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EP2:飛ばされた先で
エルザークに放り込まれたセンチェルスはなんとか出口がないかと空間を漂っていた。
あの方の傍に戻らなくてはと、その一心で。
ここがどこだかそんなことはどうでもよかった。
とりあえず出口を漂っていると、やっとみつけた光に飛び込んだ。
するとそこは人通りの少ない薄暗い路地裏で。
傷ついた体を引きずりながら路地を出るとたくさんの人が行き交う道に出る。
ここはどこなのか、一体なにが起こったのか、エルザーク様はどうなってしまったのか、それだけが知りたくて。
ふらふらと意識が揺らぐ中、必死に歩みを進める。
人にぶつかりながらも前へと進んだ。
だがその力さえ徐々になくなり立ってすらいられなくなったセンチェルスはその場に倒れ込んでしまう。
ああここで死ぬんだと思ったその時、誰かの声が聞こえてそのまま意識を閉ざした。
それからどれほどの時間が経っただろう……。
気づけば知らない場所のベッドに寝かされていて、体には手慣れたように包帯が巻かれ、ボロボロだった服も別の服に着せ替えられていた。
ここはどこなんだろうか、と身を起こすも全身に痛みが走り声も出せないまま、またベッドに倒れ込んだ。
その音に気づいたのか大丈夫か?と入って来たのは人間で。
なんで……と咄嗟に身構えるも体の痛みで体勢を崩してしまう。
「あんま動くなよ。傷口開くぞ」
「ここはどこですか……? エルザーク様は? アーメイは? 一体どうなってしまったんです……?」
「落ち着け、えーっと、ここはユークレストだ。天使信仰の西国って言ったらわかるか?」
「ユークレスト? ここが? 馬鹿言わないでください。ユークレストは……私の故郷はアーメイに燃やされ、エルザーク様によって消し去られたはずです! ここがユークレストなわけがない!!」
「燃やされた? 消された? ……それって暗黒時代ことか? それなら2千年前に勇者ヴィルドたちによってエルザークが封印されて終わったぜ?」
「封印……? 2千年前……? いったいどういう……。私は一体……。こんな……こんなことって……。じゃあこの世界にはエルザーク様はいないというのですか……? アーメイも……」
「んーと……そのアーメイってやつのことはわからねぇけど、エルザークはどっかに封印されてるからいないってわけじゃねぇと思うけど……。とりあえずお前の名前を聞かせてくれ。ちなみに俺はセフィ。セフィ・ライドだ」
「ライド……? もしかしてあのレイズ・ライドの……?」
「レイズ? ああ、俺の先祖だが? お前一体何者……いや待て……まさか……」
なにか考え始めたセフィはおもむろに側の書棚から一冊の古びた本を取り出すとペラペラと捲りあるページでその手を止めた。
センチェルスは彼があの自分を苦しめた宝玉の持ち主の子孫だと知り、その手に杖を出現させ警戒体勢をとった。
「お前まさか……あの暗黒王エルザークの従者、センチェルス・ノルフェーズか……? 封印される間際になにかに投げ込まれ逃げ延びたっていう……」
「ええ、私はエルザーク様の唯一の従者、センチェルス・ノルフェーズです。貴方の先祖のせいでお役に立つこともできずに哀れに逃げおおせた間抜けな出来損ないですよ。ですが、そんな出来損ないでも今の貴方を殺し、封印の水晶を奪うことくらいは……できますよ!!」
「ま、じかよ……っ!」
ほとんど魔力を感じないところを見るとほぼ人間に近い存在になってしまっていることは伺えた。
それなら……とセンチェルスはセフィに襲いかかる。
それを間一髪で避け話を聞けと叫ぶがエルザークが封印されてしまって焦ってしまっているセンチェルスの耳には届かない。
傷ついた体を無理矢理に動かしセフィに襲いかかるセンチェルスは傷が開いてしまったのか部屋を出たリビングで力尽きてしまう。
その隙を狙ってセフィは杖を取り上げ、そのへんにあったビニール紐でセンチェルスの体をテーブルの脚に縛り付けた。
縛り付けられながらも暴れるセンチェルスにセフィは引き出しから取り出した黒い小さな革袋を目の前に差し出す。
これはエルザークの封印の水晶のかけらだとそう言ってしゃがみこむ。
「エルザーク様の……。……それを渡しなさい! 貴方のような下賤なものが持っていい代物ではないですよ!!」
「それはお前の行動次第だ。俺はこれをお前に渡してもいいと思っている。だが、今のお前に渡す気にはなれん」
「戯言を……。私にはもうなにもないんですよ……っ、その水晶を渡しなさい……! エルザーク様を復活させなければ……私は……私はまた一人になってしまう……」
「一人が怖いのか……。なら好都合だ」
「何を……」
自分を縛っている紐を引きちぎり立ち上がったときだった。
