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「勘弁してさ! 清さんから棟梁に知れたら、俺殴り殺されると」
気弱な声がのび太時代と重なった。ガキの頃、いじめられ半ベソをかいている大輔をかばってやっていたのは、いつも七海だった。ぼくは大抵おろおろと、友則が呼びに行った七海が現れるのを待っていた。大輔が殴られるのを見ていた。足蹴にされ、地面にゴミ屑のように丸くなった大輔。「あんたら、何やっとぉとっ!」七海の怒鳴り声が聞こえる。ぼくは、ホッとする。「うわ、男おんながきたばい!」いじめっこ達が逃げ出す。七海がぼくの横を駆け抜ける。風が吹く。運動場の土を蹴りあげ、浅黒く細い足が跳ねあがり、いじめっ子達を追いかけていく。その姿に見惚れる。遅れてやってきた友則に突かれて、ぼくは改めて大輔へ目を向ける。柄の曲がってしまった黒ぶち眼鏡を拾いあげたものの、真っ白なTシャツの背を靴跡で汚した大輔に、ぼくは近づくことが出来ないでいた。
そんなのび太も中学生になり、柔道を始めた。みるみる体格がよくなって、いつの間にかぼくや友則の背を追い越した。体格だけはジャイアンになってしまった。
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