飛沫 - HIMATU -

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 舁き棒は台座に縄で締められる。釘は一切使わない。人形師の丹精込めた山飾りが括り付けられると、その出来栄えに皆の歓声があがる。こうして作られた神輿のことを、博多祇園山笠では「山」と呼ぶ。  七月、流舁き(ながれがき)から本番の追い山まで、一週間にわたって、博多の町を山が驀進し、勲しい男衆の姿が町に溢れかえる。歓声と怒声、唾が飛び交う。舁き手を景気づけるための「勢い水」が博多の町を濡らす。男達の肌と白い締め込み。夏日が眩しい。  山を舁き終われば、連日行われる直会(なおらい)で酒を酌み交わし汗を洗う。直会を裏で取り仕切るのは、「ごりょんさん」と呼ばれる男衆のカミさん達だ。旨い肴を作るのも、「もうそのぐらいにしとかんね」と言って酒を取りあげるのも、ごりょんさんの役目で、男衆も頭があがらない。  山笠で一番の功労者は、彼女達なのかもしれない。ごりょんさんがいるから男どもは安心して祭りにのめり込める。山が舁ける。博多の町では、祭りにのめり込む男達のことを「のぼせもん」と呼ぶ。博多の男は皆、山笠とごりょんさんに、のぼせているのだ。  山が動き、追い山馴らしのスタート地点である土居通りへ向かう。そこへ七つの流れが一同に集う。     
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