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急に七海が歌いだした。あっけにとられたぼくのことなどお構いなしに、大輔は面白がって手を入れ先を引き継いだ。
「若松さまよぉ、枝も栄ゆりゃ葉も茂る」
大輔の拍子はずれのだみ声が心地よく、ぼくも自然と先をつないだ。
三人で声を合わせる。
「えいしょおえっ、えいしょおえっ、しょおえーしょおえー」
『祝いめでた』は博多の町に歌い継がれる祝い歌だ。一丁前に歌えんと恥ずかしゅうて結婚式にも出れんと言われてぼくらは育った。
その祝いめでたを追山馴らしの前日、その年に亡くなったのぼせもんの家の前で大合唱する。追善山と呼ばれる由縁だ。
のぼせもん達の嗄れた声、濡れた手拍子。ぼくらを見下ろす山飾り。この日の追善山では、ぼくも友則の家の前で腹に力を入れて歌った。
開け広げられた米屋の店先。祭壇の前でしゃっちょこばっているであろう友則の姿は男達の肩に遮られ見えなかった。人々の隙間から友則のおばさんの姿だけがちらちらと見えた。
祝い節が男達のひしめく狭い路地に朗々と響いていた。
「七海は、母ちゃんの死んだときかこと覚えとぉと?」
「覚えとらんよ……なしてそんなこと聞くとよ」
「いや、なんとなし。友則、今何やっとぉかなって」
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