ただいまー!と元気な声とともに現れたのはセフィの息子らしい少年で。
なんだなんだ?とリビングに入ってきた彼はセンチェルスに気づくなりこいつ誰!?と好奇心旺盛な目で見て駆け寄ってくる。
そんな彼を穢らわしいと撥ね付け、二人と間合いを取るように元いた部屋へと退いていく。
「ってぇ……なんだよー……。あいつ、誰だよ、親父ー」
「センチェルス・ノルフェーズ。あの暗黒時代を創りあげた暗黒王エルザーク・フェミルの従者だ」
「暗黒時代? なんだそれ? んなのオレ知らねぇー」
「要するにめちゃめちゃ危険な奴ってこと。わかったか? カケル」
「ふーん……」
「いいか、センチェルス。これからお前はこいつと同室で暮らしてもらう。これからの態度次第でこれを渡すか壊すか見極める。いいな?」
「そんな条件……。この私が聞くとでも? なめられたものですね。貴方ほどの小者、今の私でも容易く始末できるというのに」
「そんな怪我でか?」
静かに対峙する二人を交互に見ながらカケルはふとセンチェルスの方に目を向けると着ている服に赤い染みが広がりつつあるのを見つけ、咄嗟にセンチェルスに駆け寄り痛くないのか?とその染みに手を伸ばす。
だがその手さえも払い除け、そのままセンチェルスはカケルを人質に取り、短剣を出現させ彼の首元にあてがうとセフィに水晶を渡すように訴える。
「お、やじ……オレ……っ」
「……わからず屋め。いいか! カケルをこれ以上傷つけてみろ! この水晶をこの場で破壊するぞ! わかってんだろ!? これとあとウォーリア家とシスティ家が持つ水晶がないとエルザークは復活出来ないことくらい! わかったらその手を離せ! センチェルス・ノルフェーズ!」
「……っ! 人間ごときが……っ」
苦虫を噛み潰したような顔をしたセンチェルスはセフィの言葉が真実であることを示すようにカケルを手放す。
解放されたカケルはセフィに駆け寄り後ろに隠れるとセンチェルスの様子をじっと見守る。
そのままセフィは引き出しからチョーカーを取り出すとそれをセンチェルスに投げ渡し付けるように指示を出す。
センチェルスはそれを手に取ると自身の首に取り付けこれいでいいでしょうとセフィを睨みつけて。
睨まれた彼はセンチェルスの姿が時空術師から元に戻るのを見届けると一息ついた。
「親父……まじでオレこいつと同じ部屋なのか……?」
「大丈夫だ。あれは簡単には外れない。こうなることも想定して先祖が作ったリミッターだ。それにこれがある限りあいつはお前に手出しは出来ないから安心しろ? カケル」
「……そっか。なんかよくわかんねぇけどわかった! とりあえずあいつ傷がやばいからどうにかしないと……」
「……放っておいてくださいっ。こんな傷……貴方方に頼らずとも治りますよ…」
そう言ってセンチェルスは部屋の隅に座り込み傷口を手で抑えながら浅い呼吸を繰り返す。
大丈夫か……と心配そうに近づくカケルに来ないでください!と怒鳴りつけ遠ざけた。
飯作ってくるとセフィとカケルは部屋から出ていき、再び一人になったセンチェルスはその場に倒れ意識を失った。
暫くして夕飯ができたのか呼びにきたカケルの焦ったような声に目を覚ますと今にも泣きそうな彼の顔があって。
大丈夫か、大丈夫かと揺する手を退けて起き上がると大丈夫ですとだけ答えた。
「えっと……センチェルス……だっけ……? お前……。飯、できたから呼んでこいって……」
「貴方たちが作った料理なんて食べられるわけがないでしょう……? いいからほっといてください。構わないでください。いらぬお節介です、とっとと消えなさい」
「でもよ……」
「いいから消えなさい!! 貴方たちの料理なんて食べたくないんですよ!!」
「ご、ごめん……っ」
そう怒鳴りつけるとカケルはいそいそと部屋を出ていく。
そんな彼を見送り痛みをこらえるように蹲るセンチェルス。
暫くして寝る支度が済んだカケルが戻ってきてベッドに入り床で蹲るセンチェルスに大丈夫か…?と声をかけるも苦しそうな息遣いしか聞こえてくることはなくて。
構うなと言われても心配になるカケルは恐る恐るセンチェルスに近づくがその気配に気づいた彼に睨まれ無言の圧力に押しとどまってしまう。
「なぁ……床で寝てると体痛めるから……ベッド使えよ……。な……? オレ、床で寝るからさ。その方がお前も楽だろ……?」
「構うなと……言ったはず、ですよ……っ。人間に……同情されるなんて、御免です……」
「でもお前めっちゃ苦しそうだし……。傷口は塞がったみたいだけど……」
「……っ」
「なぁ……」
「私に触るな……!!」
パシっと自分に触れようとしたカケルの手を払い除けじっと警戒するように睨む。
そんな様子を見てカケルは辛かったら言ってな……とベットに戻り眠りについた。
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