EP4:別れ、そして……

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だけどもそんな日は長くは続かなくて、別れは突然に訪れた。 それはウィードの天使化実験の最中。 白い翼を背に広げ、母親から貰ったうさぎのぬいぐるみを抱きながらかわいい?と二人にくるくると回りながら見せていたときだった。 突然ノックも無しに入ってきたのはアーヴェストと数人の局員たちで。 彼は告げる。 この人たちと今すぐ北西にある空き実験所へ行ってもらうと。 いきなりのことに驚くセンチェルスたちに構うことなくアーヴェストはウィードの細腕を掴むと自分の元に引き寄せ、コレは返してもらうよと当然のように告げてきて。 「センチェルス……っ、や、だっ……! 俺も……っ、俺もつれてって……!!」 「だめだよ? 427。センチェルスくんは約束守れなかったんだ、だから君は此処に残されて僕の楽しい実験を受けるんだよ?」 「は、離せよっ……! 俺は……、俺はセンチェルスだけの実験体なんだ……っ! だから……っ!」 「だめなものはだめ。センチェルスくんは大人だもんね? 約束は守らなきゃ」 「っ……、アーヴェスト、貴方こそ約束を守ったらどうですか? 期限の一ヶ月は明日でしょう? まだ一日あることをお忘れですか」 「一日二日あったところで代わりを探し出したりあれだけの金額を君が用意できる訳がないだろう? だから前倒したんだ。さ、センチェルスくん、彼らをつれてここから出ていってくれるかな? もうここは君の居場所ではないんだから」 そうアーヴェストが合図を出すと彼の後ろにいた局員たちがセンチェルスとリーヴァの腕を掴むと実験室から連れ出してしまう。 無理矢理引っ張られて追い出されていく二人を追いかけようとするもウィードはアーヴェストの手から逃れることはできなくて。 嫌だ嫌だと叫ぶ彼にアーヴェストはセンチェルスくんたちにお別れを言おうねと局の入り口まで連れて行かれる。 出入口につくと数人の局員たちが二人をウィードと引き離すように距離を取り、こちらを振り返りアーヴェストに一礼する。 リーヴァがこうなったら殺すしかないとホルダーに手をかけるもそれを見逃さなかったアーヴェストは手持ちのスイッチを押しウィードに電流を流すと余計な真似はするなと言わんばかりに二人を笑顔で見てくる。 センチェルスの術で空間を切り裂きウィードの元に行く方法もあるが詠唱時間が稼げない以上どうすることも出来ない。 どうにかあの子を取り戻さなければと怖い顔でアーヴェストを睨むセンチェルスに局員の一人が何かを囁く。 その言葉を聞いたセンチェルスは驚いたように目を見開き、目線だけそちらに向けるとその一人は小さく頷いてみせた。 「センチェルス……っ! リーヴァ……っ! おい、てかない、で……っ!」 「……っ、ウィード! 必ず迎えに来ます! それまで生きなさい!」 「センチェルス様……!? ウィードくんを見捨てるおつもりですか……!?」 「……いいから耐えてくださいっ、リーヴァ。……いいですね、ウィード! 私との約束です! 必ず生き残りなさい! 何があろうとも!」 「や、だ…っ、おいてかない、でっ…! センチェルス……っ! 俺も連れてってよ……っ! ねぇっ……!!」 「……っ、行きますよ」 置いてかないでと伸ばす手を見て見ぬふりをしセンチェルスは彼に背を向けるとアーヴェストが用意した案内人に着いていくように歩き出す。 それにつられ他の者も徐々にその場から去っていく。 最後に残ったリーヴァもきっとあの人には何か考えがあるはずだとウィードの元に駆け寄りたい気持ちを抑えセンチェルスの後を追った。 残されたウィードはそんな……と置いていかれた事を受け入れきれず彼らが去った後を見ていて。 「置いて行かれちゃったねー、427? 彼らにとって君はその程度の存在だったってことだよ、わかった?」 「そ、んな……。だって……連れてってくれるって……約束……して、くれたのに……」 「さ、行こうか? 君でしたい実験が山ほど残っているんだ! ね!」 「俺……は……」 「君は“僕の”実験体だ。わかったね? 君は捨てられたんだ、大事にしてくれた彼らに。君が伸ばしたその手を掴むことなく去っていた、それが現実、事実だよ」 「捨てられた……? 俺……捨てられた、の……? だって……センチェルス、迎えに来るって……言って……っ」 そう言ってくれたと自分を見上げるウィードにアーヴェストは来るわけないだろう?と嘲り笑う。 彼が飛ばされた先は北の廃都イスダリア近くの実験所で、この実験局へは案内無しに来れないと。 だから迎えになんかくるわけがないとそう突きつけた。 その事実を到底受け入れることは出来ずウィードはそんなことないと泣き崩れる。 そんな彼を引きずるように連れてアーヴェストは局内の自分の部屋へと戻った。 部屋に戻ったアーヴェストはどれからやろうかと楽しげに計画表を見ているがウィードはそれすら耳に入っておらずただ手持ちのぬいぐるみを抱きしめ捨てられたんじゃないと必死に否定しながら首を横に振っていた。 聞いてる?と聞かれるも知らない知らないとしゃがみこむだけで。 つまんないなーとアーヴェストはそんなウィードを蹴り飛ばし抱いていたぬいぐるみを取り上げて、これ刻むよ?と折りたたみナイフをそれに突きつけた。 「や、めてっ……! それはままから貰った大事なものなの……っ! やめて……っ!」 「へぇ……? じゃあ、こうしちゃおうね!」 「……っ!!」 そう言ってアーヴェストはぬいぐるみの首にナイフをあてがいそのまま切り裂いて床に放り投げる。 一瞬のことで理解できなくて、床に転がってぬいぐるみを見た瞬間、ウィードは張り裂けんばかりの声を上げそれを掻き集めるように抱きしめ泣きじゃくった。 だけどもそれだけではアーヴェストはおさまらず、にやにやと笑いながら泣きじゃくるウィードに歩み寄るとその首にかかったペンダントの鎖にナイフをあてがい、これも大事な物かな?と問いかける。 その問いにウィードはペンダントを握りしめ、やめてやめてと繰り返しながらなんでもするからと口走ってしまう。 その言葉を聞いたアーヴェストは待っていましたと言わんばかりにそのナイフをしまいウィードを無理矢理立たせるとその目線に合わせるようにしゃがみ込み問いかける。 “君は誰の実験体なんだい?”と。 ウィードは怯えながらも震える声で答える。 “アーヴェスト局長の実験体です”と。 よくできましたとアーヴェストはウィードの頭を撫で、じゃあ行こうかと彼の手を引き本日の実験を行うべく実験室へと向かった。
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