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そして日曜。
「ここがお母さんの故郷ですか?」
「静か……」
「うん……。ここは俺が昔治めていた封印士たち村、エルフィーユ。もう誰もいないけど……」
ウィードたち四人はエルフィーユに来ていた。
その場所はあの時と変わらず何もなくて、家も燃えたそのままだった。
「俺、塔に行ってくる。センチェルスは羽衣と咲兎とここで待ってて」
「一人で大丈夫ですか?」
「うん。一人で行きたいんだ」
「そうですか。わかりました。ここで待っています」
「うん」
「お母さん、いなくならないです……よね……?」
「お母さん……いなくなっちゃやだ……」
「大丈夫だよ、羽衣、咲兎。ちゃんと戻ってくるからここでお父さんと待っててくれる?」
大丈夫と二人と目線を合わせるようにしゃがみ込みそう伝えるとウィードは三人を残しエルフィーユの奥にある水晶の塔へと向かった。
塔に続く階段を一段一段上っていくと青い水晶で出来た塔が見えてくる。
扉の前で一息つき左手の薬指についた指輪に口づける。
その瞬間彼の姿が封印士の正装に変わっていき黒いマントを翻し扉に左手を翳すとその扉が開き中に入っていく。
塔の中も水晶で出来ており青いせいかどこかひんやりした雰囲気だった。
こつこつと彼の足音だけが響き、本当にここは自分一人になってしまったんだと嫌でも突きつけられてしまう。
どんな顔で三人に再会すればいいのかわからないまま彼は三人が弔われている部屋へと辿りつく。
そこにはガラスの棺が3つ並んでおり、その奥にあの時よりだいぶ成長したライルの姿があった。
「……ライル……なのか……?」
「……! ウィード、さん……?」
声をかけるとびくっと体を震わせ振り返るライルはだいぶお兄さんの顔つきになっており時の流れを感じさせた。
恐る恐る立ち上がったライルはウィードに向き合うと今にも泣きそうな表情で本当にウィードさんなの……?と再度問いかけてくる。
ウィードは深く頷きそうだよと答えると心配してたんだと告げる。
「ウィードさん、死んじゃったって聞いてたから驚いた。転生してたんだね」
「ああ……。ライルは、あれからどうしてた……? リーズレットを俺が攻撃してから……」
「ルーシーさんとルルナちゃんに匿われてずっとここに。ボク、翼者だから何処にも居場所がなくて、それで……」
「そっか……。ルーシーとルルナは? 元気にしてるのか……?」
「……うん。ウィードさんは……?」
「俺、センチェルスと結婚したんだ。この前。やっと一緒になれた」
「……そっか」
よかったねと言ってくれるもライルはウィードに歩み寄る素振りを見せずあのときのことを許してくれる雰囲気ではなかった。
「俺……あの……」
「ウィードさん、幸せ?」
「え……? あ、うん。すごく幸せ。センチェルスと一緒になれて……センチェルスとの子どもも二人もできたの。俺、今が一番幸せ……」
「……ボクはね、ウィードさん。あの場所を失ってからずっとここに隠れて過ごしてた。幸せなんて程遠い生活。ねぇウィードさん。ボクの幸せはあの時、壊されて、終わった。それからずっとボクはここに隠されて、ルーシーさんもルルナちゃんもたまにここに来るけどずっと一人なの」
「ライル……」
「ねぇ、わかる? ウィードさんの幸せはボクの孤独の上に成り立っているし、ルーシーさんの大切な村を奪った上に成り立ってるの。ルルナちゃんだってずっとルーシーさんの傍でルーシーさんを支えてる」
「……ごめん……」
「ごめんの一言で済むわけない、そんなのわかってるよね。ウィードさんはボクたちの大切なものを全部奪って今の幸せを手に入れた。忘れないで。ボクたちの幸福の犠牲のもと、ウィードさんは幸せになったの。だから、ウィードさんにここに来る資格はない。だからさっさと出てって」
まっすぐ見つめ真顔でそう言い放つライルにウィードは俯きごめんなさいと繰り返す。
そんなウィードにライルはいいから出てってよ!!と怒鳴りつけ、彼はその声に驚き泣いてその場所を走って出て行ってしまう。
