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と、いつになく真っ直ぐな友則の目をはぐらかそうとしたが、卒業後、実家の米屋継ぐことにしたとの呟きに、ぼくも大輔も口を閉じた。友則だって山を舁きたいに決まっている。それを知っていて、ぼくらは何と言えばよかったのだ。
集合場所に散っていた、地下足袋、はっぴ姿の男達が一箇所に集まりひしめき出す。いよいよという気配に、胸が押さえつけられる。大輔の顔を見た。腑抜けた不細工な顔が引き締まっている。
『いっちょやらかしたろうぜ』
そんな大輔の目に、ぼくは肯いた。
「そら、いくぞ」
清さんの背に続き歩きだしたぼくと大輔を、
「二人のかっこええとこ、清道旗で見よっとぉ!」
と言う七海の声と、
「足、もつれんなぁ!」
と友則の笑い声が押した。
太鼓の音が腹に響く。博多の町に、夏の始まりを告げる合図だった。
◇
博多祇園山笠は、博多の祭りの中でもいっちゃんわきあがる祭りだ。ぼくらはただ「やま」とか「やまがさ」と呼ぶ。
六月、櫛田神社の神庫から舁き棒(かきぼう)が一年ぶりに引き出される。ベイサイトプレイスの浜宮でくみあげた海水で洗い清めるためだ。こうして毎年、ぼくらの汗と博多の海の塩分が、いくら真水で流そうと棒の芯まで十分に沁み込んでいく。町中に男達が草履を踏む音が聞こえ始めるのもこの時期だ。ぼく達の尻もむずむずしてくる。
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