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男達の声がしだいに綾を成し、唸りはじめる。ぼくの喉から絞り出る声が輪郭を失い、大輔のかけ声になり、群集の声になり、追い山の流れそのものになる。熱にうなされていく。
土居通りを出発した山は、まず櫛田神社に入る。境内に立てられた旗を目指してなだれ込む。櫛田入りだ。そこで山は大きく回転し、博多の町へ繰り出す。最初の見せ場だった。
大輔がぼくの肩を叩いた。合図だ。本番の追い山では、到底櫛田入りにぼくらが入り込む余地はない。今日しかない。スクラムを組むようにして山を追い立て、後押しするのぼせもんの、男臭い中を縫うようにして山に近づいたぼくらは、機を覗っていた。
もみくちゃにされながら、舁き縄を腰から引き抜く。押し返され、それでもぼくは手を伸ばした。神輿の舁き木に触れた。濡れた木に手が滑る。
勢い水なのか、汗なのか、もう分からない。細かい水の粒が視界を覆い、指の先にあった舁き木を眩ませる。空に撒きあがった水が、重さを増して脳天を直撃した。熱にうなされた頭が一瞬冷える。視界が開ける。ぼくは確かに舁き縄をかけた。ぐっと手繰り、顎を引き、腰を入れた。頭からしたたる勢い水が、遅れてぼくの火照った腕を、太股を濡らした。
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