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次の日、目を覚ますとまだエルザークは自分を抱いたまま眠っていた。
ほんとにきれいな人だな……と見つめているとおはようとキスをされる。
それだけのことなのに心臓がドキドキしてしまう。
かわいいなとしばらくじゃれ合ってると呆れたようなアーメイの声が聞こえる。
「あ、アーメイ……あの……」
「あーはいはい、いいですよー二人でイチャイチャしててくださーい。ボクは朝ごはん作ってきまーす」
「ア、アーメイ……っ!!」
「下賤な言い方をしてくれるな……。まぁいい、こうして愛しい者と過ごす時間が少しでも与えられるのであればな」
そう言いながらくるくるとセンチェルスの髪を弄びながら微笑むエルザーク。
それに微笑み返すと触れるだけの口づけをされる。
愛していると告げると私もお慕い申し上げておりますと言葉遊びが繰り返される。
二人の『好き』が違うとわかっていてもそう言い合えるだけ幸せなようで。
そんな言葉遊びをしているうちに朝ごはんの準備が出来たようでアーメイがさっさと並べて二人を呼ぶ。
「全く、独り身のボクのことも考えてほしいよー」
「そんなことを言いながらセンチェルスの幸せそうな表情を見て喜んでいるのは何処の誰だ?」
「そりゃそうだよ。聖夜くんはあんなに沢山苦しくて辛い思いをしたんだからその分沢山幸せになってもらわなきゃ!」
「アーメイ……」
「まぁいいではないか。汝と我も身体だけはそういう関係だろう?」
「ボクは魔王さんの性欲を満たすための道具じゃないんだよ? あーあーボクにもボクだけをちゃんと愛してくれる人が現れるといいなぁー」
「アーメイはいい子だから、きっと現れるよ、大丈夫」
「聖夜くん……! そうだよね! ボクこんなにいい子だもん! ほっとかないよね! みんな!」
いい子いい子と頭を撫でられ気分を良くしたアーメイはにこにこと笑ってそのまま自分の席に着くと朝食を摂り始める。
そんなアーメイを見て二人も朝食を摂り始め、今日の予定を話し始める。
エルザーク曰く、今日こそ世界の中心国であるレグルスを攻め落とすとのこと。
人々は現在アーメイの言霊で疲弊しきっており、城の騎士たちも沈められた国々への派遣で数を少なくしているという。
加えて、三人が何かを掴んだ様子をアーメイが報告してきたことを踏まえた上での作戦決行。
このままあの三人を野放しにしておくわけにはいかない、今回で沈めると。
朝食が済むと各々準備へ取り掛かる。
「センチェルス」
「はい、エルザーク様。準備の方はもう整っております」
「そうか。相変わらず身支度が早いな、センチェルス」
「……?」
そうかそうかと二人きりになるとエルザークはセンチェルスを抱き締める。
突然のことに首を傾げるセンチェルスに絶対に守り通してみせるからと告げるとかけてあったコートを羽織り、部屋を出て行く。
一抹の不安を抱えながらセンチェルスは彼のあとを追いかけ、後ろから合流してきたアーメイと共に一行はこの中心国であるレグルスへと飛び立った。
街に着いた三人が見たのは疲弊しきった人々が疑心暗鬼になってお互いを傷つけあっている姿で。
人々はお前が魔王をこの街に招いたんだろう!と罵り、疑いの目を互いに向けあっていた。
それをどうにかおさめようとヴィルドたちが奔走していて。
エルザークたちは到着するや否や手際よくいつもどおりに自分の任務をこなしていき、それを見守っているとヴィルドたちがそれに気づき駆け寄ってくる。
「エルザーク!! 来やがったな!」
「ほう、勇ましいな? まるでこの世界を救う勇者のようだな、ヴィルド・ウォーリアよ」
「てめぇ……小馬鹿にしやがって……! 今日こそその身、封じてやる!!」
「汝らの剣では我は殺せぬか。封じるだけで精一杯のやつらが今回は随分と余裕だな?」
また遊んでやるかとほくそ笑み、センチェルスを呼び戻すと姫化させ、臨戦態勢に入る。
作戦通りに!とレイズに言われ、ヴィルドたちはエルザークたちに向かってくる。
金属音が交わされる中、センチェルスはただ祈りながらその光景を見ているしかなく、胸の奥に湧く不安を幾度となく掻き消しながらひたすらに祈った。
自分の主が勝ちますようにと。
「やるな。汝ら、少しは強くなったのか」
「あったりめぇだろ! こちとら必死こいてやってんだ! 余裕綽々なてめぇと違ってな!!」
「……っ、センチェルス! 汝も戦え!」
「は、はい!!」
「アーメイ! レイズの動きを止めろ! あやつ、センチェルスに何かする気だ!」
「おーけー! 魔王さん!」
姫化から元に戻ったセンチェルスは杖を構えハニカに向かっていく。
こいつさえ抑えてしまえば術攻撃が出来なくなる、ただその単純な考えで。
だからだろうか、アーメイが不意をつかれレイズの侵攻を許してしまい、気づいた頃にはセンチェルスの近距離に何かビー玉のような物を持って迫っていて。
