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次の日の朝、ウィードの視力検査が行われ正常に機能していることがわかったが、眠ってしまう間際に言っていたことが引っかかりセンチェルスは彼をベッドに座らせ問いただした。
「うーん……なんて言ったらいいのかな……。こうやって両目で見てると普通なんだけど……」
「義眼の方だけで見ると何か違うんです?」
「うん……。なんかね、数字? が見える」
「数字?」
「ウィードくん、これ使う?」
「あ! ありがと! リーヴァ! えっとね……」
上手く言葉で説明出来ないウィードはリーヴァからスケッチブックを受け取ると自分が義眼の方で見えているものを自分なりに描いていく。
それはターゲットマーカーのような物の周りに数字が何個か並んでいるもので。
こんな感じ!と描き終わると自慢気に見せてくるが何なのか理解が出来ず、リーヴァと二人してそのイラストを食い入るように見つめた。
「これは……相手の能力値、ですかね。この点は?」
「あ、これね、なんか胸のとこについてることが多いよ」
「致命傷点でしょうか、そうすると。マーカーがある程度使えると戦いで有利かもしれません」
「そんなことにならないようにしますけど……。なるほど。ならばこれを使いこなす為にも訓練は必要ですか……。自身の身を守るためにも」
「戦うの? 俺、なんも持ってないよ?」
「リーヴァ、一丁貸してもらえますか?」
「あ、はい。大丈夫ですよ。ちょっと重いので扱えればいいんですけど……」
そう言いながら腰のホルダーから一丁取り出しウィードに渡す。
受け取った銃を物珍しそうに見る彼にリーヴァは使い方を教え始めたが、小さいウィードには重いらしく片手で撃つことは困難で。
両手で構えて撃ってみると撃つことは出来ても反動で倒れてしまう始末だった。
「……厳しそうですね。今のウィードに銃は」
「ですね……」
「とりあえずまずは封印士として覚醒させるところから始めましょうか。術技なら私が教えられますから」
「それじゃあ僕は実験局の庭園の使用許可貰ってきます」
「よろしくお願いします、リーヴァ」
「はい! お任せください! あの馬鹿の分も頑張ります!」
そう言ってリーヴァは部屋を出ていく。
センチェルスはそんな彼を見送りながらカケルの事を思い出したかのように暗い顔で俯いた。
そんなセンチェルスにウィードは思い出したかのようにカケルの最期の言葉を伝える。
【短い間だったけどセンチェルスといれてオレは幸せだった。ありがとう、こんな自分を受け入れてくれて、ありがとう】と。
「カケルね、笑ってた。センチェルスにありがとうって。あとね」
「まだあの子は何か言ってたんですか……?」
「まだ迎えに行ってやらねぇから覚悟しろって。だからセンチェルスは生き残らなきゃだめなの。カケルの分も。わかった?」
「別に死ぬつもりはないんですが……。まあいいです。それがあの子を死なせてしまった贖罪となるのならカケルの分まで生きましょうか。……貴方と共に、ですよ? ウィード?」
「うん。俺もセンチェルスの傍にいたいもん。それにセンチェルス、俺がいなくなったら死んじゃいそうだし!」
どういうことです?と首を傾げるセンチェルスにだって俺も大切な人でしょ?と笑って答え、窓から庭園へ降りていく。
それでもどういうことだとわかっていないセンチェルスはウィードを追いかけるように窓から庭園へ降りた。
そこへ丁度リーヴァがアーヴェストとリリィを連れくる。
二人の姿を見たウィードは怖がってセンチェルスの後ろに隠れてしまい、センチェルスもそんな彼を庇いながら何しに来たんですかと睨みつけた。
「そんなに睨まないでよー。ただ僕はソレの進捗を見に来ただけなんだからさー」
「そ。あたしはそれを記録しに来ただけー。別にあの子みたいに殺そうなんて思ってないしぃ? ソレはだぁいじな実験体なんだからぁー」
ふふっと厭らしい笑みを浮かべるリリィとアーヴェストをみてウィードは何かを決心したようにセンチェルスの後ろから出てくると、隣に並び彼の白衣の袖をくいくいと引っ張った。
「……センチェルス、あれ、俺にちょうだい」
「あれ、とは?」
「カケルのブレスレット。俺にちょうだい」
「突然どうしたんですか、ウィード。そんな険しい顔をして。まぁ、いいですけど……」
様子のおかしいウィードにとりあえずとカケルがつけていたブレスレットを渡す。
彼はそれを受け取ると自分の右手首に取り付けセンチェルスを守るように二人の前に立ち塞がった。
「ウィード……?」
「ウィードくん、まさか……」
「……黙っててごめんね。俺の力、見てて。センチェルス」
そう言ってウィードはブレスレットに埋め込まれた藍色の石に口付ける。
するとその石から光が放たれウィードの服装を青を基調とした服へと変えていく。
ケープがついた黒いマントを羽織ると出現した紫がかった黒の本を右手で掴むと二人を睨みつけるように対峙した。
