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ぼくらの山飾りは決闘巌流島だ。剣豪武蔵、小次郎の安否を町娘が見守る。そんな荒波を飾り付けた度派手な表飾りを見送り、ぼくらは後ろ飾りであるドラえもんを追って走っていた。山笠の神輿は、こんな風に表と裏で飾り付けが違う。
のび太の眼鏡を執拗に睨みつけながら走る大輔に声をかけた。
「そういやぁ、大輔、昔のび太って呼ばれとったな」
見なくてもわかる。大輔がこちらを睨んでいる。まだ並足のぼくらは、無駄口をたたく余裕があった。
「コンタクトにしたけん。もういうな」
大輔は思い出しくもないとため息をつく。
「いくら見送りいうても、しずかちゃんがタケコプターで飛んどうと気ぃぬけるな」
「子供へのサービスよ」
「飾りつけんとき、清さん、嬉しそうにドラえもん子供に見せとったばい」
「清さんとこ、生まれたばっかりやけん」
声を殺して笑った。ぼくらがガキの頃、七海の兄の清さんはパンチパーマで紫の特攻服を着ていた。その清さんは、今先頭を凛々しく走っているはずだ。人は親になるとこうも変わってしまうものなのだろうか。
ぼくらの前に小さなのぼせもんが躍り出た。
「おいっさ!」
と幼い声をあげ、バケツの水をぶちまけた。勢い余って、よろけている。
「父親になるって、どんな気しようとか?」
何とはなしに聞いてみた。
「知るか。来年のことだってようわからん」
大輔が大げさに肩をすくめてみせる。ぼくらは、ふと黙った。
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