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ぼくは常々思うことがある。普段、テレビでのび太をいじめるジャイアンはいけ好かない本当に嫌な奴だが、毎年春に公開される映画に出てくるジャイアンは、友情に熱く男気のある本当にいい奴なんだ。映画のジャイアンは、きっと自分のTシャツの背を汚したことがあるのだと思う。
「七海の親父さんも相変わらず、まざりっけなしの博多んもんよね」
「おまけに七海にも殴られるばい」
大輔はおどけてみせる。
「親父さんゆずりやけん。お前、このままだとずっと尻にしかられっぱなしやな」
冗談めかしたつもりが、声がぎこちなくなった。大輔は大きくため息をついてみせる。そのため息がぼくの胸を塞ぐ。
「はあ、太一はええよ。東京にはええ女がいっぱいおると。俺や友則はこの町に居残りばい」
「――まだ、入試に受かると気まっとらん」
「お前なら受かようや」
そう言って大輔はぼくの青いケツは叩いた。
ぼくは来年になればこの博多の町を出て行くだろう。櫛田神社を背にし、大博通りを跨ぎ、博多小学校の運動場を今日しかっり見ておこうと思う。本番の追い山では、きっと見ている暇なんてない。群集の波が博多の町を覆い尽くしてしまう。
沿道から勢い水が撒きあがった。日差しに水の匂いがまざる。ぼくは黒く染まったずぶ濡れのアスファルトをぐっと踏みしめた。
◇
昨晩、追善山(ついぜんやま)の直会の後、ぼくと大輔、七海の三人でひと気のない商店街を歩いていた。
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