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肩に山の重みを感じる。近くで大輔の「おいっさ、おいっさ」とかけ声が聞こえる。大輔も担いでいる。喉をつぶして、ぼくもそれに答えた。重い。舁き木が肩に食い込む。木と水と汗の混じった匂い。誰かの体臭。これが博多の町の匂いだと思った。
遠心力を感じて、山がカーブに差しかかったのを知る。土埃が舞う。清道旗だ。でも、自分がどこをどう走っているのか分からない。肩の重みと、筋肉を揺らす振動、地下足袋を通して伝わる地面の感触が全てだった。
ぼくは声を裏返して叫んでいた――。
どれだけ走ったのだろう。腕を叩かれる。交代しろ、との合図だ。舁き木から身を離す。耳元でこれから担ごうという男の「おいっさ」とかけ声が響いた。
頭の芯が揺らいだ。山の驀進に巻き込まれぬよう、素早く逃げる。それらはほとんど無意識のうちだった。
徐々に走るスピードを緩めた。山から遠ざかる。担ぎ手を狙う勢い水は、もうぼくにはかからない。余った飛沫が、わずかに頬を濡らしていた。
山は国体道路に出ていこうとしていた。
熱から冷めたように頭の中がぼやけて、あれ? ここはどこだっけ……と場違いなことを思った。いったいこれから、何をどうすればいいのか。生まれたての赤ん坊のようにただ不安だけを感じた。
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