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尻をパンパンと叩いて大輔が走り出した。ぼくと七海に「逃げろ、逃げろ」と笑う。不安そうな顔でおっさんを振り返り気にしていた七海も、大輔の様子に呆れて言う。
「女って損とよねえ。あんたら見とぉとそういう気のする」
ついたため息に追善山で見た友則のおばさんを思い返す。友則の父も根かっらののぼせもんだった。親子二代ののぼせもんを支えていた快活な米屋のごりょんさんは、年寄りのように背をまげ、力なく香をつま先からこぼしていた。
「あたしも山を舁けたらなぁ」
そんな七海が、どこか頼りな気に思えた。吹けば飛んでしまう。そんな様では困る。七海はいつだって、ぼくらの前を颯爽と歩いていた。いつだって、ぼくらの尻を叩いてくれた。ぼくも七海のようにありたかった。そんな七海だから……だから、ぼくは大輔のことを諦める決心がついたんだ。諦めようと思えたんだ――。
「ほんなら舁けばよか」
「ちょ、ちょっと――」
ぼくは七海の腕をつかんで、先を行く大輔に追いつこうと走り出した。車道灯の発するオレンジ色の明かりを目指して、ぼくらは国道の真ん中をバカみたいに全速力で走った。
◇
かけ声とともに追い山馴らしが始まった。
「おいっさ、おいっさ、おいっさ、おいっさ……」
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