェルスの手をぐいぐい引き、はいはいと苦笑いをしながら彼は二人についていきリビングへ向かう。
そんな様子を見てリーヴァはそろそろ仕事に行こうかと玄関に向かおうとするもたかたかっとリビングから出てきた羽衣に捕まり、リーヴァもとリビングへ引きずり込まれてしまう。
「羽衣くん、力強いね……」
「うい、強いもん。リーヴァ、ここわかんない。教えて」
「えっと、勉強はセンチェルス様に教えてもらったほうが……」
「ういはリーヴァがいいの。お父さんの話しでわかるの咲兎だけだもん」
「リーヴァ、教えてあげてください」
「はい……わかりました……」
学校から出された宿題を見せながら羽衣と咲兎は二人に解き方などを教えて貰う。
四人の声を聞きながらウィードはオムライスを仕上げると木のボウルにサラダを盛り付けテーブルに並べていく。
「ごはん!!」
「オムライス……!」
「うんっ。ごはんにしよ!」
「わーい!お母さんのオムライスですー!」
「うい、お母さんのオムライス好き」
「美味しいですからね、ウィードのオムライス」
「得意料理ですから、ウィードくんの」
「ほらほら! さっさと席について!リーヴァも!お仕事はその後行くこと!」
「だそうですよ、リーヴァ」
「じゃあお言葉に甘えて頂こうかな」
冷めちゃう!とばたばたと自分の席につき5人揃ったのを確認してからいただきますと号令をかける。
それに合わせていただきますと続くと夕飯が始まる。
大きなスプーンで掬い大口を開けて食べる咲兎と普通のスプーンでゆっくり食べる羽衣。
そんな二人を見てセンチェルスとウィードは誰に似たんでしょうねとくすくす笑う。
「そういえば二人の誕生日っていつなの?センチェルス」
「あ、はい。いい忘れてました。この子たちの誕生日は11月25日。ね? いいでしょう?」
「いい双子の日、かー。うん!いい!」
「そうでしょう?」
「でもよくこの短期間で羽衣と咲兎を創れたね」
「素体は元々ありましたから。そこに私と貴方の遺伝子情報を組み込んで創ったのでそんなにかかりませんでした」
「あ、もしかして、あの双子天魔?」
「ええ。再利用してみました」
上手くいってよかったですと笑うセンチェルスにウィードはそうだねと返す。
そんな会話をしながら夕飯が終わるとウィードは食器の片付け、センチェルスは咲兎と羽衣をお風呂に入れに行き、リーヴァは仕事へと向かった。
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