「ウィード……貴方、覚醒してたんですね……?」
「うん。俺、センチェルス守るためなら使いこなしてみせるから」
「随分と従順に飼い慣らしたんだね? センチェルスくん。凄いなー」
「うるさい。お前らはセンチェルスの大事な友達を殺した。俺の大事な仲間を殺した。許さない」
「427さ、知ってる? 術は詠唱時間稼げなきゃ意味がないって。そんな時間与えると思う?」
「リーヴァ」
「わかってる」
いつの間にかスイッチを入れていたリーヴァは拳銃をホルダーから抜きながらセンチェルスを守る為に二人の前に立ち塞がる。
仕方ないなぁとリリィは出現させた杖を構え、臨戦体勢に入ったのをみるとウィードはその封印書をぱらぱらと捲り詠唱に入りながら右目を静かに閉じた。
それと同時にリーヴァはリリィとアーヴェストに向かっていって、そんな彼にリリィは最弱魔法をかけていくが構わず彼は突っ込んでいく。
「リーヴァ、リリィのピアス狙って。それが魔力の根源。それとアーヴェストが何かしようとしてる」
「わかった」
機械的な会話を交わしリーヴァは言われた通りリリィの両耳のピアスを撃ち抜いていく。
杖の消えたリリィはやばぁいと追い詰められたように顔を歪める。
「お前だけは……絶対に許さないッ……。……ダークネス・サンダリアッ!!」
そこにウィードが放った黒い稲妻が直撃するとリリィ真っ黒になりその場に倒れて動かなくなってしまう。
次……とアーヴェストに標的を定めるとそれに気づいた彼が白衣のポケットから何やらリモコンらしき物を取り出しそれを躊躇わずに押した。
瞬間、カケルのブレスレットから電流がウィードの身体に走り、悲鳴を上げ倒れてしまう。
何が起こったのかわからずにただ呆然と経過を見ていたセンチェルスは倒れたウィードを見て言いようのない感情に心が支配されていくのを感じた瞬間、自分の意思とは関係なく元の姿に戻った彼は杖を片手にアーヴェストの名前を叫びながら飛びよっていく。
寸でのところで飛び退いたリーヴァの声すら届いていないようで、今の自分には止められないと倒れたウィードの元へ駆け寄っていった。
「アーヴェスト!! 貴様……っ、俺の大事な人をどれだけ奪えば気が済む!? 答えろ!! カケルのブレスレットに何をした!」
「あははっ! 怒った怒ったー! センチェルスくんが激怒してるー! そうそうその顔だよ、僕が見たかったのは。端正な顔が台無しだー、あはは!」
「黙れ!! この屑以下が!! 俺の質問に答えろ!」
「あれにはちょっとした仕掛けをしたのさ。427は大事な化物の実験体だからねー。逃げられたら見つけるのが大変だろう? だからあーやって逃げられないように電流が走るように改造したんだよ? それを何の疑いもなく渡しちゃうんだから、アレを苦しみに叩き落としたのはキミの責任だよ? キミがアレを渡してなければアレは傷つかずに済んだんだ、あーあー、かわいそー」
「っ、……ふざけるな!! 今すぐ外せ! さもないと貴様をこの場でその醜い時ごと破壊してくれる!」
「あー無理無理ー。一度つけたら外せないもーん、残念だったね?」
「アーヴェスト……っ、貴様……っ!!」
「センチェルス……大丈夫、だから……」
大丈夫だよとウィードは傷ついた身体で飛び寄るとセンチェルスを宥めるように後ろから優しくそっと抱きしめる。
ハッとしたセンチェルスはウィードの方に振り返るとふらふらと飛んでいる彼を見て大丈夫なんですか……?と繰り返す。
その問いにすら彼は笑って大丈夫だからとぎゅっと激情しているセンチェルスに抱きつくとほらね?とその顔を見上げた。
「だから落ち着いて? 大丈夫、大丈夫だから。俺は此処にいるよ、センチェルス」
「ウィード……私は……私、は……貴方を失うと思ったら……怖くて……それで……」
「うん。わかってる。でもほら、俺は此処にいるよ。ね、ぎゅってして? そしたらわかるでしょ?」
ね?と微笑むウィードを恐る恐る抱きしめ、安心しきったのかセンチェルスは崩れ落ちるように意識を失ってしまう。
そんな彼を抱き締めたまま大丈夫、大丈夫だよと子供をあやすようによしよしと小さな手で頭を撫でるウィード。
二人の様子を見てリーヴァは自分の入る隙間はないなと二人を守るようにその銃口をアーヴェストに向けた。
「あーはいはい降参だよ。リリィを殺された僕には何も出来ないしー」
「ならさっさとこの場を去れ。アーヴェスト」
「ほんと君はまるで主人を守る狂犬だね。リーヴァ・キール」
「センチェルス様の幸せを守る為ならどんな手段も厭わない。例えそれが他人の犠牲の上に成り立とうとも。そこに僕がいなくとも。センチェルス様の幸せを脅かす者は誰であろうと許さない」
「おー怖い怖い」
退散退散とリリィの死体を抱えアーヴェストは庭園から姿を消す。
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