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――そんな日々が続いたある日。
二人は朝から部屋の外から響くウィードの悲鳴で目を覚ました。
一体何がと飛び起きた二人は部屋を飛び出し悲鳴の聞こえる実験室へと走っていく。
そこには体にたくさんの管が繋がれ、何かされているウィードと楽しげに見ているアーヴェストがいて。
その周辺には物珍しそうに幾人かの局員たちが苦しむ彼を見ていた。
何しているんですか!!と怒鳴り込むとアーヴェストは実験だよ?と当たり前のように答えてきて。
「コレの力は凄いねー? 心が無い頃とは大違いだ。人の心がこんなにも強い力を発揮してくれるとは僕もびっくりだよ」
「ウィードに何の実験をしているのか聞いているんですよ!! その子は私のでしょう!? 私がここにいる間はその子の権利は私にあるはずです! なのに何故私に黙って勝手に……っ!」
「あのね、何度も言ってるけど、コレは僕のであって君のじゃないんだって。だから僕が何しようと勝手だろう? ちなみに今はコレの闇の力がどれだけ強いのかその実験だよ。黒水晶を作る、ね?」
「…は……? 黒水晶って、エルザーク様の解放道具の、ですか……? そんな、まさか……」
「そのまさかだよ。あの黒水晶はね、闇の力が凝固されて作られたものさ。それをコレに取り込まれた水晶の欠片を調べて僕が見つけ出したんだ、つまり、コレにだってあの黒水晶が作り出せる、そうすれば無限の闇の力が手に入る。人間の僕にもね」
素晴らしいだろう?と笑うアーヴェストを殴り倒し台の上で苦しみ藻掻くウィードに駆け寄り、リーヴァに機械の停止を指示する。
わかりましたと機械周りの邪魔な人を撃ち殺しリーヴァはウィードから黒水晶を精製しようと動いている機械に何発かの銃弾を撃ち込み機械ごと破壊した。
黒い電流が収まったのを確認してセンチェルスはぐったりとしているウィードを抱き上げ声をかける。
「せ、んちぇ、るす……? お、れ……」
「ウィード……! よかった……っ」
「ご、めんね、……? おれ、ね……センチェルスの、役に……立ちたくて……黒水晶……作ってって……お願いしたの……」
「そ。これはコレが望んだことだよ。僕が勝手にやってると君は思ったみたいだけどね」
「いいんですよ、黒水晶なんて作らなくて……。貴方の中にある欠片さえあれば再構築できるんですから……」
なんてことを頼んでいるんですか……と項垂れるセンチェルスにウィードはそれがね……と言いづらそうに言葉を詰まらせて。
その言葉の続きを慈悲もなく告げたのは誰でもない、アーヴェスト自身。
彼はセンチェルスにコレの中に吸収された欠片はもう取り戻せないと笑って告げた。
どういうことですかと驚愕の表情を浮かべる彼にウィードはたどたどしい言葉で自分の魂と癒着してしまっていて返す事が出来ないのと彼から目を逸らしてそう話した。
「つまり、センチェルス様が欠片を取り戻すにはウィードくんを殺しその魂から欠片を引き剥がす必要がある……、そういうこと……?」
「その通り。以前の自分の主を封じた者達を憎んでいた君なら出来るだろうけど、今の君にそれが出来る? だからコレは僕に頼んできたんだ。癒着した欠片が渡せないなら黒水晶自体を作り出せる方法はないか、とね」
「そんな……なぜ……。この子の属性は闇、暗黒とは似て非なるものなのに……」
「それは僕にもわからないよ」
「とにかく、もう勝手にウィードを連れて行かないでください。この子は私のです」
そうアーヴェストを一瞥しセンチェルスはウィードとリーヴァを連れて部屋へと帰る。
部屋に戻ってもウィードはごめんね、ごめんねと繰り返しながらセンチェルスにしがみついていて。
欠片が癒着してしまったのは自分のせいだと泣き続けた。
「ウィードくんはただセンチェルス様の役に立ちたくてそれで局長にお願いしただけなんだから、ウィードくんは何も悪くないよ?」
「ううん……っ! 俺が悪いの……! 俺が願っちゃったからっ……。この欠片が俺の中にあるうちは独りぼっちにならないって……っ、だからいっそ取り出せないようになっちゃえばいいのにって願っちゃったから……っ」
「ウィード、そんなことないですよ? 欠片が無くても私は貴方の傍にいますよ」
「ウィードくんはきっと不安なんですよ。だから貴方と一緒にいられる“価値”が欲しいんです。それがセンチェルス様が探しているその欠片を身に宿すことなんです。これがあるうちは一緒にいてもいいって思うことが出来るから……そうだよね?」
リーヴァの問いに力強く頷くウィードはごめんねと繰り返しながら許してと泣きじゃくった。
暫くして泣き疲れたのか眠ったウィードをベッドに入れると一息つき、これからどうするかと座り込む。
そんなセンチェルスの隣に座ると困りましたね……とリーヴァは眠るウィードの頭を撫でながら隣に座り困ったように俯く彼の様子を伺い、僕が殺しましょうか?と提案するも駄目ですと却下される。
何故?と問いかけるリーヴァにそんなことをしたらウィードが盾に使われかねないと語る。
「ウィードくんを?」
「ええ。局長といえ、ただの人間。命は惜しいでしょう。ならウィードを盾に私たちの攻撃の手を止めてくるでしょう」
「……なるほど。確かにそれは考えられなくはないですね…」
やはり代わりを探すしかと、二人して考え込んでしまう。
「ここまできて手詰まりになるとは正直どうしたらいいのか私にもわからないんです。かといってどうしてかこの子を殺してまで欠片が欲しいとも思わないんですよ……」
「でも、彼はセンチェルス様の仇の子孫、なんでしょう? それなのになぜ……」
「何故なのか、私にもさっぱり検討がつかないんですよ。憎くて憎くて仕方ないはずなのに。ヴィルドの子孫が現れたら絶対に殺してやると思っていたんですよ、私。ですが蓋を開けてみたらこのざまで。なんででしょうかね……」
「人間で言うところの情が移った、といったところなんでしょうか?」
「まぁそれもきっとあるんでしょうね。人間といる時間がこんなにも長いものになるとは思っていませんでしたし。それに……」
今の私にこの子は物理的に殺せませんからと苦笑する彼に疑問符を浮かべるリーヴァ。
何故なんですか?と問いかけられる前にセンチェルスは此処に在り続けられるのは彼のおかげですからと答え、ベッドから立ち上がるとウィードを彼に託し部屋を出た。
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