突然のことに身構えられなかったセンチェルスにレイズは手にしたその玉を彼の胸元へと押し付けた。
瞬間、センチェルスは言葉を発する暇もなくそのまま、まるで壊れた人形のように動きを止め、地面へ倒れ込みピクリとも動かなくなってしまう。
それを見たエルザークはヴィルドを術で弾き飛ばし動かないセンチェルスへと駆け寄りその身を抱き上げる。
「……っ、センチェルス、今、解除してやるからな……っ」
「今だ!! ヴィルド!!」
「わかってるよ!!」
「そうはさせない……っ! 聖夜くんの幸せを奪う奴らは……ボクが許さない!!」
激昂したように叫ぶアーメイがエルザークたちを庇うように立ち塞がり、合図を送ると操られている数名の人間が三人を守るようにぐるっと周囲を固め始め、その様子を見てヴィルドは術の詠唱をやめ、どうしたらいいとレイズに判断を仰ぎ始める。
悩むレイズに見向きもせずエルザークは抱き上げたセンチェルスの胸元に手をかざし、取り込まれてしまった玉を引き抜くとどこかへ放り投げる。
障害がなくなったのか彼の腕に抱かれたセンチェルスは小さく呻き、また助けられてしまったと弱弱しく微笑んだ。
けれどうまく体が動かせない彼を見てエルザークはこの時が来たかと意を決したように彼の側に転がっていた杖を手にし、空間を切り裂く。
「エル、ザーク……さま……?」
「センチェルス、汝だけは失うわけにはいかない。だから、許せ」
「魔王さん……っ! 早く……っ、聖夜くんを安全な場所へ……!」
「アー……メイ……? 一体……何を……?」
「センチェルス。我が愛する姫よ、どうか……汝が傷つくことない世界へ、逃げてくれ」
「……っ!?」
触れるだけのキスをし、エルザークは切り裂いた先の空間へセンチェルスを放り投げる。
突然のことに言葉すら発せないままのセンチェルスを取り込んだその空間は閉じ、エルザークの手元にあった杖も姿を消した。
これでいいと立ち上がったエルザークはアーメイの隣に歩み寄り一言すまないとだけつぶやき、取り巻いていた人間たちを剣を引き抜き切り裂き、そんなエルザークを見て聖夜くんの為だからとアーメイも笑って身構える。
「さて、これで思う存分暴れられるというもの……。さぁ! かかってこい! 脆弱なる者よ!」
最終決戦、とでも言うようにエルザークは秘めていた魔力を最大開放し、ヴィルドたちに向かっていく。
アーメイはそんなエルザークを横目に短剣を構え邪魔になった人間たちを片っ端から片付け始めた。
今の魔王さんならきっと大丈夫、そう信じて。
だけど、決着はエルザーク敗北という事実で、街の聖堂に追い詰められたエルザークは傷ついたアーメイを抱えながら三人と対峙していた。
「そこまでだ! 魔王エルザーク!!」
「ハッ……貴様らなんぞに……この我が屈するとは……な……。まぁよい……。愛した者さえ守れればそれで……」
「ヴィルド! 今だ! 二人まとめて封印を……!」
「わかってる!!」
「っ……ま、おう、さん……、に、げて……。ボクは……いい、から……っ」
「汝は……センチェルスの大事な……友人だ、死なせるわけには……いかない……」
残り少ない魔力で彼の傷を癒し、膝をつくとこれでいいと笑うエルザークによくない!!と寄添うアーメイ。
そのとき、ヴィルドは二人を封じる為の封印術を発動させ、間一髪のところでエルザークはアーメイをその術の範囲外へ押し退けた。
「エルザーク……っ!!」
「汝は生きろ……。生きて……センチェルスを……どこかの時間へ飛ばされた我の愛する者を……探してやってくれ……。あやつは、寂しがりや……だからな」
「ばか!! ボク一人で探せるわけないだろう!? バカエルザーク!!」
「ああ……なんだ、汝、そんな顔も出来るのか……。そこそこにかわいい顔が、台無しだぞ……?」
「うるさい! 聖夜くんを幸せに出来るのはあんただけなのに……っ! そのあんたがいなくなってどうするんだ!! バカ!」
「いなくなりはしない……。封じられるだけだ……。……そうだな、アーメイ。生き延びてセンチェルスに伝えてくれ。我は待っている、ずっと、とな……」
「……っ、ばか……っ」
「さぁ、いけ、アーメイ……。センチェルスの幸せのために……生き延びてくれ……」
「……っ、わかったよ……! ほんと、自分勝手なんだから……!! これは貸しにしとくからね!! 魔王さん!!」
涙を拭いアーメイはエルザークが開いたワープホールへと飛び込む。
これでいい、これでとエルザークは笑いそのまま十字架に封じられた。
エルザークから抜け出た黒水晶を三人で3つに分け、回収した時間停止の宝玉をヴィルドが管理することになった。
それから暫く平和な日々が続くことになる――。
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