EP3:接触までのカウントダウン

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部屋に戻るとまたカケルとリーヴァが喧嘩をしていた。 困ったなーと思っていると腕の中のウィードが眠そうにうとうととしだし、寝ないでくださいと揺らすが眠い……とセンチェルスにしがみついて寝てしまう。 「ほら二人とも静かになさい。ウィード寝かせますよ」 「あ! センチェルス様! おかえりなさい! ベッドメイキングならこの僕が! やっておきました!」 「センチェルス! 部屋の掃除は俺が! やっといたからな!」 「はいはい。ほら、ウィード、白衣返してくださいなー?」 「んーん……やぁ……」 「やぁじゃないですよ。それ私のなんです」 「やぁあ……」 白衣を脱がそうとするとやだやだと愚図るウィードに仕方ないと諦め、白衣を着せたままベッドに入れる。 ウィードが寝たのを確認して二人の喧嘩を収めるとこれからのことを話し始める。 「センチェルス様、これからどうされるんですか?」 「そうですね……。正直悩んでます。アーヴェストが何か企んでいるようで嫌な予感はしてるんです」 「あの局長が? 何ができるって言うんだ?」 「わかりません……」 自分の手元に置いておきたいと前置きをしてから話し始めるとリーヴァもカケルもアーヴェストがしそうな事だろー?と考え始める。 安易に考えられるのはセンチェルスとウィードを引き離すことか?とカケルに切り出され確かにありえなくはないと考え込んでしまう。 この局内の中でも珍しい異形者の被験体であるウィードをそう安々と手放すとは考えにくいなと悩むセンチェルス。 そんなことを考えている中、ベッドの方からウィードの苦しそうな声が聞こえ、どうしたどうしたと集まる。 「一体何が起こっているんでしょうか……?」 「センチェルス、なんか見えるか? オレたちには見えない何かとか……!」 「黒い靄のようなものは見えますが……これは……。……まさか……」 センチェルスは苦しむウィードを抱き上げ、体を見回すと取り込まれたはずの黒水晶の欠片が浮き出て光っているのを確認する。 それに触れようとするも何かに守られているように弾かれてしまい、やはりか……と苦虫を噛み潰したような表情でウィードを見る。 「センチェルス様それは……」 「あの薬で膨張させた彼自身の闇の魔力と、この欠片に閉じ込められているエルザーク様の魔力とがうまく同調しあえなくて彼の中でぶつかりあっているみたいです……。このままでは……彼の身が保たない……」 「ど、どうするんだよ……!」 「私がどうにかするしかないでしょう」 首のリミッターを外し元の姿に戻るとウィードの魔力との同調を始める。 できる事ならこのまま欠片を取り出せないかと考えながら少しずつ。 その魔力に反応してか欠片が体内から離れようと浮き上がって来ようとするが、ウィードはそれを抱き締めるようにして自分の中に戻そうとしていて。 驚くセンチェルスに彼はいやだいやだと欠片を抱き締めながら蹲る。 「ウィード……! それを離しなさい! このままでは貴方の身が裂けますよ……!」 「や、だっ……これ……渡したら……センチェルス……いなくなるもん……っ! これがなきゃ……俺はっ、センチェルスと一緒にいられない……っ!」 「何を馬鹿なことを……」 「だって、センチェルスが欲しいの……これでしょ……? だから……だめっ……。俺ずっとセンチェルスといたいんだ……っ」 だからだめと必死に欠片から溢れる魔力と自分の魔力をどうにかコントロールできないかと欠片を握りしめるが注がれる力に対応出来ない体は次第に悲鳴を上げて。 それでも離そうとしないウィードを見兼ねてセンチェルスは魔力の同調を続けながら彼に歩み寄っていき自分が使っていたリミッターを彼の首に嵌めるとそこに自分の魔力を練りこんでいく。 すると次第に彼の体を突き破ろうとしていた光は収まっていき浮き上がっていた欠片も彼の体内へと消えていき、ウィードは意識を失ってしまう。 「センチェルス様大丈夫ですか……?」 「ええ。これで暫くは大丈夫でしょう。ですが今の彼には扱えきれ無いほどの魔力が今体内にあるようで、このリミッターもいずれは……」 「どうにか出来ないのか……? リミッター増やすとか……」 「事はそう簡単ではないのですよ。カケル。まだこの子の魔力値を測ってみないことにはなんとも言えませんが、潜在的な魔力値がどうやら高いみたいで、そこにエルザーク様の一部でもある黒水晶の欠片、そして先ほどの実験……。これらが合わさりすでにこの子の体の中だけでは収まりきらないほどの魔力が溜まっているようです」 「でもウィードくん、未覚醒の封印士、なんですよね? それなのに……」 「それだからですよ。ですが、未覚醒でこの魔力……本当に未覚醒なのか疑問すら湧きますけど……。どちらにしろ今の彼にはこの魔力をどう扱っていいのか理解できていないようです。ここまできたらもう、覚醒していないとするなら無理矢理にでも覚醒させざるをえないでしょうね……」 「無理矢理にって……どうやってだよ?」 「まぁ、私自身を使うしかないでしょうね。それと同時にこの子自身にリミッターを埋め込みます」 埋め込む?と首を傾げる二人にセンチェルスはファイルの中から一枚の紙を取り出し見せると簡単に説明を始める。 それは義眼の形をした制御装置で、そこに一定量の魔力を込めることによりその力を発揮するもので、セフィからこの実験局に来るときに手入れくらい自分でしろと手渡されたものだと告げる。 「つまりこれを作ってウィードくんのどちらかの目と交換をするということですね?」 「そういうことです。この子の魔力量を考えるとそれだけでは全ては制御出来ないでしょうから、他にもつける必要はありますが粗方の魔力は制御できるとは思います。あとは……」 「あとは?」 「まぁ私なりリーヴァあたりが対戦相手で戦って消費させるしかないでしょうね」 「オレはー?」 「貴方も戦いたいんですか? 死にますよ? それはもう一瞬で痛みを感じることなくあの世行きだと思いますけど」 「ま、この馬鹿は“ただの人間”ですからね。僕と違って。その点、僕なら両親や祖父祖母から戦闘訓練は受けてきましたし、それなりにはお相手出来るかと思います」 そう言われカケルはうるせー!と拗ねて部屋を出て行ってしまう。 勝ったと満足そうに笑うリーヴァにあまりいじめないであげてくださいねとセンチェルスは苦笑しながらウィードを抱いたままカケルのあとを追う。 けれど、部屋を出て行ったカケルは実験局の辺りでは見つからず。 そんなに遠くまで行ってないはずだから探しに行くかと思ったがウィードが腕の中で寒そうに震えているのを感じ、また明日でも大丈夫かと部屋へと戻っていった。
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