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追い山馴らしを翌日に控え、早い時間に手一本で締められた直会の後も、ぼくらは何となく帰る気になれず、隠れて酒を飲んでいたのだ。
「未成年者に酒を飲ませても、よかとですかぁ」
とか何とか言いながら、直会の最中から町総代にちゃっかり酒を貰っていた調子のよい大輔は、ほろ酔いの千鳥足でぼくらの前を歩いている。山笠の直中、規制されているのをよいことに、通りのない車道の真ん中をかっ歩した。
山を舁いた後の痺れるような身体の疲れ、酔いと胸の高鳴りで足が地についていなかった。いや、地に足がつかないのも胸が高鳴るのも、理由はもっと不明瞭だった。
山笠が終われば直に夏休みだ。受験勉強で忙しくなるだろう。きっとあっという間に夏は終わり、気がつけば紅白歌合戦を見ながら年を越しているに違いない。取り返しのつかないくらいに時間は猛スピードで過ぎ去っていく。それなのにぼくらは将来にまだ何の決心もついていなかった。町の静けさがぼくらの口数を減らしていた。
七海はぼくと並び、明かりの途絶えた商店街を気のない様子で眺めていた。道路の何処かで地虫が鳴いている。つられて見た『うた声喫茶 歌多来』という場末のバーの煤けたネオン看板がひび割れていた。
「祝いめでたぁの、若松さまあよぉ」
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