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それから数年。
エルザークが認める程に見目麗しい青年に育ったセンチェルスは拾われた当時よりも適度に的確に術を操れるようになっていた。
消費する時の量もコントロール出来るようになり、前より頻繁に倒れるようなことはなくなっていた。
時折帰ってくるアーメイは既にその成長を止めていて、何故なのか問うと言霊による大量虐殺の大罪の罰なんだと答え、聖夜くんもいつかそうなるんだってーと本人はいたって大事に思っていないらしく飄々としていた。
そろそろボクもお手伝いしようかなと作戦に加わったのはつい最近のことで。
作戦は至って簡単なこと。
アーメイがまず街に忍び込み街の住人数人に3日間、この街から出るなと言霊を掛けて回る。
それを聞いた住人たちが自分たちの知人たちにそれを伝える。
ここでアーメイがかけた言霊が伝染していくと彼は説明した。
そして3日後、訪れたセンチェルスによってその場所の時が止められ、エルザークが仕上げにその場所を暗黒術で覆い、術を解除し、人間たちをその暗黒へ引きずり込むといったことだった。
そんなようなことを続けていたある日。
お決まりのように三人を倒そうとする輩が現れた。
隻眼の魔術師の少女と、治癒術を扱う少し小柄な少年、そして封印士と呼ばれる比較的新しい種族の青年。
三人はエルザークたちの前に立ちはだかり、戦いを挑んでくる。
「たかだか三人で我らに歯向かうか。面白い。ちょうど暇を持て余していたところだ。相手をしてやる」
「んだよ! その上から目線! 腹立つな!! いいか! お前らは俺らに倒されるのがお決まりなんだよ! 覚悟しろ!」
「封印する力しかない奴が何を言う?」
「うっ……そ、それは……っ」
「何言い負かせれてんのよ!! バカヴィルド!!」
「二人とも喧嘩してる場合じゃないよ! 相手はあの魔王なんだから!! ヴィルドはハニカの詠唱時間稼いで!! 僕はその間あの従者たちをどうにか食い止めるから!」
「わ、わかってるつーの!! レイズに言われるなんてなんか癪に障る……」
ぶつふつと文句を言いながらもヴィルドと呼ばれた黒い長い髪の青年は腰の剣を抜き身構える。
面白いとエルザークはセンチェルスを抱き寄せその唇にキスを落とす。
瞬間、彼の服が時空術師から紫がかった黒いアシンメトリーのドレスへとその姿を変えていく。
センチェルスはその姿になると胸の前で手を組みエルザークへと祈りを捧げる。
「暗黒王に時の加護を」
そう紡いだ瞬間、センチェルスの周りを黄緑色の光の粒子がふわふわと舞い、それがエルザークへと吸い込まれていく。
その光景をみていたレイズと呼ばれた少年は気をつけてと二人に忠告するも頭に血が上ってしまっている二人は聞き入れるはずもなく。
ヴィルドがエルザークへ突撃してくるのと同時にハニカと呼ばれた魔術師の少女が杖を手に詠唱をスタートさせる。
発せられた火の術をエルザークが軽々と避けたことによりその後ろにいたセンチェルスへ火の粉が向くが、術の時を止め、手に出現させた杖で薙ぎ払い、再び祈りを続ける。
「んだよ……! あれ!」
「あれはまさか時空術……? 魔王はそんな奴さえ仲間にしていたということか……。くそ……っ」
「おい! レイズ! どうすりゃいい!? お前頭だけはいいんだからこの状況を突破する方法くらい知ってんだろ!?」
「時空術だかなんだか知らないけどなんか弱点みたいなのあるんでしょ!? レイズ!」
「……っ、だめだ、二人とも! 今の僕らに時空術を攻略する手立てがない……! 一旦引いて……っ!」
「ふざけんな……! 引き下がれっかよ! 魔王さえ倒せばいいんだろ!?」
「今の魔王は危険なんだ……!! 時空術師の彼は恐らくその魔王の契約者……、姫なんだよ……! 姫を倒さない限り魔王は倒せない……!! 姫から与えられる魔力で何度でも蘇ってくるんだ……!!」
「ほう? よく知っているな? 貴様。汝が生きているとあとあと面倒なことになりそうだ。……だから」
「ボクの出番、だね? 魔王さん?」
「……!?」
そう言ってレイズの背後に現れたアーメイは短剣をその喉元にあてがう。
慌てて退こうとするが、喉元あてがわれた刃に阻まれその動きを止めた。
そのままアーメイはエルザークに攻撃を加える二人にその攻撃をやめるように命令を出す。
言霊に反応した二人の身体は本人の意思とは関係なく各々の武器を地面へと落とした。
「な、んで……!?」
「体が……っ」
「今のボクの言葉は絶対。ボクの言霊は生きているからね」
