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部屋を出て向かった先は局の庭園で。
近くにあったベンチに腰を掛け、空を見上げると困ったなとため息をついた。
そこにちょうどよく現れたアーメイにどうしたの?と声をかけられ困ったことがあってと苦笑いして彼を見る。
「例えばだよ、アーメイ。君の前に憎くてどうしようもない相手が現れたとする。だけどその子のことを知れば知るほど自分の中にその子を大事にしたいって気持ちが現れてしまって、でも、その子は自分にとって大切なものを持っていたら君はどうする?」
「その子に頼んで返してもらうとか?」
「そのためにその子に死んでくれって言える?」
「うーん……それはどうだろ……。難しいなぁ……」
「だよね、だから私も困っているんだ。どうしたらいいのか……」
「でもなんでその憎い人が大事な子になっちゃったの?」
「結局私も人だったってことかな」
「そっかー。聖夜くん優しいもんね。あのカケルって子といた時もそうだし。今度は何? もしかしてヴィルドの子孫?」
「鋭いなぁ……アーメイは……」
「え? 僕冗談のつもりだったんだけど、ほんとなの?」
実はねと苦笑しながら頷くとアーメイは甘すぎるよ!と怒鳴られる。
自分でもそう思うと立ち上がると、それでも大事な子なんだと微笑むセンチェルスを見て、甘すぎるー!と地団駄を踏むアーメイ。
「つまり聖夜くんの前にヴィルドの子孫がいて、その子孫が魔王さんの水晶の欠片を持っているけど大事にしたい気持ちが高まっちゃって取り返せないってことでしょ!? 甘い! 甘すぎるの! 聖夜くん! それがないと魔王さんに会えないんだよ!?」
「うん、わかってる。でもどうしてもだめなんだ。あの子を殺せない。それに私はあの子の時と同調しているからこそ今ここにいられる。二千年をちゃんと過ごしてきた君とは違って私はあの子無しじゃ今は生きられない」
「どうして、もう……。聖夜くんは甘いよ……甘々の甘ちゃんだよ……。なんでそんなやつの時と同調しちゃうかな……。呼んでくれれば来たのに……」
「ごめんね、アーメイ。君には心配ばかりかけてしまうね」
ホントだよと半ば呆れたようにため息をつきアーメイは彼の隣に腰を下ろす。
そんなに大切なの?と問われセンチェルスは小さく頷き、失いたくないと告げた。
「聖夜くんは甘いよ、ほんと。あのレイズの子孫のことも大切にしてさ、今度は魔王さんを封じた張本人の子孫まで大事にしちゃってさ。聖夜くんにとって誰が一番大事なのかわかってるの?」
「それは……エルザーク様だけど……」
「ならその一番を取り戻すためにどうにかしないの? 大切な気持ちはわかるけどそれより魔王さんのが大事なんでしょ? 時の同調が原因でヴィルドの子孫が殺せないならそれをボクにすればいい。聖夜くんが殺せないならボクが殺してあげる。ねぇ、聖夜くん。ボクは聖夜くんに魔王さんと幸せになってほしいんだよ。聖夜くんを幸せに出来るのは魔王さんだけなんだから」
「わかってる……。わかってるけど、私にはもうどうしたらいいかわからないんだ。エルザーク様が一番大事なのは変わらない。でもあの子も私の中で大事になってきてしまっていて、どうしたらいいのか、わからないんだ……」
わからないと頭を抱えるセンチェルスに苛立ちを隠せないアーメイは彼の胸ぐらを引っ掴むとしっかりしろよ!と怒鳴る。
初めて聞く彼の怒鳴り声にセンチェルスは驚くがそれすら構わずアーメイは言葉を続けた。
一体誰に救われた命なのかと。
誰のおかげでここまで生きてこれているのかと。
虐待され続けたあの地獄の日々を思い出せと、それから救い出してくれたのは誰?と矢継ぎ早に言葉を紡いでくる。
「アーメイ……」
「思い出せ! センチェルス・ノルフェーズ! どうしてここにいるのか! エルザークから告げられた言葉を! 思い出せ!」
「エルザーク様からの……言葉……」
「エルザークは言ってただろう!? 待っていると! 此処でいつまでも待っているからと! その言葉を踏み躙る気か!?」
「そんなっ、そんなことない……! 私は……、私はっ……!」
「センチェルスをいじめるな!!」
怒鳴られるセンチェルスの元にそう怒って駆け寄ってきたのは他の誰でもないウィードで。
