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彼の気配が完全に消えたのを感じたリーヴァは銃をホルダーに収めると後ろを振り返る。
そこにはまだ俺は此処にいるよと安心させるようにセンチェルスを抱き締めているウィードがいて。
その姿はまるで本物の天使のように優しくて、この子ならとリーヴァは彼の傍にしゃがみ込み、これからもよろしくねと頭を撫でた。
「リーヴァ……?」
「今日はこの辺でおしまいにしようか。ね? センチェルス様も随分とお疲れのようだし」
「うん。リーヴァ、センチェルス運べる? 俺は自分で歩くから」
「もちろん、任せて」
リーヴァはウィードからセンチェルスを離すとそのまま背中に背負い、彼と手を繋ぎ部屋へと帰っていく。
「ね、リーヴァ。なんでカケルの時は悪態ついてたのに俺にはすんなりセンチェルスのことお願いするの?」
「うーん……負けたくなかったから、かな。同じ人間なのに負けたくなかったんだよ。まぁ確かにあの馬鹿はどうしようもなくドジだし馬鹿の一つ覚えみたいに突っ走るし、いつも何かにつけて僕に張り合ってきたから」
「そか」
「……あいつはセンチェルス様の友人としてよくやってたよ。ほんとに。無鉄砲でさ。結局それが仇となってこんな結末になってしまったけど」
「うん。カケル、優しかったもんね。心を失くした俺にずっと話しかけてくれてたし……一緒に寝よって言われた時突っぱねちゃったけど……でも、嬉しかったんだ……。センチェルスのとこで寝ちゃったけど」
「ふふ、そうだね」
部屋につくとそんなことを話しながら二人はセンチェルスをベッドへと運び、窓辺で一息ついていた。
元の実験着に戻ったウィードはリーヴァの膝の上に座りながらぼんやりと空を見上げて。
どうしたの?と声をかけると彼は母さんに会いたいなと小さく呟き、ハッとしたように何言ってるんだろ…と無理矢理に笑いながら泣き出した。
「えへへ……。おかしいなっ、母さんにはもう、会えないって……わかってるのに、おかしいな……っ」
「会いに行こうか。ウィードくん。殺した僕が言うのもなんだけど。もしかしたらカケルの時みたいにいるかもしれない」
「俺ね……、ままに沢山話したいことあるの……っ! ありがとうって、今俺は幸せだからって……っ、それにねっ、うささんありがとうって……、ちゃんとおーじさまにあえたんだよって、伝えたくて……! でも……っ、まま死んじゃったからっ……。お墓行ったら……伝えられる……かなっ……?」
「きっと伝えられるよ。大丈夫。センチェルス様が目覚められたら三人で行こ? ウィードくん」
「うんっ……!」
約束だよ!と小指を立てる彼にリーヴァは頷き自分の小指を絡め指切りをする。
それが終わるといつものように笑い、そろそろ寝よ!と彼はぴょこんと降りるとリーヴァの白衣の裾をぐいぐい引っ張りながらベッドに向かうとセンチェルスの隣に入り、リーヴァはそっち!と反対側を指差す。
言われるがままに入るとこれでセンチェルス寂しくない!とぎゅっとしがみつきウィードは寝てしまった。
それから数日。
アーヴェストに黙って三人は局を抜け出すとリーヴァの案内で例のラベンダー畑に向かっていた。
ここからそう遠くない場所にあるというのでセンチェルスがリーヴァを背負い飛び、ウィードも飛行訓練がてら飛んでいた。
「重くないですか……? センチェルス様…」
「ウィード程とはいきませんが軽い方ですよ。大丈夫です」
「ならいいのですが……」
「心配する前に案内、頼みますよ。貴方だけが頼りなんですから」
「は、はい……!」
「ウィード、貴方も先に行き過ぎないで下さい」
「だってー! 俺、空飛んでるんだよ! 天気もいいし! 楽しくって!」
「貴方が笑顔でいてくれるのは大変嬉しいですがあまりはしゃぐと疲れますよ? 帰りも飛んで帰りますから。貴方を背負えるだけの力は私にはありませんからね」
「はーい!」
元気よく返事をするもわかっていないようでウィードは初めての空に大はしゃぎで。
仕方ないですねとセンチェルスとリーヴァは笑い合いながら彼を誘導しながら目的地へと向かう。
リーヴァが見つけたその場所は実験局から少し西へ行ったところ、街から少し離れた場所にあって。
隔離されたようにそこだけに紫の花畑が広がっていて、三人はその景色に言葉を失い、じっと見惚れていて。
沈黙を破ったのはウィードのセンチェルスみたいだねという言葉。