「き、みは……言霊使いか……っ? なんで、こんな希少種族があんな……魔王なんかに……っ」
「あれれぇ? おにぃさん、ボクの事知ってるんだ? へー。それは意外だったなー。魔王さん、この人どうしちゃおうか? 魔王さんの命じるままにするよ?」
「そうだな、このまま殺してしまうのも手だがそれはそれで面白くない」
どうしたものか……と悩みながら身動きの取れないヴィルドとハニカを斬り付け地面に叩きつける。
レイズはその光景にやめろと叫ぶがその叫びに応えるようにエルザークは二人に攻撃をくわえていく。
その叫びをもっと聞かせろと言わんばかりに何度も。
瀕死寸前まで追い詰めるとその手を止め、そういえばと自分に力を注ぎ続けているはずのセンチェルスを振り返る。
悲鳴が苦手だったはずのセンチェルスは何故か倒れ伏す二人とレイズの疲弊しきった表情を見て恍惚としていて。
まるでもっと聞きたいと言わんばかりにうっとりとした表情を浮かべるセンチェルスにエルザークは何かに目覚めたか?と彼に声をかけた。
「なんだ、センチェルス。そんな表情を浮かべて?」
「え、あ……すみません……。つい彼らの悲鳴が心地よくて……」
「そうか」
「それにあのレイズという少年の浮かべている表情がとてもぞくぞくしてしまって……」
申し訳ございませんといいながらもその視線はレイズに向けられていて。
にやりと悪戯を思いついたような笑みを浮かべたエルザークはレイズとアーメイに歩み寄って行く。
何をしてくれるんだろうと胸のドキドキを隠すこともなくセンチェルスはその一部始終を見守る。
「魔王さん、決まった?」
「ああ。アーメイ。こう命じろ。こいつに治癒術を使う度に全身に激痛が走るようになる、とな」
「わーお。魔王さん残忍ー。あの二人治すのにこの子の力必要なのにあの子たち治そうとすると自分が傷つくようにしちゃうなんてー」
「そうか? あと次いで今すぐ我らの前であの二人に治癒をかけろと命じておけ」
「あははっ、ほんとそういうとこボク、嫌いじゃないよ? 魔王さん。どうしよ、ボクなんだかぞくぞくしてきちゃったよ…っ」
「早くしろ」
「はぁいー」
楽しそうに笑いながらアーメイはエルザークに言われた通りにレイズにそう言霊をかけ、その体を解放する。
途端にレイズは命じられるままに地面に倒れ伏す二人の元へ。
自分にどんな痛みがやってくるのか予想さえつかないレイズはこの二人を治せるのは自分しかいないことと痛みへの恐怖に支配されながら二人へ治癒術をかける。
瞬間、レイズの体に電流が走り出し悲鳴をあげながらも言霊の指示に従い二人の治癒は強制的に続けられた。
そんな様子を目の当たりにし、センチェルスはそんなレイズに歩み寄り、傍までくるとしゃがみ込み、その表情をまじまじと見ていた。
そうして二人の傷が完全に癒えると激痛に耐えていたレイズがその場に倒れる。
センチェルスはそんな彼の傍にしゃがみこむと髪を鷲掴み、目を開けてくださいと頬を腰の短剣で切りつけた。
痛みで意識を取り戻したレイズは焦点の合わない目でセンチェルスを見上げた。
「教えてください、貴方は今どんな気持ちです? 痛い? 苦しい? 辛い? ねぇ、教えてください、レイズ?」
「……っ、あ、っ……ぼ、くは……っ」
「ああ……そうです……。その表情、ぞくぞくします……。ねぇ、どんな気持ちですか? ねぇ? 答えてください」
「レイズから……離れろおおお!!!! 」
回復しきったヴィルドが転がっていた自分の剣を手に襲いかかって来、センチェルスは飛び退くとエルザークの傍へと戻っていく。
ヴィルドはその剣を構えたまま傷だらけのレイズを抱え、ハニカを助け起こすとエルザークたちから一歩また一歩と退いて。
仲間を傷つけられたヴィルドはまるで仇のようにエルザークから目を離すことはなく、それに気づいていた彼は余裕の笑みを浮かべる。
「帰しちゃうの? 魔王さん?」
「ああ。今は帰しても支障ない。汝の言霊は無限でないにしろ、トラウマで治癒をかけることは出来ないだろうからな」
「まぁねー」
「そうですね、たいぶ心地のいいものを聞かせていただきましたし」
「レイズ、ハニカ。一旦退くぞ……。あの外道を叩きのめす方法を探す、話はそれからだ」
「ええ……そうね……。レイズの傷もどうにかしないと……」
一気に冷静になったヴィルドはハニカとレイズを連れ、その場から姿を消した。
それを見送ってから三人はいつものように仕事をしてから屋敷へと戻っていった。
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