走って走って、エルフィーユに戻りセンチェルスの姿を見つけると彼に抱きつき声を上げて泣きじゃくった。
塔で何があったのかわからず幸せになってごめんなさいと謝り続ける彼にセンチェルスは困惑したような表情で抱きしめ慰めていた。
そんなウィードの頭や背中を羽衣と咲兎が大丈夫?泣かないで?と撫でていて。
「おれっ、おれが……っ! しあわせに、なった、から……っ! みんな、みんな、!! おれなんかっ、幸せになっちゃっ、いけな、かったんだ……っ!」
「ウィード、そんなことないですよ。貴方は沢山苦しんだんです。だから誰よりも幸せになる資格があるんです」
「でもでも……っ!!」
「お母さんがにこにこしてないとボクらも悲しいです……」
「お母さん、笑って……?」
「羽衣と咲兎もこう言ってますから。貴方は幸せになっていいんです。塔で何があったかは知りませんが、幸せになっていいんですよ」
「センチェルス……羽衣……咲兎……」
「そんなわけないでしょ、馬鹿じゃないの?」
「……!!」
聞き覚えのある声に顔を上げると黒いローブを着たルーシーと少しお姉さんになったルルナがそこにいて。
名前を呼ぼうとしてもルーシーはあんたに呼ばれると反吐が出ると顔をしかめた。
「あんた、どの面下げてここに来たわけ?」
「あ、あの……俺……ミーヤ達に会いに……そしたら、ライルが塔にいて……それで……」
「よくもまぁ、自分が傷つけた相手に会いに来たわね。いい根性してるわ。次はなに? あの塔でも壊すつもり? あたしの村を壊したみたいに」
「ち、ちが……お、おれは……」
「違う? はぁ? じゃあライルを殺しにでも来た? あんたはセンチェルスさえいれば何もいらないんだものねぇ?」
「違う……! 俺は、本当にあそこにライルがいるなんてしらなくて……っ」
「あっそう。そういえばウェルナーから聞いたわ。あんた、センチェルスと結婚したらしいじゃない。いいわね? あんただけ幸せになれて。ねぇどんな気分? あたしたちの平和で幸せな日常を壊してまで手に入れた幸せの気分は」
「ルーシー……」
「軽々しく呼ばないで!! あたしはもうあんたとは関係ない。赤の他人よ。……あ、でもあの事は許さないから。あたしの大切な村を壊した報いは必ず受けてもらう。……行くわよルルナ」
「う、うん……」
ゲートから入ってくるとルーシーはウィードたちの前まで歩み寄りそうつきつけるとルルナを連れ塔の方へと消えていった。
きゅっと胸元で手を握りうずくまるウィードに帰りましょうと支えて立たせるもショックが大きいのかうまく立てずその場にへたり込んでしまう。
「ウィード……」
「俺……たくさん悪いことしたから……幸せになっちゃいけなかったんだ……。みんなが不幸なのは全部、全部俺のせいなんだ……俺が生きてるから……いけないんだ……」
「お母さん、そんなことないですよ? ボクはお母さんの子どもになれて幸せです」
「ボクも。お母さんとお父さんの子どもで幸せ。だから、そんなに自分を責めないで……?」
「ウィード。私も貴方といれて幸せですよ」
「でも……! ルーシーもルルナもライルも俺のせいで居場所を失った……! 俺のせいで、おれの、せいで……!!」
「とにかく、ここに長居は無用です。家に帰りましょう」
「俺、帰らない……。俺はここで……」
「やれやれ、困ったお姫様ですね」
仕方ないとセンチェルスはその姿を時空術師に変えるとウィードを抱き上げ額にキスをする。
そうして彼の時計盤を取り出すと朝から今までの時と結びついた記録を全て抹消し、塔には四人で行き、墓参りをしてきたという架空の記録を刻みこむ。
削られた記録が埋まると時計盤はウィードの中に戻り、自身の時計盤を弄られた彼はそのまま気を失ってしまう。
「お母さん……」
「羽衣、咲兎。ウィードが目を覚ましたらお話し合わせてあげてくださいね」
「わかってるです」
「お母さんもう泣いてほしくない」
「そうですね。さ、お家に帰りましょう」
「はい、です」
「うん」
そうして気を失ったウィードをセンチェルスが背負い羽衣と咲兎を連れ自宅へと戻っていった。
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