彼は駆け寄るなりアーメイを引き剥がし、センチェルスを守るように両手を広げ彼とアーメイの間に入り睨みつけていて。
そこへ遅れてリーヴァが到着し、センチェルスに事の次第を話す。
「センチェルスをいじめるな! センチェルスをいじめるやつは俺が許さない!!」
「はぁ? 何言ってんのさ? 聖夜くんを苦しめているのは君のほうでしょ? 聖夜くんの大事な人を封じてのうのうと生きて、その子孫の君が欠片を渡さないからいけないんでしょ? 聖夜くんの幸せを簡単に奪ってさ、そっちこそ聖夜くんの心を虐めないでよ!」
「お、俺は……っ、ちがっ……」
「何が違うのさ? 先祖の罪は子孫である君の罪だろう? 君は聖夜くんの不幸の上に生まれ落ち、育った忌み子なんだよ! お前の正体は!」
「アーメイ! それ以上は……!」
「ねぇどんな気分? ねぇ? 聖夜くんの幸せを奪ってのうのうと生きている今の気分は? ねぇ?」
そう責められ彼は、俺は俺は……!と怯えたように耳を塞ぎしゃがみこむ。
そんなウィードをセンチェルスは抱き締め、そんなことないですよと宥めるもただただごめんねごめんねと繰り返していて。
その様子を見ていたアーメイは理解できない!と怒鳴り散らしセンチェルスからウィードを引き離し地面に叩きつけるとそのまま馬乗りになりその華奢な首をへし折らんばかりに締め始める。
「いらないいらない!! お前なんかいらない! 聖夜くんの隣にいていいのは魔王さんだけなんだから!!」
「アーメイやめて!!」
「お前が生きてるから……! お前がっ……聖夜くんを苦しめてるんだ…っ!お前がっ、お前が!」
「アーメイ……!!」
力尽くでアーメイをウィードから引き剥がすと彼を守るように抱き込みこの子を殺さないでと訴えて。
なんでと信じられないものを見せられているような表情を見せたアーメイはふらふらと立ち上がりセンチェルスに問いかける。
センチェルスはただウィードを抱き締めたまま大事な子だから……と答えて。
リーヴァはそんなセンチェルスとウィードを守るように彼らとアーメイの間に立ちはだかると拳銃を突きつけ真顔で彼を見据える。
「アーメイ。この子は今、センチェルス様にとって生きる希望の一つなんだ。それを奪うっていうなら僕は容赦しないよ。センチェルス様の幸せを奪うやつは誰であろうと許さない」
「なんで……、聖夜くんの幸せは魔王さんといることなのに……それなのになんで……」
突きつけられた現実を受け入れきれないアーメイは信じられないと何かを振り払うように首を横に振りながら一歩、また一歩と後退していく。
「アーメイ、それは君の押し付けだよ。たしかにその方はセンチェルス様の心の支えかもしれない。でもその方無き今彼がその代わりをしているんだ。それなのに君はセンチェルス様からこの子を奪うの?」
「認めない……! ボクは認めない……!」
「アーメイ。君は寂しいんだね。一人ぼっちで寂しいから同じ寂しさをわかってくれるセンチェルス様を失うのが怖いんだ。自分一人だけ取り残されてしまったみたいで、怖いんだろう?」
「……っ!?」
図星をつかれたようにアーメイは目を見開き、認めない!と叫びそのまま去っていってしまう。
あとを追いかけようとするリーヴァをいいからと抑えセンチェルスは泣きじゃくる彼を慰めていた。
ごめんねごめんねと繰り返す彼に大丈夫ですからと声をかけるも言われた言葉に酷く傷ついたのか、いっこうに泣きやまなくて。
泣き止む頃にはいつものように疲れきって寝てしまっていた。
「ウィードくん、寝ちゃいましたね……」
「そうですね…。この子は何も悪くない……悪くないんです……。もちろんアーメイだって悪くない。あの子も私の事を考えているが故の行動でしょうから……」
「寂しいんですよ、彼は。だからその寂しさをわかってくれる人がいなくなってどうしたらいいかわからなくなっているんです、きっと」
「あの子にもいつか暖かく迎えてくれる存在が現れてくれたら……」
「そしたらきっとわかってくれますよ、センチェルス様……」
そうだといいのですがと困ったような表情を浮かべたセンチェルスは眠るウィードを抱き上げ立ち上がる。
外は冷えるからとリーヴァに促されセンチェルスは部屋へと戻っていった。
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