EP11:望んでいた幸せ

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そうして子どもたちを寝かしつけやっと二人きりになるとリビングのソファーでセンチェルスの淹れたミルクティーを飲みながら今日の話をする。 仕事がどうだとか、家で何があったかとか、そんな他愛もない話。 そんな話をしながらウィードはふと思いだしたかのように顔を上げ真剣な顔でセンチェルスに向き直った。 「あのね、センチェルス。俺ね、エルフィーユに行きたいんだ」 「エルフィーユに? なぜ?」 「ずっと怖くて行けなかったから」 「怖い?」 「うん……。俺だけ生き残ってみんな死んじゃったから…。俺があそこにいたから……みんな……」 「ウィード……」 「センチェルスが俺を守るためにしたことだっていうのはわかってる。でも、俺がいたからみんなセンチェルスたちに殺された……。平和な日常を送ってたはずなのに……俺が長になったから……」 「貴方のせいではありませんよ」 全てはレグルス王のせいだとセンチェルスは告げる。 その答えにウィードはあの時聞けなかったあそこにいた時の結末を聞いた。 センチェルスはその問いに少しだけ黙り込み考える素振りを見せると小さく頷き話し始める。 「私が見たのはエルフィーユが国軍に襲撃される未来でした」 「国軍……? それってレグルスの?」 「はい。レグルス王は国軍にこう命じました。辺境の地にあるエルフィーユを滅ぼせと。そこには悪魔の使いである“翼者”がいると」 「そんな……ライルは悪魔なんかじゃ……」 「ロードは闇王になったきっかけでもある赤月の惨劇を知っているでしょう? 遠い昔の赤い月の晩、翼者が一人残らず借り尽くされたあの惨劇を。あれを引き起こしたのも当時のレグルス王でした。だから、生まれた翼者がそれを知れば自分たちに仕返しをしてくると思ったんでしょうね」 「それってロードがヘルミスを失ったあの惨劇だよね……?」 「ええ。その一件以来、レグルス王は翼者を酷く警戒し見つけ次第殺していたそうです。そんな脅威がエルフィーユにいる、それを知ったレグルス王はあそこごと滅ぼすよう命じました」 持っていたティーカップをローテーブルに起き一息つくとセンチェルスは天井を見上げ話しを続けた。 「国軍が攻め込むのは私がエルフィーユを襲った次の週。ですからその前にケリをつける必要がありました。でないと貴方があそこで一人、死んでしまう結末がそこにありましたから」 「俺が一人で……? 住民たちは?」 「逃げました。無事かどうかは知りませんが。全員、貴方を見捨てて」 「でもそれって俺が守ったってことでしょ?」 「いいえ。彼らは国軍が攻め込んでくるのを知り貴方を見捨てたんです。あのエルフィーユは貴方の魔力で守られていた、中にいれば安全なはずだった。貴方は住民たちにこう言うんです。俺が張った結界はそこいらの術師には破れないと。けれど住民たちは貴方があの村に来た当初貴方にしてきた様々な事の仕返しにその結界を国軍が攻め込んでくるのと同時に解除するんじゃないのかと責めたんです」 そんなことしない!と立ち上がるウィードにセンチェルスはあそこにいた貴方も同じことを言いましたと苦笑する。 それでも住民は彼を恐れ罵詈雑言を浴びせ一人、また一人とエルフィーユを出ていったという。 違う違うと訴えても誰も信じてくれず塞ぎ込んだウィードを助けてくれたのはヒカル、ミーヤ、ウェーラ、そして翼者のライルだけだった。 5人になってしまったエルフィーユについに国軍が攻め込んでくる。 けれど結界のせいで中には入れず国軍はその結界に攻撃を始めるが、ウィードの魔力で出来た結界がそんな簡単に壊れるはずもなく。 「けれど、出入り口を封じられた貴方たちはもう袋のネズミ、逃げられるはずがありませんでした。だから貴方は決意したんです。自分を信じてくれて傍にいてくれた四人は自分が犠牲になってでも守ると」 「それで俺は死んだの……?」 「四人を安全な場所へ転移させるには膨大な魔力を必要としました。それこそエルフィーユを守っていた結界が解かれてしまうほどに。だから貴方はあえて結界を解き膨大な魔力を練り上げると四人をまとめて私の実験所へ転送させ、それが終わると同時に突撃してきた国軍に何十発もの銃弾を撃ち込まれ殺されたんです」 「だから国軍が攻め込んでくる前に俺を……?」 「はい」 「で、でも!! エルフィーユを陥落させる必要なんてどこにも……!」 「貴方を見捨て裏切った彼らを私がのうのうと生かしておくと思いますか?」 「でもそれはパラレルワールドの住民たちで……」 「パラレルワールドでも彼らは彼ら。わたしにとっては貴方を殺した仇ですよ。許すはずないでしょう? だから死んでもらったんです」 「でも……ミーヤとウェーラとヒカルは、俺を信じてくれたんでしょ……? なのになんで……」 「ええ、そうですね」 「なんで、殺したの……?」 恐る恐る尋ねるウィードにセンチェルスは不要なものだからですと答えた。 その答えにウィードは泣きながら彼らが自分にとって大切な友達で失いたくなかったと話す。 泣きじゃくる彼にセンチェルスは一瞬驚いた表情を見せるもすぐにいつもの様子に戻り、抱き寄せると泣かないでとそっと親指で涙を拭った。 「貴方がそんなに悲しむなんて……。でも安心してください。三人とも苦しまないように一瞬で仕留めましたから」 「ミーヤとウェーラはお友達だったんだよ……? 俺の大事な……。ヒカルだって、俺の大事な……」 センチェルスは泣いているウィードの頬を包み込むように片手を添え自分のほうに向かせると困ったような表情を見せる。 それでも泣き止まないウィードに一緒にお墓参りに行きましょうと提案する。 「お墓……?」 「はい。エルフィーユの奥に塔があったでしょう? そこに弔ってあるんです。ですから、ね?」 「そう、なの……?」 「はい。あの人達には何の恨みもありませんから」 「そっか……」 だから悲しまないでと目元にキスをするセンチェルスにウィードはぎゅっと抱きつき、もう自分の大切なものを壊さないでと訴える。 その切実な訴えにセンチェルスは分かりましたと頷きいつものように小指を絡ませ指切りをする。 「やくそく……」 「はい、約束です」 「じゃあ、一緒に寝よ……?」 「そうですね、もう夜も遅いですし」 行きましょうとセンチェルスはウィードを姫抱きにすると寝室に向かいベッドに彼を下ろすと電気を消し隣に入る。 隣に来た彼に自分の身を寄せ今度の日曜に行こうねといつもの笑顔を見せ、センチェルスもはいと優しく微笑んだ。 「お仕事、お休み取れそ……?」 「貴方の為なら何としてでも取りますよ」 「えへへ……よかった……」 「それじゃあそろそろ寝ましょうか、ね?」 「うんっ、おやすみセンチェルス」 「はい、おやすみなさい」 おやすみとキスを交わしウィードが眠ったのを確認するとセンチェルスもゆっくりと眠りについた。
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