当の本人は私ですか?と首を傾げるが、リーヴァもその言葉に同意を示した。
「お花の色がセンチェルスと一緒! それにすごく安心する感じが似てる!」
「あー、私の髪と目ですか? 確かに似てますが、その安心する感じっていうのはどんな感じです?」
「うーん、うーん……難しいことわかんないけどふわってかんじ!」
「優しい感じ、ってことですよ。センチェルス様」
「優しい? 私が?」
センチェルスの背から降りたリーヴァは優しいですよと微笑みかけ、それに乗じてウィードもうんうんと頷いてみせる。
そういうことにしときますと苦笑し、リーヴァにアリアのお墓の在処を聞く。
畑の中央付近ですと言いながらリーヴァは二人をお墓の元へと連れて行く。
ここだよ、と三人が足を止めたそこは墓標こそはないけれども確かにそこに何かが埋められた跡のような物は残っていて。
ここに母さんが……とウィードはしゃがみ込むと、うさぎを抱えてない方の手でその場所に触れた。
「まま……俺、元気だよ……。これ、ありがとね……。俺、すごく嬉しかった……。ありがと……」
泣きながらありがとうと繰り返す彼に二人は暫く母親と二人にしますかと少し離れた場所へ移動し見守る。
大丈夫だから心配しないでと繰り返しながらウィードは自分が今とても幸せだと報告をしていて。
泣き過ぎて声が掠れても、それでも母親への報告をやめなかった。
最後の方は言葉になっていないけれどもそれでもウィードの想いは痛いほど伝わって。
一頻り報告が終わると立ち上がり二人の方を振り返る。
もういいんですか?と声をかけると大丈夫!と泣き腫らした顔で笑って答えた。
そんな彼の傍に戻り二人は土の下で眠るアリアに自分たちに任せてくださいと手を合わせた。
「リーヴァ、ありがと。こんなきれいな場所にままを連れてきてくれて」
「でも君の母親を殺したのは僕だよ? 君を大切にしていたようだからそれならってここに連れてきただけ」
「それでも、ままは救われたと思うから」
「まぁ、あの状況で生きてるとは言えなかったしね」
「すごくきれいだよ……ここ……。また来たいな……」
「また来ましょう。三人で、必ず」
「うん!」
「そうだ! センチェルス様! ウィードくんも! 写真撮りませんか!? 僕持ってきたんですよ!」
彼はカメラを取り出すとセンチェルスとウィードに撮りますよー!と声をかけるが、リーヴァも!と手招かれ、彼は少し驚いた表情を見せたかと思うと付近にあった岩の上にカメラを置くとウィードの隣へと向かう。
ウィードはそんなリーヴァの腕とセンチェルスの腕に自分の腕を絡ませ嬉しそうに二人を見上げ、早く早く!と急かした。
リーヴァが手元のリモコンでシャッターを何回か切るとこれで撮れてるの?!と驚いた様子でウィードが見上げてくる。
撮れてるよとリーヴァはカメラのところにウィードを連れていき、その画面を見せた。
三人が写ったそれを見て彼は大はしゃぎで凄い凄い!と飛び跳ねて喜んで。
「結構綺麗に撮れるものなんですね、こんな機械で……」
「デジタルカメラっていうんですよ、センチェルス様。色々設定を弄ると色んな雰囲気の写真が撮れるんです! 例えば……ウィードくんを被写体にして……」
「撮って撮ってー!」
感心したような見つめるセンチェルスに教えるようにリーヴァはカメラを弄り、ラベンダー畑ではしゃぐウィードを何枚か撮っていき、やってみますか?と彼はカメラをセンチェルスに手渡した。
暫く小さなその個体をくるくると見ていたがリーヴァに促され教えられながら彼の姿を写真に収めていく。
「どう? どう? 可愛く撮れてる? 俺、可愛く撮れてる?」
「ちょっと待ってくださいね。……これをこう……してこうすれば……フィルターはこれでいい……あとは……」
「センチェルス様楽しそうですね。よかった」
「センチェルスー! はーやーくー!」
「色味はこんな感じにして……よし、これで……」
「もー!! カメラより俺を見てよー!!」
カメラに熱中しているセンチェルスに飛びより顔を近づけると怒ったようにムスッとしてそう言うとカメラを取り上げてしまう。
そのまま彼に背を向け、プレビュー画面でセンチェルスが撮っていた写真を見ていくウィード。
一枚一枚見ていきやっぱりこれが一番いい!と最初に撮った写真を二人に見せて笑う。
ウィードにそれならと何か思いついたようにセンチェルスはリーヴァと彼を連れて街へと向かう。
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