EP3:接触までのカウントダウン

10/11
前へ
/190ページ
次へ
それから数日。 カケルがセンチェルスの前に姿を現すことはなかった。 いったいどこに行ってしまったんだと時間を見つけては街へ探しに行ったりしていたがその姿を見つけることは出来なくて。 「センチェルス様……。カケルがそんなに心配ですか……?」 「ええ、まぁ……。あの子も私の大事な友人の一人ですからね……」 「センチェルス……あの子も大事……?」 「ええ。大事ですよ」 「どのくらい? 俺より大事……?」 一番じゃなきゃやだ、と言いたげにウィードはそう聞きながらセンチェルスを見上げぎゅっと白衣の裾を掴む。 そんなウィードを抱き上げ、そうですねと考えるふりをしながら彼はウィードの額に口づけると貴方の方が大事かもしれませんねと微笑みかける。 その答えに嬉しそうに笑うウィードのもとへノックも無しに勝手に入ってきたのは何か機械を持ったリリィで。 なぜ入れたんです?と首を傾げるセンチェルスを何かを感じたリーヴァが後ろに庇う様に立ち塞がると腰の拳銃を引き抜き彼女にその銃口を向ける。 「リーヴァ? どうしたんです?」 「あいつの血の臭いがする。貴様、あのバカをどうした?」 「あっれれぇー? 匂いでわかっちゃうんだー。さすが、殺すしか能のない死神さんね?」 「答えろ。お前から漂ってくるその血の臭いの訳を」 「あははっ、怖い怖いーっ。わかってるくせにぃー?」 「センチェルス……っ、俺、あの人怖い……」 「ウィードまで……。どうしちゃったんですか?」 「死の匂いがするの……。あの人から……っ。やだ、センチェルス……っ。こわいっ……!」 怖い怖いと腕の中で胸に顔を埋め震えるウィードとリリィに銃口を向けたまま威嚇をやめないリーヴァを見てセンチェルスはまさか……と彼女を見る。 困惑したセンチェルスの表情を見たリリィはにんまりと笑い貴方が想像している通りよ?と告げ、彼の手首につけてあったブレスレットを床に投げる。 「カケルを……使ったんですか、私の断りも無しに」 「そ。だぁってー、カケルくんが悪いのよぉ? 局長にソレをセンチェルスくんから取り上げるな! なんて楯突くからぁー。局長命令で、カケルくんはーあたしの作った新薬の実験を受けてあっと言う間に死んじゃった! あはっ!」 「リリィ……やはり貴女は生かしておくべきではなかった」 「あれぇ? 怒ったー? あは! センチェルスくんが人間なんかのために怒るんだー? へぇー? これは、貴重なデータだぁ」 「……リーヴァ。命令です。ウィードを連れてこの部屋から出なさい。この下衆は私が始末します」 「わかりました。お気をつけて」 震えるウィードを受け取ったリーヴァは窓から飛び降り部屋を抜け出す。 その瞬間部屋から爆風が吹き出しセンチェルスが元の姿に戻り、片翼で外に飛び出す。 やばいと思ったのかリーヴァは本能的にその場からウィードをつれ、走り去っていく。 「リーヴァ……! まって、まって……! おねがい……!」 「だめだよ、ウィードくん。君まで巻き込まれる」 「でも……! 声が聞こえるの……!! カケルの泣いてる声……っ! お願い……っ! リーヴァ……!」 「あの馬鹿の? 彼は死んだよ、わかってるでしょ?」 「でも……っ、聞こえるの……っ! 助けてって……! お願い向かって……! お願い……っ!」 局から少し離れたところでウィードは泣きながら戻ってと訴えてくる。 それでもリーヴァが逃げようとすると腕の中で暴れ、抱えきれなくったのを見計らって背中の黒翼で飛び上がると局へ飛んでいってしまう。 待ってと急いで追いかけるリーヴァを引き連れウィードが向かったのは局長室で。 部屋に入ったウィードは辺りを見渡し机の上のランタンを見つけるとそれに手を伸ばすも、その手はそのランタンに届くことはなく逆に暗闇から現れたアーヴェストに捕まってしまう。 「ウィードくん……!!」 「やっぱりくると思った。427? キミを待っていたんだ」 「俺を……っ?」 「そ。あの薬を飲んだキミをね。あれできっと覚醒すると思ったんだが、強情だね、キミは。あれかな? センチェルスくんに嫌われるのが嫌なのかな?」 「……! は、離せ……!! 俺はお前の実験体じゃない……!! 俺はセンチェルスの実験体だ!!」 「あーあ。そんなこと言っていいのかな? そんな悪いお口はこのお薬を打ち込んで黙らせてしまおうねっ!!」 「……!!」 そう言いながらアーヴェストは捕まえたウィードの頚椎めがけて注射器の針を差し込みその中身を彼に注いでいく。 