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局を出て行ったと思っていたカケルは一日経ってやはりセンチェルスの側にいたいと思ったのか戻ってきたという。
しかし部屋に戻るその途中。
アーヴェストの部屋から聞こえてきたセンチェルスからウィードを引き離す計画を耳にしてしまう。
それはセンチェルスをいずれこの実験局から独立させ、自分が捕まえてきた不用品共々、北のイスダリアを越えた先の廃実験所へ飛ばすという計画。
そうすれば彼は正反対にあるこの実験局には戻ってこれず、427は永久に自分の手元で好きなだけ実験できるとリリィに話していた。
案の定黙っていられなかったカケルはアーヴェストに盾突き、その罰として命を落としたと教えられる。
あのランタンはカケルを始め様々な実験で死んだ人の魂を封じ込めていたもの。
そしてウィードが歌ったのは正しく鎮魂歌そのものでそのまま他の閉じ込められていた者達と同様に天に召させられてしまったのだと肩を落とすアーヴェスト。
センチェルスはそんなアーヴェストに畳み掛けるように問う。
ウィードを自分から引き離すとはどういうことか。
この子に飲ませた薬は一体何だったのか。
そして、どうしてこの子がいきなり天使化したのか。
その問いにアーヴェストはご丁寧に一つ一つ回答していく。
一つめは、さっきも言ったがセンチェルスはそろそろこの実験局から独立させることを考えている、だからこの実験局の所有物である彼を渡すわけにはいかないと。
二つめは飲ませた薬はリリィが作った新薬で天使と悪魔の血液が混じったものだったと。
三つめに関してはそれも薬の作用だと笑って答えた。
「ですが、この子の背に広がったのは黒。本来黒は白にはなりえない」
「そう。本来は、ね。だがソレは違う。彼の中に渦巻いている闇の力、それは君も感じるだろう? 天使も悪魔もそれぞれ属性を持っている。天使とて闇の属性はいるということだ。つまり、彼の素質によっては天使にも悪魔にも成り得る存在だと僕は勝手に推測したわけだ。そしたら実験は成功し、彼の背には黒い翼が広がった。僕はてっきり悪魔の方になったのかと思ったんだけど今回のを見て違うなと思ったわけ」
「ウィードをどうするつもりですか。アーヴェスト」
「そうだねー、もう一度その出来かけた心を壊すほど拷問にでも掛けて悪魔に覚醒させたら面白いかな? 僕はね、キミのその整いきった顔が歪んでいるのを見てみたいんだよ。なんでも完全完璧に熟す、まるで化物のような存在。そんなキミの完墜ちした姿が見てみたいんだよ」
「相変わらずいい趣味してますね、アーヴェスト」
「お誉めの言葉どうもありがとう、センチェルスくん。ま、安心しなよ。キミをここから独立させるのはまだ先の話。もっと役に立ってもらわなきゃ、ね? それはまではその子をキミの好きにするといいよ」
「ええ。そうさせてもらいます。……リーヴァ、行きますよ」
「はい」
センチェルスはそうアーヴェストに吐き捨てるとウィードを抱き上げ、リーヴァに背後を任せながら部屋へと帰っていく。
部屋に戻ると緊張していたのかセンチェルスはがっくりとその場に膝をつき呼吸を荒らげる。
駆け寄るリーヴァに大丈夫だからとウィードを託し扉に背を預け、力なく座り込んだ。
「センチェルス様!?」
「大丈夫です、から……。一気に力を使い過ぎましたね、これは……。それに……、こればっかりは……貴方に任せるわけにはいかないでしょうから……」
「人間の僕では……お役に立てないのですね……」
「なら、俺なら出来る、よね……? センチェルス……」
そう言って目を覚ましたウィードはリーヴァから離れるとセンチェルスに向き合うように座ると彼の手を取り、ね?とその顔を覗き込む。
「……ですが、貴方は何をされるのかわかって言っているんですか?」
「ううん。知らない。だけどリーヴァが出来ないってことは人間じゃない俺ならなんとか出来るんでしょ? 俺の心が戻ってきたのはセンチェルスとリーヴァのおかげだから……だから、ね?」
「ウィードくん……」
「リーヴァだってセンチェルスが苦しんでるの嫌でしょ? 俺も嫌だもん。だから、俺を使って……?」
「……いいんですね? 何をされても?」
「ん。だって、センチェルスに救われた命だもん。少しくらい恩返し、させて……?」
「……救われたのは私だって同じですよ。……では、いきますよ、ウィード」
小さく頷く彼の額にキスをするとぱちんと指を鳴らすとウィードの頭上に現れたのは綺麗で大きな金時計で。
きれい……と驚くウィードを横目にセンチェルスは自分の時計盤をその隣に出現させる。
センチェルスの時計盤は隣に並ぶウィードの時計盤と相反するように赤く錆びており今にも朽ち果てそうで。
「そうですよね……こうなってますよね……」
「センチェルスの時計……ぼろぼろ……」
「まぁ、やってはならないことを自身がしてしまっているんですから仕方ないですよね……。本来私はこの時代にいない存在ですから……。……さて、ウィード。これからちょっと痛いですよ。私のこの時計盤と貴方のその金の時計盤を合成させます。他人の時間と自分の時間が関与し合うのでそこそこに激痛が走りますが一瞬なので耐えてくださいね?」
「激痛なの? ちょっとなの? どっちなの? センチェルス?」
「ちょっと、激痛です」
「………わかった」
それではいきますよと微笑みかけると彼は手を自分の時計盤に向け、そのまま軽く放るようにウィードの時計盤へと向けた。
するとボロボロの時計盤は金の時計盤へと重なっていき、ばちばちと光の火花を散らしながら合成されていく。
言いようのないその痛みからウィードは声にならない悲鳴を上げ気を失ってしまうも、一度始まってしまった合成は途中で止めることは出来ず終わるまでそれは続いた。
その間にもボロボロになった時計盤の装飾が剥がれ消えるたびセンチェルス自身にも痛みが走りその度に歯を食いしばるようにして耐えていた。
そうして合成が終わると時計盤は二つに割れ、センチェルスとウィードの中へ片方ずつ消えていった。
「センチェルス様、お身体の方は如何ですか……? ベッドまでお運びしましょうか……?」
「お願い、出来ますか……? 上手く動かないんです……」
「はい。とりあえずウィードくん先に運んじゃいますね」
「お願いします」
気を失っているウィードを先にベッドに運んでもらうとセンチェルスはなんとかドア伝いに立ち上がり慌てて戻ってきたリーヴァの肩を借りながらベッドへ向かう。
「センチェルス様……」
「カケルのことは残念でした……。本当に……。私のことになると本当に辺りが見えなくなるんです……。根は本当に良い子だったんですよ……」
「ええ。知ってます。この僕と張り合うほどでしたから。……きっとウィードくんが彼の最期の言葉を聞いているはずです。起きて落ち着いたら聞いてみましょう? ね? センチェルス様」
「はい……」
「今はゆっくりお休み下さい。センチェルス様」
「リーヴァ、隣に来てくれませんか? 今日は……今日だけは……」
「貴方が望むならいつまでも」
狭いベッドの中センチェルスはウィードとリーヴァに挟まれるように眠りについた。
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