飛沫 - HIMATU -

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 土居通りの方からやってきたのは、七海の兄、清さんだった。舁き縄(かきなわ)を締め込みに挿し、赤い手拭いを首にひっかけている。赤手拭いは血気盛んなぼくらを嗜める、兄貴分である証だ。  友則が濡れてしまった白いワイシャツの裾をパタパタと仰ぎながら、 「こんにちは」  と首を突き出して挨拶をした。清さんが眉をひそめる。 「そうか、今年……友則は、山笠に出んとね」  昨年、晦日に友則は父を亡くした。  ぼくらは互いにそういう込み入った微妙な話をするのは苦手だ。後になって、末期癌の長い入院生活の末だと、母の噂話で知った。忙しない師走の日一日を乗り越え、短いようで長い一年が終わろうとする日に、プツリと何かが途切れるようにして、友則の父は逝ってしまったのだ。  ぼくはと言えば『紅白歌合戦』と『笑ってはいけない』を無闇に切り替え、見比べているさなかにその訃報を聞いた。一年という時間は、人によってどれだけ意味が違うものなのだろうか。  山笠は忌事を嫌う。山笠の神様、櫛田神社で忌除けを受ければよいと言うぼくらに、友則は「それでも何のあったら、自分のせいのような気のするけん。みんなに気もつかわせると」と、高校生活最後の山笠には出ないことを伝えてきた。 「友則が何いうとぉか。気色わる。大丈夫ばい、何もおこらん。心配しぃやなぁ」     
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