注がれたモノが何かわからないまま全身に走る痛みにウィードは悶え、悲鳴を上げ、床を転げまわる。 死んじゃうかな?死んじゃうかな?と楽しそうに笑うアーヴェストをリーヴァは一瞥すると転げまわるウィードを抱き締め大丈夫だからと何度も訴える。 自分の中をかけずりまわる異様な力に言葉にならない悲鳴を上げながらウィードはリーヴァに抱きつくことも出来ずに暴れていて。 早くセンチェルス様が来るようにと祈りながらリーヴァはウィードの体を強く抱きしめて、自分じゃどうしようもない、早くセンチェルス様さえ来れればと思ったその時だった。 ウィードの体の力が抜け、どうしたんだ?と思った瞬間、彼の体が白い光に包まれ浮き上がっていく。 何が起こっている?と見守るリーヴァとアーヴェストの目の前でウィードの服は白いローブへ変わり、背中に広がった翼が眩しいくらいの白へと変わっていく。 天使……?と唖然と見上げていると彼はその翼を広げ、彼の声とは思えない高い歌声を響かせる。 虚ろな瞳のままその声で紡がれたのは人のものとは思えない程、透き通って優しく、けれどどこか悲しい歌で。 優しくて綺麗な歌声だなと聞き惚れていると自分の中の何かが抜けていく感覚がして、慌てて彼の歌声をシャットアウトしようと耳を塞ぐもそれは意味をなさなくて。 それに気づいたウィードが歌いながらリーヴァに飛び寄るとその耳に触れると彼の歌声がリーヴァの耳には聞こえなくなり、何かが抜けていく感覚もなくなる。 そのままウィードはアーヴェスからランタンを取り上げると、その蓋を開ける。 すると中から一つの光の球が飛び出し、それをきっかけに様々な場所からその光が集まりウィードの周りを漂い始める。 彼は歌いながらその光一つ一つに指先で触れていき天へと導いていくかのように消していく。 そんな様子をまじまじと見ていると後ろの扉が大きな音を立て開かれ、入ってきたのはピンピンしているリリィとぼろぼろになったセンチェルスで。 そんなセンチェルスの姿を目にしたリーヴァは狂ったように叫び彼に駆け寄っていき、リリィはそんな彼にセンチェルスを投げ渡しアーヴェストにかけよっていく。 「あ、局長ー。酷いじゃないですかぁー。あたしも立ち会わせてくれるって言ったのにぃー!」 「あー、すまない。この子が余りにも暴れるものでつい」 「もー! ひっどーい!! センチェルスくんぼこぼこにしてやっとこれたのにー!」 「すまないすまない」 ははっ、と笑うアーヴェストにふくれたままのリリィ。 そんな二人に見向きもせずリーヴァは必死にセンチェルスを呼ぶが少しも動く気配はなくて。 なんで……と愕然とするリーヴァにリリィはセンチェルスくんはもう動かないよ?と当たり前のように告げてくる。 その言葉に絶望すら覚えたリーヴァは感情に任せるままリリィに襲いかかろうとするが、それを止めたのは誰でもないウィード自身で。 「退け! ウィード!僕はこいつらを殺すんだ……っ! センチェルス様の仇をとるんだ!」 「センチェルス……死んでない……だめ……」 「……は……??」 「センチェルス……死んでない……」 そう繰り返しリーヴァを止めると、彼は床に寝かされたセンチェルスに飛び寄り、包み込むようにその頬に両手をあてがうと、その唇にキスをする。 ウィードはそのまま自分の時を彼に与え始め、ある程度与え終わると力をなくした様にその翼を花のように枯らせ気を失ってしまい、元のボロボロの姿に戻ってしまう。 そのあとすぐに目を覚ましたセンチェルスは自分の上で気を失っているウィードを見て自分が誰に助けられたのかを察し、眠る彼の頭を撫でながらありがとうございますと弱々しくも微笑みかけた。 「センチェルス様……」 「心配、かけましたね、リーヴァ。それにウィードにも……。周りに散っているコレは彼のですか?」 「はい。ウィードくん、まるでこの世に舞い降りた至上の天使でした」 「そうですか。さぞ綺麗だったんでしょうね、ウィードの天使姿は」 「はい、とても美しかったです。貴方と並ぶほどに」 「……さて、アーヴェスト。詳しい話を聞かせてもらいましょうか? あの子が何を聞いてしまい、どうして死んだのか」 「あーりゃりゃ。あたし、しーらないー。まさか魔王以外に時渡し出来る人がいるなんて思わなかったんだもんー」 「リリィ。キミは奥で新薬の実験の続きでもしているといい」 「はぁーい。じゃあーねぇ、センチェルスくんー」 ばいばいーと手を振りながら奥の部屋へと消えていくリリィを見送りアーヴェストは何があったのか答えた。
/190ページ

最初のコメントを投稿しよう!

12人が本棚に入れています
本棚に追加